ソフィア・コッポラ最新作『オン・ザ・ロック』をFasuファミリーが見るべき理由
いまの時代だからこそ、胸に響く
ソフィア・コッポラは、自分の作品に反映させることをのぞいては、必要以上に私生活をさらけだそうとするタイプではないという印象があります。だからこそ、今回おどろくほど彼女に雰囲気のよく似たローラ(ラシダ・ジョーンズ)が、朝、子どもの髪を結んであげていたり、「早く歯を磨いて、お願いだから」と急かしていたり、まだ幼い下の子に手早く靴を履かせてあげたりするのを観ていると、ヴェールに包まれていたソフィアの日常風景を垣間見れたような気がして、のっけからうれしくなってしまいました。
脱ぎ履きしやすい「VANS」のスリッポン、シンプルなボーダーのトップス、デニムジャケット。Beastie BoysやTHE PARIS REVIEWのTシャツ、毛玉だらけのセーター、肩のところに穴が空いた服(これはこういうデザインなのかもしれないけど)。例を挙げればキリがない主人公ローラのリアルなスタイリングに共感しつつ、あ、「ストランド」のトートと合わせて普段使いするのは「シャネル」のバッグなんですね? いつもつけてるネックレスどこのだろ、あれ、腕にしているのはひょっとして子どもの作ったミサンガかな? などと画面に映る小物を見逃すまいと必死。インテリアにかんしても、玄関脇に子どものヘルメットやかばんを引っ掛けていたり、床におもちゃが散らばっていたり、クタクタにくたびれて寝ている横を「ルンバ」が周囲にガンガンぶつかりながら稼働しているのを観て、ああ、うちも同じよ、まったくそうだよ、これぞ幼児と暮らす生活よ! と愛しい気持ちで胸がいっぱいになります。
ローラは作家ですが、生活はすっかり家事育児中心、あいにく仕事もスランプの真っ最中。夫は優しいけど多忙で不在がち、さらには浮気の疑惑も急上昇。最高にモヤモヤしているthese daysなんですが、嫌なことがあってもぎりぎりまで堪えてしまう性格の彼女は、夫からの誕生日プレゼントが調理家電だったときも、うれしそうな顔をしてしまうのですね(調理家電に罪はありませんが)。
そんなローラに「彼を尾行すべきだ」とけしかけ、何を思ったか真っ赤なオープンカーで迎えに来たのが自由人の父親・フィリックス(ビル・マーレイ)! セミ・リタイアしたギャラリストの彼は、なるほど粋で遊び上手な初老の紳士ですが、女性と見ればすぐに声をかけ、思考回路はひと昔前のプレイボーイそのもの。あきれながらも強引な彼に振り回されるローラは、自分の娘たちには「女の髪は長いのがいい」なんて言うおじいちゃんの戯言には耳を貸さず、好きなように生きる人間になってほしいと願っています。とはいえ、天才ビル・マーレイが演じるこのフィリックスは、やっぱりかなりチャーミング。嫌いになれるわけがありません。どこにいても何をしていても楽しそうで、たとえ娘の窮地であろうとそれは同じ。『ロスト・イン・トランスレーション』以来のハマり役という声もあります。
さて「バングルは男性による女性の所有を表すんだ」という(これもどうかと思う)フィリックスのセリフがあるのですが、この作品ではほかにもあるものが父娘の関係のメタファーとなっているかも。そして長年のソフィア・ファンなら、最後に思わずツッコんでしまうシーンがあるかも?
