DATE 2018.08.10

親子で家具作り「ていねいな買い物教室」―〈cocoiku〉会田大也 ×〈ようび〉大島正幸 ×〈MilK JAPON〉編集長 星本和容 鼎談(前編)

森を学び、木を知り、自分たちの手で家具をつくる。そんな「ていねいな買い物」を推奨し、長期にわたって学びの機会を提供する教育プログラム「ていねいな買い物教室」がスタートする。岡山県の家具メーカー〈ようび〉と伊勢丹新宿店が展開する学びのプロジェクト〈cocoiku〉、そして〈MilK JAPON〉の三社合同企画だ。学び、森、子どもと大人の関係。それぞれの思いが交錯した鼎談をレポート。

左から〈MilK JAPON〉編集長 星本和容、〈ようび〉大島正幸、〈cocoiku〉会田大也

モノの生まれた背景を知る

——まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。

 

〈cocoiku〉 会田大也(以下、会田):僕はミュージアムエデュケーションといって、美術館の教育普及の仕事を11年以上やっています。作品をどう見るかという環境そのものをつくる仕事です。特に、最近は「プロジェクト型学習」と呼ばれる、ゴールに向かうプロセスを自分で探しながら、学んでいくという学習法に取り組んでいます。ただ、なかなかそうした学習法は外から実態がわかりにくいんですよね。〈cocoiku〉でも、いわゆる習い事のような一方通行の学びではなくて、子ども自身が自ら何かを発見したり、つかみとったりできるようなプログラムを伊勢丹さんと話し合いながらつくっています。

 

大島正幸(以下、大島):〈ようび〉は、岡山県の西粟倉村を拠点にしています。人口1500人くらいの小さい村で、敷地面積の95%が森林です。映画『もののけ姫』の舞台を想像してもらうと近いですね。〈ようび〉では、「いろいろな課題を職能によって解決する」ことをテーマにしています。たとえば、日本の国土の66%は森林で、なおかつ戦後大量に植えられたスギとヒノキがそのほとんどを占めています。しかし、いま流通する木材の3割以上が輸入品で、使われることなく放置された森林がたくさんあります。そこで、ヒノキは木造建築には使えても家具づくりの事例が世界的にも少なかったことから、ヒノキ家具の開発に着手しました。研究を重ねた結果、〈ようび〉はヒノキで家具をつくるパイオニアと認められるようになったんです。

 

星本:〈MilK JAPON〉は「家族の美意識を育むメディア」をテーマに、子育て世代を中心にさまざまな情報を発信するライフスタイルマガジンです。共働きの方が多い時代、時間がない中で「どう子育てを楽しむか」ということを考えると、最近はますます「学び」が重要なトピックになっていると感じています。

 

——— 今回の「ていねいな買い物教室」では、秋から森や家具作りについて学ぶプログラムを経て、来年の2月にようびプロデュースの勉強机やファーストチェアを参加者の親子が自らつくるというものですね。なぜこのような企画になったのでしょうか?

 

大島:最近、社会的なスピードが速くなり過ぎて、結果しか見えなくなっていると思うんです。例えば、水が森からできていることをほとんどの人は意識しないし、どこからか勝手にモノがうまれてくるような感覚になっている。そうしたモノゴトのブラックボックス化から離れて、モノゴトの過程を知る、そこから楽しみを見つけるコツのようなものが一層重要な時代になっていると感じています。

 

星本:〈MilK JAPON〉で取り扱うファッションなどにしても、ただ単にモノを買うというより、それが何でできているかとか、モノの背景にあるストーリーや過程に意識が向いていますね。

教育という軸でも、過程を通じた学びを経てモノが手に入る経験はこの時代に大事だし、子どもがそれを体験することによって、将来何か作ろうとする時のきっかけになるかもしれない。また、親も子どもと一緒に学びたいと思っているのを感じます。

 

会田:僕も子どもができて、親になって分かったことや、初めて見えてくる風景がありました。「この子たちにつながる環境をどうつくっていけばいいのか」と、真面目に考えるようになって。さらに〈cocoiku〉の活動を通して、子どもと一緒に育っていく親の環境についても考えるようになりました。このプログラムでは、モノをつくる行為をきっかけに、その背景やモノ自体についてもっと深く知るという関わりを通じて、自分のまわりがちょっと豊かになったり、未来が想像しやすくなったりすればいいなと思います。また、以前から大島さんにいつかお声がけしたいと思っていたので、今回の企画が始まったのはすごく嬉しいです。

つくって、学ぶ。「買い育」の提案

——今回のプロジェクトにおける、ゴールのひとつは「学習机やファーストチェアをつくる」ことですよね。そこに至るまでにはどんなプログラムがあるのでしょうか?

