そんなふう 57
ヴェネツィアは7年ぶりだった。今回は打ち合わせだけだったので、少し余裕があり、仕事が終わってからも数日ミラノ在住の友人と一緒に過ごした。前回滞在したときも来てくれたのだけど、その時は彼女の娘がいまの自分の娘と近い年齢で、まだベビーカーが必要だった。この街は小さな橋がいくつもあり、車は走れないのでタクシーももちろんない。橋を渡る度にふたりでよいしょ、と言ってベビーカーを持ち上げて運んだことがいい思い出だ。何回も息を合わせて持ち上げたよね、つい最近のことみたいなのにね、と話して笑った。
うちの娘もまだ時々ベビーカーは使っている。とくに海外では時差ボケで昼間でも長いあいだ眠ってしまうこともあるので必要なのだが、今回は橋も多いしどうしよう、と夫に言うと、普通に歩けるし、おれが肩車するから大丈夫だよ、ということで持ってこなかった。結局自力ではほぼ歩いてくれず、すぐに疲れた、、と言って立ち止まってグズグズする。しょうがないのでわたしも時々おぶったりしたが、15キロを超える体重をいつまでも背負って歩けなかったので、結局夫に頼って肩車になる。滞在1日目ですっかり肩の上が定位置になり、時折夫の頭にしがみつきながら眠ったりもした。
小さい子連れにはゆったり散策できる街ではないけれど、人がやっとひとり通れるような石畳の小道を肩車で一緒に歩いた光景は、この街を思い出す度に蘇ってくるだろう。夫は疲れたことだろうが、それも含めていい思い出となった。