教育

Vol:3「楽しく」「幸せを感じること」から取り入れる。フランスで学んだモノとの新しい向き合い方

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Vol:3「楽しく」「幸せを感じること」から取り入れる。フランスで学んだモノとの新しい向き合い方

2030年のゴールを目指し、17の分野別の目標と169項目のターゲットから設定された国連による持続可能な開発目標=SDGs。今回は、SDGsイベント「エシカルマーケット」等を手がける、フリーランスPRの鈴木有希さんと目標の12にある「つくる責任、つかう責任」について考えます。   フランスへの留学経験を持つ鈴木さんは、帰国後、フランスのオーガニックスキンケアブランドで働き始めました。そこは、オーガニック先進国フランスで誕生した、歴史と権威あるオーガニック組織“Nature et Progrès(ナチュール・エ・プログレ)”の会員に認定されているブランドで、大量生産をせず、人にも環境にも配慮した製品作りを徹底していたそう。仕事で出会ったエシカルな発想やビジネスに感銘を受け、これが自分の進むべき道だ、と昨年からフリーランスPRとして活動することを決心。無理せず、楽しみながら地球のことを考えたいという鈴木さん。その根底にはフランスで学んだ、「人の幸せは繋がりから生まれる」という発想にありました。 ――今から15年前。私はフランス・リヨンへ留学しました。初めて見るフランスの景色にとてもワクワクし、同時に豊かな人生を送るためのエッセンスを知りました。それは「人の幸せは繋がりから生まれる」ということでした。   それは一体どういう事なのか。市場=Marché(マルシェ)の例を挙げますね。フランスの日常生活に深く根付いているマルシェは、生産者と必ず会話をして買い物をします。勝手に取ってお金だけ払ってバイバイ、なんてことはできません。「Bonjour!(こんにちは)」「Comment ça va ?(元気?) 」という会話から、目当ての食材の美味しい食べ方まで教えてくれたりします(「このあと、一緒にランチでもどうだい!?」なんて冗談も飛び出すことも!)。客と生産者は対等な関係なので、とてもカジュアルな会話が生まれるんです。マルシェに買い物をしに行っているのに、お店の人と会話している時間の方が長いのでは? と思うことがあるほど。そして笑顔で「A bientôt (またね)!!」と後にするのです。   質問です。 スーパーで、一人黙々と品定めをして買う食材と、賑わったマルシェで生産者と会話して選ぶ食材、どちらの方が、心踊りますか? きっと、後者ですよね。それは単に「モノを買う・消費する」という行為よりも、そのモノを作ってくれた人と会話をしたり、そのコミュニティでの繋がりに価値を見出しているからなのだと思います。「繋がりを得て幸せであると感じること」。これがこれまでフランスと関わり私が学んだエシカル、サスティナブルのベースになっています。   私たちはこれまで、限りある資源を使い続け消費し続けてきました。その行為に、何の問題も感じなかったのは、その資源のストーリーを知る機会が少なく、繋がりを得ることができなかったし、何よりそのストーリーを知ろうとしなかったからではないでしょうか。だから商品を使い捨てることに対し、何も抵抗が無かったのだと思います。その使い捨てという行為に、何かが犠牲になっているかも知らず、崖っぷちに辿りついてしまったのが今なのでしょう。非常に危機感を覚える状況を迎えているのは事実ながら、けれど「絶対にオーガニックじゃないといけない!」とか「ペットボトルを買うなんて持ってのほか!」と急にエココンシャスなくらしと気持ちに舵を切ると、結果ばかりに目が行き「繋がり」から得られる「幸せ」や「楽しさ」を見失ってしまいます。   SDGsは排他的であってはいけないと、私は考えます。ここは私のイベント企画では最も重要視しているところ。誰も置いてきぼりにしない。それがSDGsの前身MDGsとの差です。右向け右ではなくて、自分自身が「幸せ」「心がワクワクする」と感じるストーリーを持つ商品やサービスを納得して生活に取り入れるだけでいいんです。自分が楽しくないと思うことは、無理しなくても大丈夫。他のことで、何か自分が出来ることを探せばいいだけです。サスティナブルは「持続可能な」という意味。私たちが環境のために持続できることを、まず取り入れ、続けることが大切だと思います。     鈴木さん提案:「楽しく」くらしに取り入れられる3つのサスティナアイテム   気軽に無理なく継続でき、楽しい。そんなサスティナライフを送るべく、鈴木さんがおすすめする、毎日の暮らしに役立つアイテム3つ。貴重な天然資源を守るために、日々の生活の中ですぐに取り入れられるのは、こんなこと。   1:〈aco wrap(アコラップ)〉 5色3サイズにて展開。 S 13cm /¥1,200、M 19cm /¥1,500、L33cm /¥2,650(aco wrap)まず、おすすめしてくれたのは、みつろうから作った天然ラップ。〈aco wrap(アコラップ)〉。 「オーガニックコットンの生地にミツバチの巣から採取したみつろうのオイルを染み込ませて作った天然素材の食品用ラップです。みつろうなのでちょっとペタッとしています。いいところは、陶器や木の器にもつきやすく密閉性が高いところ。また、みつろうとホホバオイルは抗菌性と天然の保存性があるので、そのまま野菜の切り口に巻いて保存も可能。食品をフレッシュなまま保てます。大きいサイズだと、形をお皿みたいにして、野菜くずをまとめて入れておき、ある程度たまったら、それで野菜スープを作ったりしています」。半年〜1年ほど洗って繰り返し使え、最後は土に還るそう。 こちらの天然ラップは、京都府亀岡市にある企業が手がけたもの。 「ヴィヴィッドなカラーの天然ラップが多いなか、〈aco wrap〉は植物や泥などから染めた自然の色味で展開されていて、そこも気に入っています。食卓にすごく馴染みます」ただし、こちらの天然ラップは、熱に弱いため、電子レンジや食洗機での使用はNG。「だから、プラスティックのラップを使うことももちろんあります。天然ラップを併用することで、プラスティックの使用頻度を下げる意識を持てればいいんじゃないかなと思います」。   2:〈LFCガーデニングセット〉 ガーデニングセット ¥3,480(LFCガーデニングセット/ローカルフードサイクリング TEL:092-402-1575)最近トライし始めたという、ビギナー向けコンポスト体験キット〈LFCガーデニングセット〉。1日300gの生ゴミを3週間投入すると、それが栄養価の高い堆肥へと変わる。堆肥ができたら、そのままプランターとなり、野菜を育てることができるという優れもの。 「手順も、生ごみを“入れる”“軽く混ぜる”“フタをする”のみで簡単。毎日捨てていた生ごみをコンポストに入れるために少し小さく切る。そうすることで、微生物が分解しやすくなる。そう思うと、切る作業も楽しく嬉しいものに。生ゴミを減らして、野菜を作る。そこで育てた野菜を食べ、そしてまたコンポストする……そんな食の循環を感じることができます。我が家も5歳の息子がいますが、子どもと一緒に学びながらできるのもいいですね」。   3:〈洗たくマグちゃん〉…

