DATE 2019.06.07

第30回: salvia デザイナー セキユリヲより
学校じゃない居場所もあるんだよって、早く伝えてあげたい。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。2月からは、人気絵本作家である〈tupera tupera〉の中川敦子さんとサルビアを主宰するデザイナーのセキユリヲさんによる往復書簡をお届けします。

セキユリヲさんから中川敦子さんへ。

 

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中川敦子さま

 

東京は気温急上昇の日があったりして、夏の気配むんむんです。京都も暑いのかな。
日が長いので、夕暮れにちょっとお散歩したりするのも楽しいです。活発で独立心旺盛な4歳の娘はいつの間にかキックボードをどこまでも行ってしまいそうなくらいのスピードでスイスイと乗りこなしています。だんだん小さくなる姿を見て「ああ、こうやってひとりでどんどん前に進んで行くんだろうな」と将来を思ったりします。

 

お手紙読んで、自分の思春期のことを振り返ってみました。自分の見た目や、人からどう見られるかが気になる年頃ですよね。私も、誰よりも早く雑誌を見て流行ってる服を着ようとしたり、お金がないから洋服の趣味の合う友達と服を貸し借りして遊びに行ったり、(今思えば)ヘンテコな格好をして出かけようとしたら父に「なんだそれは」と叱られて、ものすごく腹がたった記憶が鮮やかによみがえってきます。

 

自分と人との距離感とか、異性のこととか、親のこととか、将来のこととか、それまで体験したことのない初めて出会う感情がたくさんあって、なんだか抱えきれなくていつもモヤモヤしていました。中1の時に、好きだった男の子に彼女ができて「人生終わった」「もう死んでもいい」と本気で落ち込んだりとか(笑)、読んだ小説にすぐ影響されちゃったりとか。うーん、あれやこれや恥ずかしくて思い出したくないこともわんさか。けれどやっぱり「自分」を形成する大事な過程だったんだなあ、とも思います。娘さんもきっとものすごくいろんなことを感じながら今を生きているんだろうね。

 

さらにたどると、私は小3くらいまで、すごく人見知りが激しくて、クラスで一番おとなしい感じの子だったんです。幼稚園に送ってもらったあと、こっそり母のあとをついて家に帰って来ちゃったりとか、小学校も好きじゃなくて、病気のふりして休んだことも、水銀の体温計をゴシゴシしたことも、かなりの日数あります。これ!っていう原因はよく覚えていなくて、たぶん集団での生活が苦手だったんじゃないかな。幼稚園時代にみんなの輪の中に入れなかったコンプレックスがあって、「自分は友達ができない」みたいな気持ちを小学校まで持って行っちゃった、みたいな流れだったのかも。わりといつも「わたしはダメだ」と思っていました。

 

その後、4年生の時に父の仕事の都合で転勤することになったのですが、引越し先の小学校では転校生を歓迎するムードがあって。自分のいいところを認めてくれたり、褒めてくれる友達や大人が増えてきたりで、自信がついてきて、やっと「素の自分」が出せるようになったんだと思う。いつの間にか、クラス委員とか児童会の役員をグイグイやるような子に変貌していました。自分にとっては、あの時の環境の変化に感謝、ですね。

 

時は過ぎて、中学・高校・短大とそれなりに楽しんではいましたが「ここは天国じゃないか?」と思ったのは20歳で美術大学に入学した時のこと。やっとしっくりくる場所に来られた感じがしました。みんな自由な感じで、自分のやりたいものづくりをとことんやっていて。「自分の居場所ができた」と心から思えました。

 

学校って狭い世界だから、自分に合っていれば毎日が楽しいけど、逆の場合は本当につらいんだよね。今、学校があまり好きじゃないとか、学校に行くのが苦しい子もたくさんいると思うんだけど、外の世界は広いんだよ、学校じゃない居場所もあるんだよっていうことを早いうちから伝えてあげたい。

 

はじめに書いたうちの娘は、私の小さい頃とは真逆です。明るくて、勝ち気で、いつも感情をさらけ出してて、みんなを引っ張っていこうとするリーダーシップにあふれていて(でもまだまだ誰もついてきてくれないけどね!)、はち切れそうなくらいのパワーにみなぎっています。地味だった自分の幼少時代を思うと、うらやましいわー(笑)。いつまでもそのままでいてほしい!

 

前回のお手紙の「道具をすぐ使える場所に揃えておくこと」「材料を捨てずにとっておくこと」、納得です!これは、子どもでも大人でも同じだなあと思いました。何か行動を起こすときに「すぐできる」「やりやすい」っていうのはとても重要だよね。
空き箱とか捨ててしまいがちだけど、どうやってとっておくの? どんなふうに道具を揃えて、子どもが使えるようにしているのかな? とても気になります。

 

今、6月8日を目指して、近所のお母さんたちと一緒に地域の小さな公園で開く「代々木深町フカマルシェ」という食を中心にしたマーケットを立ち上げようと毎日奮闘しています。今の住まいにずいぶん長く住んでいますが、子どもがいなかった頃にはなかった「地域のつながり」がどんどん増えて行くのがうれしい。自分が住んでいる町をもっと好きになれるような、地域に根ざした活動も増やしていきたいなあと考えています。次のお手紙ではその報告もできるといいな。

 

ではまたね。

 

セキユリヲ

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次回更新は6/21(金)の予定です。絵本作家tupera tuperaの中川敦子さんからのお返事です。

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