DATE 2016.12.07

アート・アニメーション界の神様、ノルシュテイン作品が一挙公開

ロシアのアニメーションと言えば、『チェブラーシカ』『ミトン』が有名だが、もう1人忘れてはいけない人物がいる。アニメーション界の神様と言われる、ユーリー・ノルシュテインだ。

切り絵を用いた詩情的、哀愁ただよう世界観。1シーンごとの美しさ、緻密なアートとも言える完成度の高さは、世界中のアニメーターからリスペクトされる偉大な存在である。ノルシュテイン生誕75周年を記念して、彼の代表作をHD画質にデジタルリマスター、驚きの画質と音質でよみがえった作品がまとめて上映される。

『ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映 〜アニメーションの神様、その美しき世界〜』では、6作品を上映。監督デビュー作となる『25日・最初の日』、ロシア聖像画の手法を用いた『ケルジェネツの闘い』、初の動物キャラクターが登場した『キツネとウサギ』、ロマンチックで幻想的な『アオサギとツル』、世界中で愛される入門的代表作『霧の中のハリネズミ』、そしてノルシュテイン最高傑作と名高い『話の話』。これらから、親子で楽しめる3作をピックアップして紹介したい。

一作目は、『キツネとウサギ』。同名のロシア民話から生まれたこの作品は、はじめから「子どものための作品」として作られたため、同じリズムで刻まれるストーリーが絵本のように分かりやすく、まさに初心者向き。キツネに家を乗っ取られたウサギが、オオカミ、くま、牛に協力を得て、家を取り戻そうするが失敗。最後の砦として登場したオスのニワトリが、意外な活躍を見せ、見事に家を取り戻す。ロシア雑貨のような鮮やかでぬくもりのある色彩、伝統的な様式「ガラジェッツ絵画」のデザインを取り入れ、ユーモアたっぷりのストーリーに彩りを添える。動物たちのとぼけた表情とシュールな動きに、子どもたちも釘付けになるはずだ。

二作目は、『アオサギとツル』。お互いに惹かれ合う2羽の鳥が結婚の申し込みをし合うが、なぜか相手に言い寄られると天邪鬼な態度を取ってしまう。よくある恋愛のすれ違い模様を、幻想的な色彩でポエティックに描く。他のどの作品よりも明るく軽快で、ロマンチックなのがこの作品の特徴。2羽の揺れ動く微細な心理に、見ている側も思わずエールを送りたくなる。ノルシュテインと撮影監督が好きな日本の浮世絵や水墨画に着想を得たという、草むらや雨の描写にも注目したい。

三作目の『霧の中のハリネズミ』は、世界で最も愛されるノルシュテインの入門的代表作。ハリネズミのヨージックが、友だちのクマに会いに行く道中を描く。霧の中で迷ったヨージックは、ミミズク、馬、蛍、犬、魚など、さまざまな生き物に出会うが、果たしてこれは夢か現実か。誰もが幼い頃に感じた、暗闇や孤独、得体の知れないものへの恐怖。そんな心の機微を実に見事に表現している。水中をのぞきこんだり、空を見上げたり、さまざまな角度からの描写も独創的でおもしろい。たった10分の短い作品といえ、それ以上の深い余韻と感動を呼び起こす作品と言える。

映画館でチェックすべきポイントは、本上映のために修復したという映像と音。オリジナルネガから2Kスキャニングされたデータをロシアから取り寄せ、修復、色調整を行い、2K修復版を制作。音声は、磁気テープからデジタル化、音響エンジニアのオノセイゲン氏が修復・リマスタリングを担当。映像と音声、これまでにない美しさで魅せるノルシュテインの作品たちを、ぜひ劇場で観てほしい。

アニメーションと言えば、今はCGが全盛の時代。しかし、セル画を使ったものや人形を動かすもの、粘土を使ったクレイアニメなど、さまざまな種類があり、それぞれ違った良さやおもしろさがある。またアートと考えると、そのレベルに到達するものはごくわずかだろう。

ノルシュテインの作品は、アニメーションでありアートである。 “アートの入り口”として親子で楽しむにはうってつけだ。アートは、観て何かを学ぶことが重要でなく、ただ観て感じるだけでいい。「かわいい」「怖い」「不思議」「きれい」。多様な作品や感性を知ることに意味があり、楽しみがあるのだ。ノルシュテイン作品を通じて、人生の多様な楽しみ、価値観、そして感性を育むアートとの出合いを楽しんでみてはどうだろう。

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】