DATE 2020.12.29

映画『ソウルフル・ワールド』をもっと深く楽しむために。ピクサー作品が大人も子どももワクワクさせる理由(前編)

2020年12月25日にディズニープラスで配信リリースとなったディズニー&ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』。おもちゃや頭の中の世界を描いてきたピクサーがたどり着いたのはどんな世界なのか? そのヒストリーからピクサーの魅力が明らかになる。
(C)2020 Disney/Pixar.

ディズニー&ピクサーの作品といえばファミリーで観たい映画の大定番。『トイ・ストーリー』から25年の間、大人も子どもも魅了し続けるパワーはどこにあるのだろう? 新型コロナウィルスの影響で、最新作『ソウルフル・ワールド』はディズニープラスでの配信のみとなり、映画館で観られないことを残念に思っている人も少なくないのではないだろうか。そこでおうちでのシネマ観賞をもっと深く豊かなものにするために映画ジャーナリストの立田敦子さんが特別寄稿。大人から子どもまで、観る人全てをワクワクさせるピクサーマジックはどこから来るのか? そして『ソウルフル・ワールド』の見所は? 前編の今回は、ピクサーの歴史を紐解き、そのマジックの源泉を辿ります。

 

 

 

ピクサー・アニメが全世代に刺さる理由

 

2019年までに公開された21作品中10作品がアカデミー賞長編アニメーションを受賞するなど高いクオリティを誇るピクサー・アニメーション・スタジオ(以下、ピクサー)。世界初のフルCGアニメーション『トイ・ストーリー』を世に送り出してから25年、なぜこんなにもピクサー・アニメが愛され続けるのか? コロナ禍によって劇場公開が見送られた最新作『ソウルフル・ワールド』の配信リリースに際して、その魅力に迫ってみたい。

 

 

 

ピクサー・アニメの特徴といえば、独創的な設定、個性豊かで魅力的なキャラクター、心の琴線に触れるストーリーが挙げられる。

“特徴”といったが、よくよく考えるとこれらは映画のヒットに直結する三種の神器のようなもの。どんなアニメーション・スタジオもクリエーターも喉から手が出るほど欲しい要素だ。では、どうやってピクサーがそれを可能にしているのか、その謎を解くにはピクサーの歴史を振り返るのが近道かもしれない。

 

『ルクソーJr.』ディズニープラスで配信中 © 2020 Disney/Pixar

ラセターが追求し続けた“娯楽性”

ピクサーは、そもそもコミック好きのひとりの男の情熱が起点になっている。その男の名前はジョン・ラセター。

好きなことでお金を稼げる夢のような仕事=アニメーション・クリエイターを目指して、カリフォルニア芸術大学(俗称カルアーツ)の映像学部アニメ課程の第一期生となったラセターは、在学中にスチューデント・アカデミー・アワードを2度受賞した。

受賞のインタビューでラセターは、成功のコツはなにかという問いに、「娯楽性だ」と答えている。「価値ある娯楽作品はみんなが見たがるはず」。20歳そこそこの青年の信念は、やがてピクサー作品の軸にもなった。

 

『ティン・トイ』ディズニープラスで配信中 © 2020 Disney/Pixar

ルーカス、ジョブズとの出会い

大学を卒業したラセターは、アニメの殿堂ディズニーに入社した。

当時はアニメーションの停滞期で、ラセターはコンピューターを駆使したCGアニメーションに未来を感じ、開発に勤しんだ。

だが、コンピューターに仕事を奪われることを危惧した社内のアーティストたちから猛反発をくらいプロジェクトは頓挫し解雇される。

 

そんな彼が出会ったのがジョージ・ルーカスである。『スター・ウォーズ』のCGなどを担うためにルーカス・フィルムの子会社として立ち上げられたILM(インダストリアル・ライト&マジック ※ILMは今日でもハリウッド映画のCGやSFXなどの多くを担っている)にラセターは入社し、映像部門に配属される。しかしコストがかさむCGアニメ制作のハードルはやはり高く、ラセターが所属する部門はピクサー社として独立することとなる。

 

そんな“コストがかかる”新会社に1000万ドルの投資をしたのがスティーブ・ジョブズである。21歳でアップル社を創業しミリオネアとなったジョブズは、ちょうどアップルを解雇されたばかりだっだ(後にCEOに復職)。技術がアートを進化させることを確信していたジョブズの下、ピクサーは着実にキャリアを築き、1986年にはピクサーでの初作品でまたラセターの初監督作品である『ルクソーJr.』を制作した。電気スタンド、ルクソーとその子どものルクソーJr.がボールで戯れる短編CGアニメだ。ピクサーのロゴにも使用されている飛び跳ねる電気スタンドだが、“擬人化されたキャラクターに命を吹き込む”ピクサーの象徴的なキャラクターだ。

 

実際に、ディズニーと違い、ピクサー作品では主人公が人間であることは稀だが、それもラセターの趣味が影響しているといいだろう。

『トイ・ストーリー』ディズニープラスで配信中© 2020 Disney/Pixar
© 2020 Disney/Pixar

大人が本気でワクワクするアニメ『トイ・ストーリー』の誕生

さて、1988年、『ティン・トイ』で3DCG作品として初めてアカデミー短編アニメ賞を受賞したピクサーは、いよいよ長編に乗り出す。それが『トイ・ストーリー』だ。

 

主人公ウッディの声を演じたトム・ハンクスは、最初にまだ未完成のフッテージ映像を見せられた時、おもちゃである主人公の、まるで生きている人間のような動きに驚いたという。画期的なのは、アニメの“動き”だけではなかった。

 

物語は機転が効いていて、子どもっぽくなく、大人が見てもキレのいいストーリー。それが制作チームに突きつけられた要求だった。

 

ラセターを始め、ピクサーには多くの創造性の高いクリエーターたちが結集していたが、彼らは従来のように“子どものため”だけでなく、自分たち大人もワクワクするようなアニメを作ろうとしたのだ。

 

果たして、1995年にディズニー配給で公開された『トイ・ストーリー』は世界的に大ヒットを記録、“全世代向けアニメの一大叙事詩”として映画史に名を刻んだ。

その後も次々にヒット作を繰り出していくピクサーだが、特筆すべきはトップ・クリエーターだったラセターだけでなく、新しい監督も次々に起用したことである。

 

『モンスターズ・インク』(01年)ではピート・ドクター、『ファインディング・ニモ』(02年)ではアンドリュー・スタントン、『Mr.インクレディブル』(04年)ではブラッド・バード。

 

それぞれの監督がパーソナルな思いを注ぎ込むことによって、ピクサー作品に多様性が生まれ、観客は飽きることなく毎回新しい世界を楽しむことができるワケだ。

 

カリフォルニア州のサンフランシスコ郊外のエメリービルにあるピクサー・アニメーション・スタジオ本社にある初代CEOの名を冠したスティーブ・ジョブズ・ビルディングには、大人の遊び場のような自由な空気が満ちているというが、それも納得である。

 

【後編(12月30日掲載)】へ続く。映画『ソウルフル・ワールド』はファミリー向け作品となっているのか?レビューとともにお届けします

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