『オン・ザ・ロック』を観ると愛おしい気持ちになれるのは、この映画が、父娘、夫婦、家族の関係をあたたかな目線で描いていることに加えて、今この時代に、いきいきとしたニューヨークの街を眺めることができるというのも大きいのではないでしょうか。レストランでの食事、夜のドライブ、マスクをつけずに人と会うことなど、なんでもない普通の日々がどれほど幸せなものであったかと気づかされ、今後この作品を見返すたびに、この奇妙な2020年のことも、あわせて思い出すのではないかなあと思っています。(aggiiiiiii)
これぞ『サムウェア』第二章? エル・ファニングがラシダ・ジョーンズになったら
かつての『サムウェア』では、父から娘への優しい眼差しを描いたソフィア。破天荒でプレイボーイなその父親と娘の日常を切り取ったストーリーには、自身の父フランシスフォード・コッポラとの幼少時代のエピソードのいくつかが盛り込まれ、エル・ファニング演じた娘のクレオに至っては自身をそのまま投影していると聞く。
ある意味、小説よりも(映画より?)奇なり。とも言えるソフィア自身の生い立ち。有名監督を父に持ちながら、華やかでいて決して平坦ではなかったであろう日々。その思い出を脚本で、そしてメガホンを持って丁寧に愛情を持ってすくい取っているからこそ、私小説のような『ロスト・イン・トランスレーション』も『サムウェア』も、人々の心に鮮やかな感情と柔らかな余韻をいつまでもそっと残してくれているのだろう。
『ブリングリング』『ビガイルド 欲望のめざめ』と、自身の家族を要素に感じることのない作品が続いたが、本作『オン・ザ・ロック』では、またしても自身を辿った旅、もしくは現在進行中の自身がこれでもかとリアルに描き出されている(と思っている)。ある意味これは『サムウェア』の数年後。確固たるキャリアを築き、結婚して家庭を持ったクレアが、LAのシャトー・マーモントを飛び出し、NYのアパートメントへと舞台を移した父と娘の後の物語……なのでは? というのが独断と偏見に満ちた私のレビューだ。合わせて、今見たい、もう一度見たい。明日も見たい。何度も見たい。も、同じくして私の感想である。
コメディでありながら、優しく力強く愛が脈打つNYで暮らす人々の何気ない日常やモーメントを描き出した本作は、ソフィア・ファンはもちろん、性別と年齢を超え、こんな時代を迎えた誰もの心をそっと温めてくれるストーリーに仕上がっている。
最後にアギー&Mから、ソフィア・マニアにおすすめポイントを。
1:WHO’S ラシダ・ジョーンズ?
クインシー・ジョーンズを父に持つ、女優でありながら、監督やプロデューサー業もこなすハーバード卒の44歳。かつて、マーク・ロンソンと婚約、第一子の父親でもある現パートナーが、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ(cool!)。ステラ・マッカートニーとも親交が深く、「メゾン キツネ」のパリジャンコレクションのアンバサダーに選ばれたことも。まさにソフィアならではのキャスティング!とアギーと納得。映画が終わる頃には、その魅力にとりつかれること間違いなし。
2:あのTシャツどこの? あのトートは? こだわりのママ&キッズファッション
小学校に通う長女を次女と送り迎えするシーンに始まり、仕事中のシーンに食事のシーン。NYに暮らすママのリアルすぎるカジュアルデイリーファッション(さらにはキッズファッションもインテリアも可愛すぎ)が参考になりすぎるので、ぜひメモを取りながら見て欲しい。絶妙な太さのゴールド喜平ネックレスや、ブレスの重ね付け、「VANS」のスリッポンに、「RODARTE」のRADARTEスウェット、玄関にかかっているトートって、多分フォートグリーンにある本屋「Greenlight Bookstore」のそれ。さらには、Beastie Boysに始まるロックTのセレクトまで、全てがこだわりの塊。あのシューズってアレ? あのニットってあのブランド? あのなんとかって? だよねだよね…..と、映画の後にものすごく盛り上がること間違いなし。ナチュラルにしてセンス抜群のヘアとメイクも必見!
3:あれ、その人……?
2020年2月のNYファッションウィークでは、ソフィアとスナップされた13歳の長女ロミー。….どうやら出てるらしいですね。ちらっと。そして、ソフィアと親交の深いデザイナー、アナ・スイ の姪も出てます。(アギー&M調べ)どこ、どのシーンで?は、見てからのお楽しみ。
(Editor M)