 

会田:このプロジェクトのリサーチにあたって、〈ようび〉の工房を見学させてもらったり、奥多摩の森林組合の方にお話を伺ったり、実際に森で木を伐採するということを体験したのですが、行ってみてわかったことがたくさんあったんです。例えば、倒した木をその場ですぐに手ノコで切らせてもらったら、中には水が豊富に含まれていて、「シャク、シャク」とシャーベットのような切り心地がしたんです。そのとき初めて、木が水を吸い上げて、蒸散させて、それで空気中の湿気をキープしているというイメージを実感することができました。そうした森でしか得られない気づきを参加者の皆さんにも体験してもらうことで、木の机に向かうまでの豊かな物語を一人ひとりが編み出せるような状況を提案できればと思っています。

 

大島:「学習机」が今回の重要なポイントです。子どもって、机を買ってもらったからといって勉強するわけではないですよね、何かに興味を持った時からです。かつてヨーロッパを訪れたとき、「ファーストデスク=ファイナルデスク」といって、最初に買った机が最後まで使える机であるという考え方があるのを知りました。今回も同様に、これから子どもたちが、人生のため、自分のために好きなことを学んでいくとき、そのパートナーとなる机を「自分でつくった」という経験は大きいと思います。今回、そんな生産的な購入の一歩として「買い育」という言葉を提案してみたいです。買うことで子どもや親の興味が増えたり、知識が増えたりしていく。モノを「買う」から「関わる」へ変化していくと面白いですよね。

会田:つくるまでのプロセスも、組み立てキットを渡して手順通りに進むようなものではなく、子どもや親が自由に考えられる余地を残せるといいなと思います。なかなかそうしたプログラムを作るのは難しいのですが、逆に手間ひまかけてやっていく意義があると思いますね。

 

大島:子どもの頃、親の仕事の手伝いでコンクリートの型枠を組んだことがあるのですが、スピード勝負の仕事で、親からああやれ、こうやれ、と指示がたくさん飛んできました。「なんで? こっちのやり方でもいいじゃん」と思って手を抜くと、次の日答えが出ていて、僕がやったところだけコンクリートが失敗しているんですよ。その身をもって知る失敗って、いまはなかなか与えられない情報ですよね。成功するように丁寧に情報が与えられて、失敗を経験しない。

 

会田:いま、失敗が学べる環境って意外と少ないんですよね。自信をつけさせるために、成功体験を重視するのは理解できますが、それと同じくらい、失敗要因をしっかり理解して対策を練れる能力が大切な時代になっている。いまの大島さんの話だと、失敗の原因が自分でわかったのがすごいことで、「よく気付いたね」と褒められるべきことですよね。

 

星本:都会暮らしの親御さんたちは、「子どもに選択肢を与えるのは親の役目だ」と考える人が多くて、その結果、たくさんの習い事に子どもを連れていきます。まずはたくさんの種類を学んで、好きなことを発見して伸ばしてみようという考えがある。ただ、そのおかげでいまの子どもたちは習い事三昧ですごく忙しいんです。週末は週末で、都会に住んでいる分、自然体験をさせてあげようと躍起になって、一生懸命アウトドアとかキャンプに行くというモチベーションも強い。でもそれって、点でしかなくて、本当に必要なことを考える時間がなくなっているようにも思います。今回の企画や記事を読んでもらう方に、「学びのもつ奥深さ」を知ってもらうきっかけになるといいなと思っています。

 

会田:僕は〈cocoiku〉を通して、子どもの「創造性」についてずっと考えてきたんです。創造性って、絵を描いたりものづくりをしたりする以上に、「初めての状況に対してどう反応できるか」に尽きると思うんです。例えば毎日はんこを押すようなカタい仕事でも、常に新しい発見を見出せるような、または初めての状況にどう対応できるか、そこで問われるのが創造性ですよね。じっくりと、新たな気付きを促すプロジェクトに育っていくといいなと思います。

 

後編につづく)

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