2020.06.29
Vol.2 生物学者:福岡伸一さん「新しい発想や発明には、常に芸術的創造力が必要なんです」

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Vol.2 生物学者:福岡伸一さん「新しい発想や発明には、常に芸術的創造力が必要なんです」

ベストセラーとなった『動的平衡』(木楽舎)をはじめ、「生命とは何か」をわかりやすく、目からウロコな発想と思考で解き明かし、幅広い層から人気を集める生物学者の福岡伸一さん。自身をナチュラリストと語り、少年時代から虫取り網片手に山川を駆け回る、根っからの昆虫少年だったというご自身の経験からもSTEAM教育の大切さを実感しているそう。フェルメール好きとしても知られる福岡さんに、今回は、STEAM(Science:科学、Technology:科学、Engineering:工学、Art:美術、Mathematics:数学))のAにあたるアートにスポットを当て、その重要性を訊いてみました。 ——そもそも理数系の教育に芸術系の発想は必要だと思われますか?   はい。そうですね、理数系の勉強には芸術の要素が、芸術の勉強には理数系の要素が必要だといつも感じています。私の専門分野である生物学では、細胞の内部構造や立体構造を考えるとき、空間把握的な感性が役立ちます。また、数学の証明や幾何学の問題を解くには、美的なセンスがヒントを与えてくれます。技術や工学にも、デザイン(かたちやバランス)の能力が大いに意味を持ちます。こういう感性やセンスはみんな芸術に親しみ、芸術の面白さを知るところからやってきます。逆に、優れた芸術、レオナルド・ダ・ヴィンチやフェルメールの作品には、理系的な視点が含まれています(遠近法や陰影の付け方、動きの捉え方など)。   ——アートの要素が加わることで理数系の発想により創造力がプラスされるということでしょうか。   学問や研究は新しいことを発見・発明することに意味があるので、それはすべて創造性が必要だと言えますが、創造性はいきなり発揮できず、すぐに身につくものでもありません。膨大な基礎学力の上で初めて発揮されます。なぜなら、何が既知で、何が未知か、知らないことには何も創造できないからです。しかも創造性とは、先人たちの達成の上に、ほんの少しだけ新しい展開を付け加えることに過ぎません。基礎的なことは無限に学ぶ必要があります。なので、いつも基礎勉強を大切にしています。だから、まずはそれぞれの分野の基礎学力をしっかり身につけることが必要だと思います。どうしても詰め込み教育や暗記の要素も出てくることになりますが、土台をつくるためには、どうしても必要です。芸術(アート)に関しても、美術史を学びや有名な絵画、作品を知る(鑑賞する)ことが重要だと思います。   ——具体的に、学生時代や子どものころにどんな芸術的発想と出会っていましたか?   私は、子どもの頃から、きれいな蝶やカミキリムシが大好きな昆虫少年でした。虫を採集したり、飼育したり、標本を作ったり、図鑑や参考文献を調べることによって、理系の勉強に必要な研究のセンスやプロセスを知らず知らずのうちに身につけ、それが生物学者のなるための基礎になりました。同時に、自然の作り出す美に親しむことによって、配色のセンス、造形美、バランスなどの審美眼、デザイン感性が身についたと思います。さらに、中高生になると、オランダの画家・デザイナーのM.C.エッシャーの不思議絵、だまし絵の世界にはまり、美術展やカタログを買って、作品に親しみました。エッシャーのテーマである平面充填(一定のタイル模様で平面を埋め尽くす)には数学的な解析や、結晶構造の研究などの背景があります。エッシャーの版画の中には、同じオランダの先輩にあたるフェルメールへのオマージュ作品もあり、オランダの美術史・科学史を知ることにもなりました。フェルメールは、17世紀の人で、同時代、同じ町にいた顕微鏡研究者レーウェンフックと交流があったとされているからです。このように知見と探求がどんどん広がっていきました。   福岡伸一的「10代におすすめのSTEAM的好奇心を刺激する3冊」   ①「時間は存在しない」 著/カルロ・ロヴェッリ 訳/冨永星(講談社)

2020.06.23
『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』Black Lives Matter運動へと繋がる90年代の伝説
アシカとアザラシ、 ここで見分けよう
Vol.2 【後編】子どもの想像力を伸ばす学びとは?おうちでできるSTEAM教育

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Vol.2 【後編】子どもの想像力を伸ばす学びとは?おうちでできるSTEAM教育

【前編】「番組作り」に「科学実験」。今こそおうちでSTEAMな学びを体験!もチェック>> クリエイターや研究者の方々に、「自宅でできるSTEAMな学び」をお聞きしたシリーズ第2弾。今回もさまざまなヒントが寄せられました。 【CASE4】子どもは好きなことなら、どんどん学ぶ幼い頃からYouTubeなどに慣れ親しんでいる子どもたちにとって、動画作りはやはり人気な模様。武蔵大学 社会学部教授の庄司昌彦さんのご家庭では、子どもたちにタブレットを渡したところ、知らぬ間にプログラミングアプリを学び、さらに使わなくなったビデオカメラを使って兄妹で動画編集を始めるようになったそう。   「簡単な編集アプリの使い方を少しだけ教えた結果、分からないことは自分たちで調べ、試行錯誤し、姉と弟で助け合って作品を作れるようになりました。その過程で、物語をつくることや、場面ごとに背景や小道具を工夫して撮影することなどを学んだようです」   さらに「好きなことは自分たちで調べてでも学ぶもの、と本人たちが気づいた」と庄司さんは言います。   そんな庄司家では、マンガ『はたらく細胞』が大人気。人体の細胞を擬人化した科学マンガで、TVアニメにもなった人気シリーズです。このキャラ設定が見事で、筆者も一度ドハマリしました。見えないウイルスを闇雲にこわがるよりも、まずは細胞への正しい知識を持って向き合ってみる。マンガからも、学びや新しい世界の発見を得る機会は十分にあると言えそうです。

2020.05.29
Vol.2 【前編】「番組作り」に「科学実験」。今こそおうちでSTEAMな学びを体験!

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Vol.2 【前編】「番組作り」に「科学実験」。今こそおうちでSTEAMな学びを体験!

