セミの幼虫は土の中に何年いる?
卵から1年がかりで誕生
梅雨が明けると、本格的な夏の到来。セミたちの声がいっせいに賑やかになってきます。この時期になると、公園や街路樹などでセミの抜け殻などを目にすることも多いでしょう。
さなぎにならない昆虫は、基本的に幼虫と成虫が同じような姿をしています。バッタやコオロギ、カマキリなどがそうですね。
しかし、同じようにさなぎにならないセミ(やトンボ)は、幼虫と成虫で生活スタイルが大きく異なるためでしょうか、あまり姿が似た印象を受けないかもしれません。
セミは夏の間に枯れ木などに産卵管を突き刺して卵を産み付けますが、卵は1年近く孵化(ふか)しません。すぐに孵化して幼虫になるのかと思いきや、意外ですよね。
そして翌年の初夏に孵化した幼虫は、地上に降りると土を掘って潜っていきます。
セミの成虫は口吻(こうふん)を樹皮に突き刺して樹液を吸いますが、幼虫は木の根にとりついて汁を吸います。
木の根の汁は栄養が少ないため、幼虫はあまり動かずに、長い時間をかけて成長していくのです。
幼虫は地中で7年過ごす?
「セミの幼虫は土の中で7年を過ごし、地上に出てくるとわずか1週間で死ぬ……」という話を聞いたことのある人は多いかもしれません。
しかし、実際に土の中で7年も過ごすセミは日本にはおらず、ツクツクボウシで1〜2年、アブラゼミで3〜4年、クマゼミで4〜5年くらいのようです。
ただしセミは飼育するのが難しいため、生活史が完全には解明されておらず、生息環境によっても幼虫期間が変わることが知られています。謎の多い昆虫でもあるのですね。
いずれにしても、地中で幼虫として過ごす期間のほうが圧倒的に長いのは確かと言えそうです。
土壌生物としてのセミの幼虫
セミが幼虫として過ごす期間は成虫よりもずっと長く、その間は土の中で過ごしています。セミの幼虫を土壌生物としてとらえると、根食者(Root grazer)というグループに分けることができます。
この根食者は、植物の根を食べたり汁を吸ったりする者を指し、他にはケラやコガネムシなどの甲虫類の幼虫などがいます。植物の根は、地中に多く存在する有機物であると言えるのです。
これら根食者の中には、セミの幼虫のように汁を吸うのではなく、根を切り取ってしまう昆虫も多く、植物にも大きな影響を与えています。植物を枯死させることもあるため、農業害虫とされるものもいます。
またセミの幼虫も汁を吸うタイプとはいえ、過去には地中にアブラゼミの幼虫が多くなり、リンゴ園で果樹の生育に影響を与えた例もあります。
わたしたちの目に見えないところで、セミたちと植物の攻防が日夜繰り広げられているのかもしれません。
地中には想像以上の世界が
これら根食者のバイオマス量*1 は、土壌の中においてかなり多いと考えられています。
*1 バイオマス量
特定の地域に生息する生物の総量を指す、生態学の用語。動植物を、乾燥重量で計測あるいは推計して数値化したり、総エネルギー量で換算したりする。バイオマス、生物現存量、生物量。
セミの幼虫は、その多くがモグラなどをはじめとした捕食者によって食べられたり、地上に出てからも鳥に食べられたりするなどして、成虫になることができるのは、地中にいる幼虫のうちのごく一部。
夏のシーズンになると地上でもたくさんのセミを目にすることができますが、地中にはそれよりもはるかに多くの幼虫が潜んでいるのですね。
そう考えると、土の中にはもう一つの世界が広がっているような気がしてきませんか。そして、そこは観察のしづらさから研究が進んでいない、未知の世界とも言えるのです。
この夏は成虫の鳴き声に耳を傾けると同時に、足下にある世界の大きさにも、思いを馳(は)せてみてはいかがでしょうか。