Vol.3 自然と生命への深い洞察。マンガで学ぶSTEAMのススメ。【前編】もチェック>>
「これも学習マンガだ!」の選出作品を中心に、STEAMな学びにつながるマンガをおすすめするシリーズ第2弾。今回は宇宙テクノロジーからアート、文化まで幅広くご紹介します。
01. 『プラネテス』 宇宙の日常に近づく近未来
『ドラえもん』から『攻殻機動隊』まで、日本の生んだSF作品は科学技術のシーンに大きな影響を与えてきました。いま科学者やエンジニアとして活躍する人々の多くは、それぞれ愛読してきたSF作品があるといいます。20世紀のSFが彼らに夢とロマンを与えてきたのだとすれば、これからのSFはより身近でリアルな近未来像が思考を広げるかもしれない。『プラネテス』も約50年後の宇宙を舞台とするSFですが、その設定は現実的。宇宙飛行が今よりもっと簡単になった時代、主人公は宇宙空間を漂うゴミ(スペースデブリ)を回収し、重力変動による体調不良に悩むなど、「宇宙の日常」が描かれています。同時に巨大な宇宙船へのロマンも描く。これぞ21世紀の宇宙SFといえるでしょう。
02. 『ムーたち』 プログラミング思考に役立つ(かもしれない)
「想像だけで国内旅行をしたら?」「ボクがボクを見ている」「なにも考えない状態でいるのは1分持たない?」……。そんな問いを出し合う小学生・ムー夫と家族の、シュールな哲学マンガ。一見難しそうに思えても、なんだか分かった気になってしまう。そんな狐につままれたような奇妙さをマンガで体感できます。プログラミング的な思考とは「ものごとを実行する際にさまざまな順序やパターンを考えること」だと以前の記事で聞きましたが、ムー夫たちのロジカルな哲学思考に触れるうちに、読者にも立派な思考回路が育つかもしれません。
03. 『イムリ』 文明とは何かを鋭く問う
2つの惑星を舞台に、テクノロジーの発達した文明で人を支配する民族カーマ、古代からの知恵と呪術を守り続ける民族イムリ、そして奴隷となった民族イコルの対立を描く壮大な大河ロマン。この設定だけでも一晩語れそうですが、人類が築いた文明とはいかなるものなのか、人が技術と力を持つとは何かを真に問いかける哲学的作品。ウイルスや温暖化など、さらなる環境変動が迫る今こそ、子どもの頃から考えたい人類の問いに満ちています。
04. 『ちはやふる』 日本の古典が蘇る
STEAM教育のAは「ART」の頭文字ですが、ここからは日本の芸術・文化を学べるマンガをご紹介。映画化もされ大ヒットを飛ばす百人一首マンガ『ちはやふる』は、やはり必読。秒速で札を奪い合う「競技かるた」という聞きなれないジャンルを知ると同時に、後半に近づくにつれて高まる主人公たちの熱気と情熱に、毎回震えと号泣必至です。さらに本作の魅力は、百人一首という千年続く文化を「古典」に還元せず、主人公たちの学びを通して読者に瑞々しい出会いを与えてくれること。作者の「学び」に対する真摯な姿勢を、真正面から受け取れる作品です。
05. 『大奥』 江戸の美意識とジェンダーを同時に学ぶ
STEAM教育からは若干逸れますが、「日本文化の学び」という視点から読みたいのがこちら。TVドラマ・映画版も有名ですが、原作の美しい筆致はため息ものです。徳川幕府の権力者たちが全員女性の「男女逆転大奥」という設定で、江戸の歴史を描く斬新な発想力はまさに衝撃。本作で注目すべきは、洗練された線で描かれる江戸の多彩な装束や文化の様子。日本で最も文化が花開いた時代の、豊かな美意識を感じ取れます。と同時に、「子を産む存在である女性がトップに立つとは?」「男性がマイノリティに置かれるとは?」などジェンダー観を考えさせられる要素も。また作中のフィクションである伝染病・赤面疱瘡(あかづらほうそう)の撲滅に登場人物たちが奔走する様子は、コロナという時代を迎えた今、読み返すと感慨深いです。
06. 『BASARA』 生きることと日本文化の豊かさを知る
一度すべての文明が滅び、王族が支配する封建社会に逆戻りした日本で、主人公の更紗が全国各地の仲間を集め、革命を目指す大河ロマン。本作は筆者自身の座右の書でもあり、作品から得た格言は数え切れません。と同時に、日本各地の風土や文化、歴史も学びました。熊野の森が育む信仰、沖縄の政治観、東北の堅牢さ…。浅葱や蘇芳など日本古来の美しい色の名前を教えてくれたのも『BASARA』です。多くの読者が涙した名シーン、「己の道は己で決めよ」という言葉は、いまの社会や政治を考える上でも何度でも反芻したいメッセージです。
STEAMなマンガ10選、いかがだったでしょうか。「STEAM教育」というと、アメリカ由来の先端的教育がイメージされるかもしれませんが、こうしたマンガを並べてみると日本の中にもたくさんの豊かな学びがあることに気付かされます。「これも学習マンガだ!」には他にも素晴らしい作品が多数あるので、子どもと一緒に楽しんでみてくださいね。