「次に学校に行けるのはいつだろう…?」   新型コロナウイルスの影響で休校を余儀なくされる中、子どもも、家族も日々そう感じていることでしょう。最近では学校からプリントやオンライン教材が配られ、「なるべく時間割の通りに学習してください」と連絡があるところもしばしば。そうは言っても、と頭を抱える保護者の方々は多いかと思います。   「子どもだけでじっと座っていられない」 「どう勉強させていいか分からない」 「ふと気づけば毎日ゲームやYouTubeばかり、これでいいの?」   巷のSNSには、そんな声が溢れています。そもそも、学習って何なんでしょう? 与えられたドリルや課題をこなすことだけなのか。学校ってどんな場所だったのか。こんな状況だからこそ、「学び」を考え直すチャンスかもしれません。   科学やテクノロジー、そしてアートの思考や感性を育てる「STEAM教育」をご紹介する本連載。今回はクリエイターや研究者の方々が実践する、「自宅でできるSTEAMな学び」についてアンケートを実施。皆さんの自宅では、どんな学びが始まっているのでしょうか? 【CASE1】自宅でテレビ番組を制作!自身の肩書きを「勉強家」と名乗り、さまざまな学びを提案する「グリーンズの学校」学長の兼松佳宏さん。いま小1の長女とハマっているのは、「Eテレ5分番組」のような動画制作とのこと。   「ウクレレ、しりとり、大喜利など、家族それぞれの普段の遊びを活かしながら、そのコンテンツを番組風に仕立てた動画を家族限定で公開しています。ナレーション録音や動画編集など番組制作の裏側を一緒に体験。続けていくと、『次にどんな番組を作ろう?』という気持ちになってくる」と兼松さん。

2020.05.28
モッフモフの野生ネコ、 マヌルネコ
Vol:2マーベル作品から考察するSDGs。「最強ヴィラン“サノス”が実現した持続可能な新しき世界。その正しさと過ちとは?」

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Vol:2マーベル作品から考察するSDGs。「最強ヴィラン“サノス”が実現した持続可能な新しき世界。その正しさと過ちとは?」

