アイスランド発。少年2人の愛情と絆を描いた美しき青春映画『ハートストーン』
多様性が求められる今の時代。“ LGBT ”(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った総称)をテーマにした映画『ムーンライト』がアカデミー賞作品賞を授賞し、時代は変わりつつあることを肌で感じた。それに続くように、アイスランドから届いた青春映画『ハートストーン』が公開される。壮大なアイスランドの自然の中、思春期の少年たちが繰り広げる物語は、美しく、はかなく、せつなさも100%。心のうつろいを丁寧に切り取った今作に注目が集まっている。
主人公は、東アイスランドの小さな漁村に住む少年ソールとクリスティアン。思春期にさしかかった二人は、体の変化、大人びた同級生の少女たちが気になる目まぐるしい日々を過ごしていた。
ソールは美しい母と二人の姉、自由奔放なラケル、画家志望のハフディスと4人で暮らしている。若い彼女を作って出て行ってしまった父の存在は、互いに触れないようにしていた。クリスティアンは、暴力的な父と従順な母との3人暮らしだ。
ソールは美少女ベータの存在が気にはなっているが、なかなか行動に移せない。クリスティアンは、そんなソールの気持ちをくみ取り、うまくいくように後押しする。クリスティアンもベータの友人ハンスから好意をもたれ、4人は自然と行動を一緒にするようになった。
ソールとベータの距離が縮まっていくのを、クリスティアンは見守っていた。しかし自分の中に芽生える不思議な気持ちに気づき、どうしたら良いか悩む。
ある日、ソールの姉たちが開いたホームパーティで、姉ハフディスが、ソールとクリスティアンをモデルにして描いた、2人が半裸で寄り添う絵をみんなに見られてしまう。友人たちは騒然となり、ホームパーティはお開きになった。
クリスティアンのぎこちない様子を見たソールは、「普通にしてくれよ、そうしたら元に戻れる」とクリスティアンに言って立ち去る。思い詰めたクリスティアンは、ある行動を起こしてしまう。
誰もが経験したことのある、思春期のせつなく、はかない恋心。しかしそれは、必ずしも異性に対するものとは限らない。背が伸びる、体毛が生える、声が変わるなど、同性の予想外の変化にも正直どぎまぎするのが本音だ。それが憧れになったり、恋愛感情へと発展する人もいるかもしれない。
今作で描かれている少年たちの心の揺らぎは、水彩の絵の具が、じわりじわりとにじんでいくような、とても繊細でおだやかなもの。素のような表情や澄んだ瞳、自然体の動きからかもし出される心の機微は、美しく、そしてたまらなくせつない。親友だった2人が近づいたり離れたり、そして再び寄り添っていく姿が涙を誘う。
映画館でぜひチェックして欲しいのが、アイスランドの自然の美しさと厳しさ。劇中で描かれているのは夏のシーズンで、強い日差しとともに、森や草が豊かに生い茂り、澄みきった豊かな海がたゆたう。しかし夏が終わりを迎える頃には、雨や雪が降り、薄暗くくすんだ世界に一変する。圧倒的な自然の存在感に言葉を失うほどだ。季節や環境の厳しさに、田舎ならではの固執した概念や古い慣習も通じている。そんな状況で2人の物語は、どんな結末を迎えるのか。
作品の冒頭とラストに、象徴的なシーンがある。子どもたちが釣りをしていると、醜い魚カサゴが釣れる。それを蹴り殺そうとする友人を、ソールが止めに入る。ラストでは、カサゴを釣った少年が海へリリースする。「醜いもの、異なるものも受け入れること」、それは多様性、“ LGBT ”にも他ならない。
現代を生きる親として、“ LGBT ”を知り、多様性を受け入れるということは、ひとつの重要な課題である。まずはアイスランドから届いた、この美しい映画から感じてみるのもよいかもしれない。