DATE 2020.06.23

Vol.2 生物学者:福岡伸一さん「新しい発想や発明には、常に芸術的創造力が必要なんです」

ベストセラーとなった『動的平衡』(木楽舎)をはじめ、「生命とは何か」をわかりやすく、目からウロコな発想と思考で解き明かし、幅広い層から人気を集める生物学者の福岡伸一さん。自身をナチュラリストと語り、少年時代から虫取り網片手に山川を駆け回る、根っからの昆虫少年だったというご自身の経験からもSTEAM教育の大切さを実感しているそう。フェルメール好きとしても知られる福岡さんに、今回は、STEAM(Science:科学、Technology:科学、Engineering:工学、Art:美術、Mathematics:数学))のAにあたるアートにスポットを当て、その重要性を訊いてみました。

——そもそも理数系の教育に芸術系の発想は必要だと思われますか?

 

はい。そうですね、理数系の勉強には芸術の要素が、芸術の勉強には理数系の要素が必要だといつも感じています。私の専門分野である生物学では、細胞の内部構造や立体構造を考えるとき、空間把握的な感性が役立ちます。また、数学の証明や幾何学の問題を解くには、美的なセンスがヒントを与えてくれます。技術や工学にも、デザイン(かたちやバランス)の能力が大いに意味を持ちます。こういう感性やセンスはみんな芸術に親しみ、芸術の面白さを知るところからやってきます。逆に、優れた芸術、レオナルド・ダ・ヴィンチやフェルメールの作品には、理系的な視点が含まれています(遠近法や陰影の付け方、動きの捉え方など)。

 

——アートの要素が加わることで理数系の発想により創造力がプラスされるということでしょうか。

 

学問や研究は新しいことを発見・発明することに意味があるので、それはすべて創造性が必要だと言えますが、創造性はいきなり発揮できず、すぐに身につくものでもありません。膨大な基礎学力の上で初めて発揮されます。なぜなら、何が既知で、何が未知か、知らないことには何も創造できないからです。しかも創造性とは、先人たちの達成の上に、ほんの少しだけ新しい展開を付け加えることに過ぎません。基礎的なことは無限に学ぶ必要があります。なので、いつも基礎勉強を大切にしています。だから、まずはそれぞれの分野の基礎学力をしっかり身につけることが必要だと思います。どうしても詰め込み教育や暗記の要素も出てくることになりますが、土台をつくるためには、どうしても必要です。芸術(アート)に関しても、美術史を学びや有名な絵画、作品を知る(鑑賞する)ことが重要だと思います。

 

——具体的に、学生時代や子どものころにどんな芸術的発想と出会っていましたか?

 

私は、子どもの頃から、きれいな蝶やカミキリムシが大好きな昆虫少年でした。虫を採集したり、飼育したり、標本を作ったり、図鑑や参考文献を調べることによって、理系の勉強に必要な研究のセンスやプロセスを知らず知らずのうちに身につけ、それが生物学者のなるための基礎になりました。同時に、自然の作り出す美に親しむことによって、配色のセンス、造形美、バランスなどの審美眼、デザイン感性が身についたと思います。さらに、中高生になると、オランダの画家・デザイナーのM.C.エッシャーの不思議絵、だまし絵の世界にはまり、美術展やカタログを買って、作品に親しみました。エッシャーのテーマである平面充填(一定のタイル模様で平面を埋め尽くす)には数学的な解析や、結晶構造の研究などの背景があります。エッシャーの版画の中には、同じオランダの先輩にあたるフェルメールへのオマージュ作品もあり、オランダの美術史・科学史を知ることにもなりました。フェルメールは、17世紀の人で、同時代、同じ町にいた顕微鏡研究者レーウェンフックと交流があったとされているからです。このように知見と探求がどんどん広がっていきました。

 

福岡伸一的「10代におすすめのSTEAM的好奇心を刺激する3冊」

 

①「時間は存在しない」

著/カルロ・ロヴェッリ 訳/冨永星(講談社)

時間とは何か?という壮大な問いを、哲学、数学、物理学、文学、芸術などから総合的な視点から解読していくスリリングな試み。著者は物理学者。

 

②「未来のルーシー -人間は動物にも植物にもなれる-」

著/中沢新一、山極寿一(青土社)

宗教、考古学、哲学、歴史など広範なフィールドワークをこなしてきた人類学者(中沢新一)と、アフリカのゴリラの生態を研究してきた、そして今は京大総長となった動物学者(山極寿一)の縦横無尽な対談。理系と文系のあいだ、科学と芸術のあいだに橋をかける。

 

③「生物と無生物のあいだ」

著/福岡伸一(講談社)

「時間とは何か?」と並ぶ、壮大な問い、「生命とは何か?」に対して、人間がどのように取り組んで来たのか、それを生物学的、文化史的に後付け、その上で、わたし(福岡伸一)自身の考え方を述べた本。誰にでもわかるよう平易に書くことを心がけたのでぜひ、中高生に読んでほしい。

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閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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