2030年のゴールを目指し、17の分野別の目標と169項目のターゲットから設定された国連による持続可能な開発目標=SDGs。世界に暮らすあたらしい家族たちは、今、このSDGsにどう向き合って、何を考えているのだろう。今回は、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんが、新型コロナウィルスの世界的パンデミック下にある今こそ観返したい、スーパーヒーロー映画の中に込められたSDGsのメッセージを紐解く。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』より ©Marvel Studios 2019新型コロナウイルスの世界的パンデミック下にある日々において、昨年公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)のことを思い出した人は少なくないはずだ。2008年から始まったマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の22作目となる同作は、その1年前に公開された『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)の後編。主要となる舞台は、前編のラストでMCU史上最強の敵であるサノスによって全宇宙の人類が無作為に半分消された、その5年後の世界だ。大切な人を失った多くの人々はまだ深い哀しみに沈んでいて、道行く人もまばら。そんな気が抜けたような「5年後の地球」の姿は、世界中の各都市が続々とロックダウンしていった現在の地球の姿に、ちょっとギョッとするほどよく似ている。   10年以上にわたってMCU作品を追ってきた人ならばご存知のように、これまでMCU作品は政治、経済、科学技術、軍事問題、テロリズムなどなど、その時々の社会的なイシューを常に物語の題材として取り入れてきた。特に、当時大きな盛り上がりをみせていたブラック・ライブズ・マター運動と呼応した『ブラックパンサー』(2018年)、女性たちへのエンパワーメントをストレートにテーマにした『キャプテン・マーベル』(2018年)ではそれがピークに達し、それらの流れがすべて注ぎ込まれたのが『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』の2作だった。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』より ©Marvel Studios 2019劇中におけるアベンジャーズの面々は、スーパーヒーローたちを国連の管理下に置くというソコビア協定を巡る分裂を経て、『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』ではその協定を反故にしてサノスに立ち向かうために再び団結していくわけだが、作中では2015年9月に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17つの目標を連想させる描写を数多く見つけることができる。もちろん、それは偶然ではなく、MCUが描いているのは我々が生きているこの世界の並行世界であり、その作り手たちは常に「今の社会で何が起きているか」と「そこにどんなメッセージを込めるべきか」ということにアンテナを張り巡らせているからだ。もっとも、『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』でその目標の多くを実現しているかのように見えるのは、実はスーパーヒーローの側ではなく、ヴィラン(悪役)であるサノスの側なのだが。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』より ©Marvel Studios 2019・貧困をなくす–あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる ・飢餓をゼロに–飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する ・人や国の不平等をなくそう–各国内及び各国間の不平等を是正する ・住み続けられるまちづくりを–包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する ・つくる責任つかう責任–持続可能な生産消費形態を確保する ・気候変動に具体的な対策を–気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる ・海の豊かさを守ろう–持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。 ・陸の豊かさも守ろう–陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する   『エンドゲーム』の序盤のいくつかのシーンを簡単に検証するだけでも、サノスが実行した全人類無差別半減計画によって、以上の8項目が達成されている。