モノが生み出される過程に目を向け、モノの背景にあるストーリーに思いを寄せて、モノを買う。それを「ていねいな買い物」と名付け、長期にわたって学びの機会を提供する教育プログラム「ていねいな買い物教室」が、伊勢丹新宿店が展開する学びのプロジェクト〈cocoiku〉、岡山県の家具メーカー〈ようび〉、そして〈MilK JAPON〉の三社合同企画としてスタートしている。
2019年2月に実施される「学習机」「ファーストチェア」作りワークショップに先立ち、11月にふたつのプレイベント「Family Time Clockをつくろう!」と「高尾木こり体験」が実施された。その様子をお届けする。
※〈cocoiku〉会田大也 ×〈ようび〉大島正幸 ×〈MilK JAPON〉編集長・星本和容による鼎談(前・後編)
3歳児でもノコギリで木を切れた!「Family Time Clockをつくろう!」
11月10日(土)・11日(日)に行われたのは、3歳~小学6年生の子どもと保護者を対象にした、オリジナルの時計を作るワークショップ「Family Time Clockをつくろう!」。〈cocoiku〉の監修者・会田大也さんと、〈ようび〉の大島正幸さんがファシリテーターとなり、材料となるヒノキのこと、道具の使い方のコツなどを子どもたちに教えながらワークショップは進んだ。
まずは、黒板塗料を塗った、ヒノキの板を切るところから。保護者は基本的に見守るだけで、作業の中心は子どもたち。初めて手にするノコギリに最初は戸惑いを見せる子もいたが、コツを教わりながら何度かトライするうちに感覚を覚え、スムーズにノコギリが引けるように。「上手に引ければ、力はほとんどいらないから、3歳でも木が切れるんですよ」という大島さんの言葉通り、参加した3歳の男の子たちも一人でノコギリを扱うことができ、満足げな表情を浮かべていた。
材料を切り出したら、土台となる気をやすりで削ったり、トンカチを使って自分の名前や日付を、刻印として打ったり、いくつもの工程にチャレンジ。やすりをかけながら「いい匂い」とヒノキの香りを嗅ぎ、トンカチで刻印を打つ際は、打った時の音を聞き分けてできたかどうかを判別し、五感をフルに使って、時計作りを楽しんだ。
森のチカラ、森の大切さを肌で感じて「高尾木こり体験」
紅葉シーズンに差し掛かり、多くの登山客が高尾山を訪れた11月23日(金・祝)に行われたのは、「高尾木こり体験」。5歳~9歳までの子どもと保護者4組が参加した。高尾山口駅から高尾山へ登る人で混み合う道を少しそれ、3分ほど歩くと見えてくるのが「高尾599ミュージアム」。ここには、周辺の山に住む動物や植物などについての展示があり、山に入る前に山のことを知ることから、イベントはスタートした。
リアルな動物のはく製、さまざまな種類の虫や植物の標本などを見て、「こんなにたくさんの生き物がいるんだ」と驚いた様子の子どもたち。「これから行く山にもいるかな?」と期待に胸を膨らませる。
その後、恩方というエリアに移動し、この日の講師である木こりの三木一弥さん(森と踊る株式会社)に対面。高尾の山で、増えすぎてしまった木を切るなどして間伐し、木の適正な成長を促して山をきれいにするのが三木さんの仕事。40数年前に植えられてほったらかしになっていた恩方の山のひとつを再生すべく活動している。
イベントのメインは、三木さんが普段している伐木に挑戦すること。なかなかの重労働が予想されるため、「まずは腹ごしらえ!」と、森の中で昼食をとることに。澄んだ空気と木々の間から漏れる太陽の温かな光を浴びながら食べるご飯は格別で、子どもたちは早くも森の魅力に惹かれ始めた様子。
しっかり食べてパワーを蓄えた後は、伐木をするポイントまで移動。整備された道ではなく、まるでけもの道のような道なき道を、滑ったり、つまづいたり、駆け上ったりしながらたくましく進む子どもたち。大人が恐る恐る歩くようなところも、大胆に、果敢に突き進んでいくから、子どもたちの好奇心と適応力、身軽さはすごい。
ポイントに到着し、まずはどの木を切るのかを決める。どの木でも切っていいわけではなく、木と木の間の距離など、森全体のバランスを見て決めていく。次に、木を倒す方向を決める。今回は、山の斜面側に倒すことに。そしていよいよ、ノコギリを使った伐木がスタート。まずは、倒れる角度を決める「受け口」をつくるところから。三木さんの指導のもと、子どもたちは代わる代わるノコギリを握って、一生懸命に押したり引いたりを繰り返す。見た目は細い木だが、やってもやってもなかなか切り進めることができず、この仕事がどれだけ大変なものなのかを実感。
ようやく「受け口」ができたら、今度は反対側からノコギリの歯を入れて、「受け口」に向かって切っていく。ある程度まで切ったら、三木さんが大きなノミのような道具で「矢」を入れて、切り口をずらす。木が倒れるまであとひと息だ。ここからは、また子どもたちの出番。木にかけたロープを、力を合わせて引っ張り、『大きなカブ』のような要領で倒すのだ。何度目かの「せーのっ!」で、ミキミキッと音が鳴り、豪快に木が倒れると「わー!」と歓声が上がった。
子どもたちが「楽しかったー!」と一様に声を揃えたのはもちろん、保護者にとっても貴重な経験になったよう。
「危ないからと、家では包丁も握らせたことがなくて。でもノコギリを上手に使えていてびっくり」
「学校や家では『森に行ったつもりで考えてみよう!』ということが多いなか、こうして自分の足で本物の森を歩いて、木を切る体験をさせてあげられてよかった」
「自分自身も童心に帰って楽しめた。子どもと一緒だと避けてしまいがちな危険な道なども歩くことができてよかった」
「テーマパークに行って遊ぶのも楽しいけれど、こうして日本の、東京の中にある自然と触れ合って遊ぶのはまったく別の経験。価値のある時間だと思いました」と、大満足の声が届いた。
この豊かな自然は当たり前にあるものではなく、しかるべき手入れをし続けないと存続できないもの。その意義を子どもたちも大人も感じることができ、自分たちには何ができるのだろう?と考える時間にもなった。手入れをして、切り倒した木は、〈ようび〉のような家具の作り手によって新たな命が吹き込まれ、生まれ変わる。2月の「学習机」と「ファーストチェア」づくりのワークショップは、森を守り、木を生まれ変わらせるサイクルの尊さを実感してもらえる機会でもある。