01. ステラ マッカートニー|より良い未来をつくる、社会貢献に取り組むブランド
毎シーズンたくさんの新しい服が作られては、大量に破棄されるファッションの世界。イギリスを代表するブランド、〈ステラ マッカートニー(Stella McCartney)〉はそんな業界の現状を設立当初から問題視し、“エシカル”なファッションをいち早く取り入れたブランドだ。デザイナーのステラは、どんな信念を持って服作りに取り組んでいるのだろうか。
ファッション界の常識を覆す
ビートルズのポール・マッカートニーと、写真家であるリンダ・マッカートニーの次女として生まれたステラ。幼少の頃からファッションの世界に強い憧れを持ち、12 歳でデザインを始め、15 歳でクリスチャン・ラクロワの最初のクチュールコレクションの仕事を担当した。若くしてさまざまな経験を積み、2001 年に自身のブランド〈ステラ マッカートニー〉を始動した。
両親ともに厳格な菜食主義者であることもあり、ステラが自身のブランドで重視したのは、サステイナブルかつ、エシカルなラグジュアリーファッションへの挑戦。〈ステラ マッカートニー〉では、デザインにレザーやファーといった動物由来の素材を一切使用していない。「レザー=高級品」というイメージがまだ根強かった2001 年のブランド設立当初、その決断は異例中の異例。むしろ、レザーやファーを使用しないラグジュアリーブランドは存続不可能だとすら考えられていた。しかし、彼女は動物に苦痛を与えないレザー風素材の商品の開発によって、オルタナティブな道を自ら切り開いたのだ。
今でこそエコファーやフェイクレザーを取り扱うハイブランドも増えてきたが、当時のファッション業界では、サステナビリティに対する考え方がほとんど浸透していなかった。しかし、日々の環境保全や動物愛護のためにできることを模索し、素材開発にも多大なる時間や労力を費やしてきたことで、最近では徐々に認知が広がってきた。
素材選びから浮かぶ哲学
レザーのみならず、コットンやカシミア、ナイロンに至るまで、それぞれにリサイクル素材を用いるなど、随所でサステナビリティへのこだわりが見られる。T シャツ、デニム、シャツなどは、すべて認証済みのオーガニックコットンを使用している。オーガニックコットンの栽培は主に雨水を使用するため、通常の工程よりもはるかに使用水量を少なくできるほか、有害な化学肥料や化学薬品を使わず栽培することで、土壌を健康に保てるというメリットがある。少なくとも3 年以上、化学肥料を用いていない土壌の綿花を使用することで、生産者にも、土壌にも、地球にも優しい製品作りを心がけているそうだ。
また、高級素材であるカシミアのニットアイテムには、ヤギから直接毛を刈り取るヴァージンカシミアは一切使用せず、工場で発生する繊維クズをリサイクルした再生カシミアを使用している。1 枚のカシミアセーターを作るためには、ヤギ4 頭分の繊維が必要なことをご存じだろうか?近年は急増するカシミア需要に応えるため、農家がヤギの数を大量に増やしたことで発生する環境負荷が大きな問題になっている。ヤギが草を食べる際にひづめが地表に突き刺さり、草が生えにくくなってしまうのだ。かつて豊かな草原だった土地が、今では砂漠化の危機に瀕しているという状況から、〈ステラ マッカートニー〉では工場で発生する繊維クズという「廃棄物」のカシミアを新たな素材として再定義することで、カシミアヤギによる環境破壊を防ぎ、未来を守る支援をしている。それにより、カシミア使用にまつわる環境負荷を、なんと92%(*注)も削減することに成功している。再生カシミアの利用によって、不要な害を地球に与えることなく美しい高級品を作ることが可能だということを証明したのだ。
ファッション業界は他の業界に比べて、環境への意識が遅れていると各所で訴え続けてきたステラ。彼女は素材を集めて商品を作り、作っては廃棄するという従来のファッション業界の常識や価値観を覆してきた革命家ともいえるだろう。自らのポリシーを貫く姿勢は、業界人のみならず、消費者一人ひとりの意識をも変えていくだろう。これからも彼女の見せるクリエイションが楽しみだ。