動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
子どもに本物のアートや文化財に触れる喜びを体験してほしい。
芸術・文化を通して多様な価値観に触れることで、大いに刺激を受け、自分なりの考えを持てるようになって欲しい。
そう願いミュージアムに連れ出しても、親の想いとは裏腹に子どもは飽きてしまうばかり……。
そんな子どもとのミュージアム体験の悩みに応えてくれるのが、今回ご紹介する「Museum Start あいうえの」(以後「あいうえの」)だ。
子どもたちは芸術、歴史、科学などの領域を横断しながら学ぶ中で、考える力や感性を磨き、さらにプログラムで出会う幅広い年齢の大人とのコミュニケーションを通して、対話力や主体的・探究的に学ぶ力も身につけることができるという。
「あいうえの」がデザインする、その多彩なプログラムの魅力とは。
博物館で自然標本を鑑賞後、藝大で絵具作り体験!施設をシームレスに体験するプログラム
「あいうえの」は、上野恩賜公園内にある「上野の森美術館」「恩賜上野動物園」「国立科学博物館」「国立国会図書館 国際子ども図書館」「国立西洋美術館」「東京都美術館」「東京国立博物館」「東京藝術大学」「東京文化会館」という9つの文化施設を舞台に、子どもも大人も誰もが楽しめる豊かな学びの場をデザインしている。
プログラムは、「ファミリー&ティーンズ・プログラム」「学校プログラム」、そしてさまざまな社会的状況にある子や多様な文化背景を持つ子を含む、あらゆる子どもを対象とした「ダイバーシティ・プログラム」の3種類を用意。一般の申し込みで参加できるのは「ファミリー&ティーンズ・プログラム」だ。
小学校1年生から高校3年生までを対象に、基本的には子どもと保護者のペア2人1組での参加となり、中学生以上はひとりでも参加できる。
「あいうえの」の活動拠点となる、東京都美術館のアートスタディールーム
「コロナ前は、2つ以上の館の特性を組み合わせるプログラムを開催していました。例えば2017年には、国立科学博物館×東京藝術大学×東京都美術館という組み合わせ。国立科学博物館で鉱物などの自然物の色を観察・スケッチしてから、東京藝術大学で絵具作りの体験をし、その後東京都美術館の『ゴッホ展 巡りゆく日本の夢』の絵画を鑑賞する、というプログラムを開催しました。
また、恩賜上野動物園×東京都美術館の組み合わせもありました。恩賜上野動物園の鳥の羽の色を観察したり、羽の標本に触ったりしてから、東京都美術館で『杉戸洋 とんぼとのりしろ』展を鑑賞。最後に、真っ白な鳥の羽にパステルで色付けをしながら想像上の鳥の羽を考える、という内容です。
これらのプログラムでは、『色』というテーマに基づいて丁寧に観察・鑑賞をし、造形的なワークショップ体験も取り入れています。ひとつのストーリーの中で複数のミュージアムを横断し、目も手も動かすことで、ものの見方が深まっていくようなプログラムを目指しています」
そう話すのはプロジェクト・マネジャーを務める東京藝術大学特任准教授の伊藤達矢さん。
コロナ以降は展示室に集まって活動することがなかなか難しいため、近代建築の巨匠・前川國男設計の東京都美術館を少人数のグループで巡りながら観察力を磨くプログラムや、オンラインでアート作品を対話しながら鑑賞した後、実際に上野公園のミュージアムを巡りリサーチする2ステップのプログラムなどを実施。密にならずに充実した内容を届けられるような工夫を凝らしている。
子どもたちの好奇心を刺激するさまざまな仕掛け
「あいうえの」のプログラムに参加すると必ずもらえるのが、特製ツール「ミュージアム・スタート・パック」 だ。中には9つの文化施設の魅力を紹介するガイドブックや、展示室でメモやスケッチをしたり、自由に記録を残すことができる「冒険ノート」、さらに親子で文化施設に行く際のヒントが満載の「活用ガイドブック」が入っている。このパックを持って各文化施設を回ると、9つのオリジナルバッジをもらえる仕組みも子どもたちに好評だ。
公式サイトから各プログラムに申し込んだら、いざミュージアムへ!