象徴的なのは、人類同様に半減したスーパーヒーローたちをアベンジャーズ本部でなんとか繋ぎ止めているブラック・ウィドウに、生き残ったヒーローたちが現状報告をするシーンだ。アフリカプレートで起こった海底地震を報告するオコエは「正しい対処方法は、人間が何も対処しないことだ」と言う。キャプテン・アメリカは、人口が減ったことによって海の環境が大幅に改善されて、ニューヨークのハドソン川にクジラが現れた話をする(まるで、現在盛んに各国で報じられている、世界各都市のロックダウンが地球環境にもたらした一時的な改善のニュースのようだ)。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』より ©Marvel Studios 2019実は『エンドゲーム』が公開されてからしばらくして、監督のルッソ兄弟(の弟ジョー・ルッソ)は「サノスは気候変動と人類の地球資源濫用についての例え話」だとはっきりと明かしている(引用元)。その発言を引用してみよう。「サノスは気候変動と人類の地球資源濫用についての、薄いベールに包まれたある種の例え話です。この地球を受け継ぐことになるであろう子どもたちがいる自分にとって、それこそが不安の中心にあります。だからこそ、自分の映画には、自分たち自身や他人の間に論争を巻き起こすテーマを盛り込みたいのです。そして、それをスーパーヒーロー映画の中で語ることに意味があると思っています。もし、私がそうした問題についてのドキュメンタリーを作ったとしても、これほど多くの観客に届くことはないでしょう。『インフィニティ・ウォー』や『エンドゲーム』を観た人の中には、無意識のうちに環境や資源について何かをしなければならないと思った人がいるかもしれません」。   全人類無差別半減計画を実行した後のサノスが、宇宙の片隅にある星でたった一人、農作業に没頭しているのも示唆的だ。『インフィニティ・ウォー』でのサノスの目的は、宇宙を支配することではなく、自給自足によって人々が生活していた「持続可能な世界」に戻すことだった。その世界では、彼もまた一人の生活者でしかない。しかし、後にサノスは自身の理想とする世界が失敗であったことを知る。サノスは言う。「過去を知る者がいる限り、『新しい世界』を受け入れない者が必ずいる」。『エンドゲーム』で最終的にサノスが目指すのは、「反知性主義」、あるいは「歴史健忘症」とでも言うべき、人々の知識や教養の否定だった。SDGsの17つの目標でいうなら「質の高い教育をみんなにーーすべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」の否定である。そして言うまでもなく、サノスの独り善がりで暴力的な行為は、徹頭徹尾「平和と公正をすべての人にーー持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」にも思いっきり反している。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』より ©Marvel Studios 2019先日、世界的パンデミックの真っ只中でちょうど公開1周年を迎えた『エンドゲーム』。そのタイミングで、アメリカの有力映画メディアは「同作が記録した歴代世界最高興収記録は、もう二度と破られることはないだろう」(引用元)と報じた。確かに、今回の新型コロナウイルスのパンデミックは、各国で映画館が再開されてからも年単位での客足への悪影響が懸念されている。また、パンデミックの期間、アメリカでは多くの劇場公開予定作品がPVOD(特別価格でのオンデマンド配信)として公開されて、今後は新作映画の映画館と配信での同時リリース、さらには配信への段階的な移行への可能性が取り沙汰されている。そして、2022年7月までラインナップが発表されている今後のMCU作品の中に、これまでユニバース作品の中で最も安定して高い興収を記録してきた(スーパーヒーローが勢揃いする)『アベンジャーズ』シリーズの続編は予定されていない。おそらく、次の『アベンジャーズ』が公開されるのは2023年以降になるはずだが、その頃には映画を取り巻く環境が一変しているに違いない。   好むと好まざるとに関わらず、新型コロナウイルスのパンデミック以降、この地球は「新しい世界」へと移行していくだろう。それが「より良い世界」になるのか「より悪い世界」になるのかはまだわからないし、誰かにとって「より良い世界」は誰かにとって「より悪い世界」であるというのも世の常だが、映画界もまた、気候変動と地球資源濫用を重要なモチーフとして描いた『エンドゲーム』を最後の金字塔として、「新しい世界」へと入っていくことになる。 (左)「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー MovieNEX」4200円+税(ウォルト・ディズニー・ジャパン)、デジタル配信中。(右)「アベンジャーズ/エンドゲーム MovieNEX」4200円+税(ウォルト・ディズニー・ジャパン)、デジタル配信中。

