Vol.3 明和電機:土佐信道さん「自分が欲しいものを考えて、どうすれば作れるか、その仕組みを考えてみよう」。
電子部品材を製造する工場だった親の代の屋号を使い、アートユニット〈明和電機〉を“設立”した、土佐信道さん。魚をモチーフにしたナンセンスマシーン「魚器シリーズ」や、音符の形をした電子楽器「オタマトーン」など機械工学と音楽、アートを軽やかに結びつけ、独自の表現を追求し続けている。モノ作りには、STEAM教育で得られる「ビジョンをアウトプットする手法」が役に立つと土佐さんは教えてくれました。
——明和電機さんの活動をみているとSTEAM教育の学びの要素は、大きな可能性を子どもたちに与えるものだと感じます。
基本のSTEM(科学・技術・工学・数学)は、仕組みを作ることを学べます。仕組みの面白さというのは、言葉やイデオロギーを超えて老若男女かつ世界中の人々に時代を超えて伝わります。そのシンプルさが面白いです。しかし、モノ作りに必要なのは総合力なんです。大事なことはビジョンとエンジニアリング(工学)。STEM教育に欠落しているのは、この総合的なビジョンです。だから、そこに芸術(ART)を加えることで、何を作るのかという本質的価値観が加わると思います。STEAM教育を通して、子どもたちは、ただ頭の中だけでイメージを思い浮かべるだけではなく、文章にしたり、絵にしたり、自分の頭の中のビジョンを目でみえる形にアウトプットする手法を学べるはずです。そこがすばらしいと思います。
——今の十代(中高生)たちにどのようにSTEAM教育に取り組んで欲しい、取り組むべきだと思われますか。
自分が一番欲しいものを考えて、実際に作ってみたらいいと思います。オモチャであれば、自分が一番遊びたいオモチャ、楽器であれば自分が一番演奏したい楽器を、誰かが遊んでいるから欲しい(チョイスする)のではなくメイクをすることだと思います。
——土佐さんご自身も自分でおもちゃを作っていたのですか?
そうですね。僕は小学校低学年のときに“うんこ製造機”を作りました。大型のマッチ箱のなかに、ゴムのリングと四角い粘土質の土を入れ、ゴムのリングに向かって粘土を押すと見事にヒビの入ったリアルなうんこ状の粘土が出てきました。また、高校生の頃になると、コンピューターミュージックにハマりました。中学時代はブラスバンドで打楽器を演奏して、工夫次第でどんなものでも楽器になる面白さを知った。そこからさらに、コンピューターを使い、自らプログラム音楽を作りその楽しさに夢中になりました。コンピューターミュージックは、感情をエンジニアリングによって理性的にコントロールするという音楽の作り方の面白さがあります。
ーー自分の欲しいもの、作りたいものを実際に作ってみるというのは、STEAM教育とは何なのかという根本を理解する、いいきっかけになりそうです。
そのためには、まずは、いろんなことに好奇心を持つことだと思います。そこで、大事になってくるのが経験です。僕のプログラミング音楽への傾倒だって、打楽器のフィジカルな体験がなければ、楽しめなかったと思います。釣りで例えると、まず魚を育てないと釣りはできません。それと同じで、遊んだり、作ったり、見たりして、自分の頭の中に餌をたくさん撒いて、魚を大きくしていくことが大切だと思います。
——最後に、10代におすすめのSTEAM的好奇心を刺激する3冊を教えてください。
①「愛蔵版 俺の考え ブームをつくる経営の秘密」
著/本田宗一郎(実業之日本社)
ホンダの創業者であり、発展の礎を築いた本田宗一郎が、経営の原点とその発想法を自ら熱く語る。その思想の原点に触れる1冊。「デザインと芸術は違うということを明確に教えてくれた本です」。
② 「田宮模型の仕事―木製モデルからミニ四駆まで」
著/田宮俊作(文藝春秋)
「ものづくりのマニアックさとビジネスとのバランスを教えてくれます」。戦車のプラモデルのために東西冷戦下のソ連大使館と直談判し、車の模型を作ろうと実物のポルシェを解体してしまう。模型にかけた田宮模型、現・社長の奮闘記。
いまはデジタルで複雑な機械の制御ができますが、コンピューターがなかった時代は、すべて機械の機構でさまざまな運動をおこなっていました。この本にはその要素がこれでもかと掲載されています。デジタルの時代だからこそ新鮮に思えます。