一般的な習い事やワークショップの場合、子どもたちが活動している間は保護者は外で時間を潰したり、見学したり……といった過ごし方が多いもの。しかし「あいうえの」では保護者対象のガイダンスなども行われており、大人も子どもと一緒に、芸術や文化への学びを深められるのが嬉しい。
「アート作品や文化財は“他者の考え”が投影されたものですから、それをよく観察することで、他者の価値観を深く理解する力を身につけられます」と話すのは、東京都美術館・学芸員の稲庭彩和子さん(2021年12月取材当時)。
さらに伊藤さんも、「これからの社会はより複雑になり、答えがひとつではない場面が増えていく。そういった多様性の時代を生き抜く上で重要になるのは、他者の価値観を知った上で自分の価値観を模索したり、異なる意見を交えながらお互い納得できるポイントを見つけたりすること。多様な価値観が交差するミュージアムは、そうした理解力を高めるのにうってつけの場所だと思います」と加える。
ミュージアムの文化財やサービスを自主的に活用する能力を意味する「ミュージアム・リテラシー」を学ぶ場であり、様々な価値観に対する理解を深める場でもある「あいうえの」。
「文化や芸術に触れるだけでなく、いま国際社会で課題となっているSDGsなど、様々な社会的事象を考える上でも関心を持つきっかけになります。『あいうえの』を通して参加者の皆さんに、ミュージアムで楽しく学ぶ経験をして欲しいんです」と稲庭さんは言う。
自分の意見が尊重されるという経験を、子どもたちに味わって欲しい
プログラムには多数の子どもたちが参加するが、「我が子が引っ込み思案で、自分の意見を言えるのか心配……」「アートや文化に対する知識が乏しい中で、本当に理解できる?」など、子どもたちが楽しめるか気がかりな保護者も多いだろう。
各プログラムでは、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)と呼ばれる大人たちが子どもたちに寄り添い、併走してくれるのでご安心を。アート・コミュニケータとは、東京都美術館と東京藝術大学の連携事業「とびらプロジェクト」に属し、アートを介したフラットなコミュニケーションについて考え、一緒に活動する大人たちのこと。”とびラー”という愛称には、「東京都美術館(とび)」と「新しい扉(とびら)を開く」という意味が込められている。
彼らは「あいうえの」のプログラムにおいて、子どもたちの話にじっくり耳を傾け、同じ目線に立って子どもたちに接する。子どもたち自身が主体的に学び、考えるようになる力を引き出す、頼れる存在だ。
伊藤さんは、「親子でミュージアムを訪れる際にも参考にして欲しいことなのですが、そもそも大人と子どもが最初から同じペースで作品を見ていこうとしたら、子どもは確実に飽きてしまいます。それよりも、子どもと大人が自由に展示を見て、各々が気に入ったものについて感じたことや考えを話し合ってみて欲しい。個々の考えに優劣はありませんし、ミュージアムは、社会的な立場の高低をフラットにできるコミュニケーションの場でもあります。その考えを大切にしているので、『あいうえの』に参加しているとびラーたちも、知識を教える立場ではなく、あくまで子どもたちの興味や考えを引き出す立場として存在しています。
普段『大人は自分よりも上の存在だ』と感じている子どもたちにとって、自分の感じたもの、考えたことが価値化され、周囲から尊重される体験って非常に大事だと思いますし、そういった経験を通して子どもたちは自分の意見を持つこと・伝えることの大切さを実感できるのではないでしょうか」とも。
なお、これまでプログラムに参加した子どもたちが作り上げた「みんなの冒険ノート」は、「あいうえの」のHPで公開中だ。これまでに約700もの投稿が公開されており、それを見ると子どもたちが何を感じ、何を学んだのか、その熱量や充実度が伝わってくる。2022年度のプログラムは2022年5〜6月頃にサイトで発表予定なので、そちらの情報もチェックのうえ、ぜひ応募してみてはいかがだろうか。
特徴
□ プログラムによって定員は異なる/オンライン・リアル併用
□ 無料(大人分の入館料・観覧料は別途)
□ 9つの文化施設を舞台に、たくさんの不思議や本物との出会いを探究するプログラムをはじめ、年度毎にいくつかのプログラムが用意され、随時募集がある
□ 小学1年生〜高校3年生が対象 (小学生は保護者と2人1組での参加)
1プログラムあたりの金額:¥0〜
参加方法:ウェブサイトの専用申込フォームより申し込む
※当日の開催場所・参加方法はプログラムごとに異なる(オンラインの場合はZoomにて開催)
運営:Museum Start あいうえの 運営チーム(東京都美術館×東京藝術大学)
公式サイト:https://museum-start.jp/