2020.05.26
#stayhome中のイライラ対策に!  話題の絵本でアンガーマネジメントを学ぶ
Vol.1 川田十夢さん「STEAM教育は拡張現実的発想を救ってくれる」
「3分でわかる おうち遊び」美術館と全国のおもちゃコンサルタントがYouTube動画を配信中!

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「3分でわかる おうち遊び」美術館と全国のおもちゃコンサルタントがYouTube動画を配信中!

休校中の小学生と外出自粛によりお家で過ごすことの多い小さな子どもたちと保護者の「おうち遊び」をサポートするため、現在臨時休館中の〈東京おもちゃ美術館〉と、有志による全国のおもちゃコンサルタント※たちが「3分でわかる おうち遊びシリーズ」 として動画を制作、YouTube で毎日遊び方を紹介している。 この取り組みは美術館の臨時休館が始まった3月3日から配信がスタート。紙コップやタオル、食器洗いのスポンジなど身近にある材料を使ったもの、道具は使わず身体を動かすものなどシンプルなあそびは各家庭でのアレンジがしやすく、世代を問わないコミュニケーションツールとしても楽しめる。また、同内容のノーカット版の放送がケーブルテレビJ:COMにてスタートしているので、そちらも合わせてどうぞ。   ※おもちゃコンサルタントとは 日本で唯一の総合的なおもちゃの認定資格。30年以上の歴史をもち、認定者は全国に約6,000名。活躍の場は保育、おもちゃの製作・販売、小児病棟、高齢者福祉施設など多方面にわたり、赤ちゃんから高齢者まで、さまざまな世代の方へおもちゃ・遊びの力を届けている。 YouTube 〈遊びチャンネル 【公式】東京おもちゃ美術館〉

2020.05.18
今こそ、楽しくまじめに性教育を考えたい。セックスを自然科学として考えるQ&A本が登場
動物の赤ちゃんが成長する早さは?
Vol.1 話題のSTEAM教育って、そもそもなんだろう?
Vol:1マイバッグは「未来を見ているイケてる人!」の証。ロンドン最新サスティナ事情

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Vol:1マイバッグは「未来を見ているイケてる人!」の証。ロンドン最新サスティナ事情

2030年のゴールを目指し、17の分野別の目標と169項目のターゲットから設定された国連による持続可能な開発目標=SDGs。さて、世界に暮らすあたらしい家族たちは、今、このSDGsにどう向き合って、何を考えている? 今回は東ロンドンに暮らす家族が、スタイリッシュにして、スマートなサスティナ最前線をリポート。 東ロンドン、ハックニーにあるエコショップの店内イギリスはロンドンからこんにちは!一児の母、シホです。ここロンドンでは、環境に優しく、と言う意識がどんどん加速しています。   一番身近な物として私がいま挑戦しているのは、脱・使い捨てプラスチック。日本でも2020年7月1日からプラスチック製買物袋の有料化が始まりますね。こちらイギリスでは2015年より開始され、その後も更なる協議が重ねられています。   今では私もごく自然に持ち歩いているマイバッグですが、ロンドンの人たちのマイバッグへの意識は2015年よりもっと以前から高かったように思います。オーガニック食品を扱うお店やエコフレンドリーなショップも多く、サステナブルなことへの関心が高まる環境が自然と整っている印象です。

2020.04.01
〈アニエスベー〉親子で地球環境問題について考える「タラ号ポスターコンクール」開催!
【2021年入学】人気ランドセルを完全攻略!〜おしゃれブランド編
【2021年入学】人気ランドセルを完全攻略!〜工房ブランド編

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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】