女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。2月からは、人気絵本作家である〈tupera tupera〉の中川敦子さんとサルビアを主宰するデザイナーのセキユリヲさんによる往復書簡をお届けします。
セキユリヲさんから中川敦子さんへ。
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中川敦子さま
やなせたかし文化賞・大賞受賞おめでとうございます。なんてうれしいニュース!これからも子どもにも大人にも夢を届けてください。
春の京都、今年の桜も美しいでしょうね。毎日、鴨川を見て暮らせるなんて、夢のような環境だね。見える景色や空気感の違いで、東京に住んでいた頃と考え方やつくり方が変わったことはあるでしょうか?子どもたちの様子に変化はあったでしょうか?
今、私たちは、普段は東京の古いマンション、夏と冬などの長いお休みには北海道の一軒家、の2つの拠点で過ごしています。築50年くらいの北海道の家は、直しながら住んでいるので、毎日がキャンプのよう。はじめの1〜2年はカセットコンロで料理したり、洗濯機を借りに行ったり、外のお風呂に通ったり。4年目の今だって夏は大きな虻や蠅がブンブンしたり、冬は1日に何度も雪かきしないといけなかったり、決して便利ではないのだけど、「なんかちょっと足りない感じ」「いつだって家の中は工事中」「最低限あるもので暮らす」のが楽しいです。子どもと一緒に森のようちえんに通って虫を捕まえ、近所のおじいちゃんに採れたてきのこをごちそうしてもらい、顔がわかってもらえるお店ができていく中で、だんだん母子とも友達が増えていって、あたらしいコミュニティの仲間入りをしているところ。子どもがいると、地域にすんなり入っていけるような気がします。
北海道の自然はどの季節も美しくて、窓から遠くの山の景色を眺めているだけで心地よい時間が過ぎていきます。家の前に鹿やキツネが出てきたりもするの。カタツムリやミミズもびっくりするような大きさだしね。東京に戻ると、そんな日々のことを話しながら子どもが何枚も絵を描いて、テープで綴じてお話をつくって絵本にする、という遊びを楽しんだりしています。
東京では前回書いた自主保育の活動を中心に、北海道では大きな自然からの恵みをいただきながら、今は両方の暮らしを楽しんでいます。
そうそう、敦子さんのお手紙にあった「この計算覚えておいたら、生きて行くのにすっごい便利!」っていうお話に続いて。
最近「未来の理想の学校」を考えるとてもいい機会があって。立派な校舎は必要なくて、むしろパオのような、移設も簡単にできるような形態の帰る場所・ちょっとした荷物置き場があれば十分で、自分で考えた課題やテーマを、教えてもらいたい人に学びにいくような、毎日が課外授業のような小学校があったらいいな、と思ったんですよね。
課題って書くと大それた感じになるけど、例えばうちの子は「大きくなったらアイスクリーム屋さんをやりたい」って言っていて。それ、もしかして「大きくなるまで」待たなくてもできるんじゃないの?と思ったりして。
おいしいアイスクリームのつくり方や、材料を手に入れる方法、値段のつけ方なんかをいろんな人に教えてもらいに行って、日にちと場所を決めて、地域の人や友達に宣伝したり、看板描いたりして、1日限定のアイスクリーム屋さんをひらくの、楽しそうじゃありませんか?
あ、でもそれには、計算できないといけないんだけどね。というわけで、「この計算覚えておいたら、生きて行くのにすっごい便利!」と教えていただきたいのだわ(笑)。
夢を夢で終わらせずにどんどん実現していける小学校や中学校、できたらなあと妄想はふくらみます。
敦子さんの「理想の学校」、もしもなにか頭に浮かんだら教えてね。今まで子どもたちとの面白いワークショップなどの経験を積み重ねてきている2人だからこそできる「tupera tuperaの学校」、おもしろいと思うなあ。
あたらしい先生、あたらしい友達。新学期はちょっとせわしないかもしれないけど、敦子さんのペースで春を楽しんでください。ではまたね。
セキユリヲ
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次回更新は4/19(金)の予定です。絵本作家tupera tuperaの中川敦子さんからのお返事です。