DATE 2019.09.27

そんなふう 56

小学生だった頃の自分は、夏が永遠に終わらないかのように長く感じていたが、大人になってからは逆に年々あっというまに過ぎ去って行くようだ。今年の夏は梅雨が長かったせいもあり、格別短く感じた。その上3歳の娘の成長ぶりを目の当たりにしていると、日々更新されることが多過ぎて数日前のこととは思えないほど時間経ったように感じることもある。しばらくはとれないんじゃないかと思っていたオムツも、保育所の先生から明日からパンツにしてみましょう、と言われ、とりあえずパンツを履かせてみた。数回失敗したけれど、それで学んだのか、その後は漏らすこともなくなった。すぐに慣れてオムツはいやがるようになり、夜おねしょをすることもなくあっけなくパンツに移行できた。もうオムツ替えのお世話ができなくなるのか、、と少しの寂しさを感じたが、なぜか今でも大だけは怖がってトイレで排便できない。パンツの中にしてしまった時、ほら、汚れちゃうからトイレでしようね、と言ったことを気にしているようで、トイレでも、パンツでもできなくなってしまった。すっかり苦手意識が根付いたようで我慢するようになってしまい、それでは身体にもよくないということで、おねしょパッドを使ってみたら、それで立ちながら用を足すようになった。そんな状況なので完全にオムツがとれたとは言えないのだが、それくらいの変化の方が、自分も伴走しやすい。それもそのうちに卒業できるのだろうと気楽に思うことにした。

 

お絵かきは殴り書きのような線の集合体しか描けなかったが、先日丸が描けた。それ何?と聞くと、あんぱんまん、と言う。おめめ、と言って丸の中にさらに二つ丸を書いた。絵らしいものが描けたのが嬉しいようで、何度もアンパンマンを描いていた。写真に撮られるのを嫌がるようになって顔を手で覆って隠したり、自分がiPhoneでメールチェックしていると、それけしてよ、いっしょにあそぼう、と言うようになった。そう言われるたびに自分のスマホ依存を指摘されているようで、なんだかバツが悪い。飛行機の離陸の際に必ず怖がって泣いていたのが平気になったし、海に連れて行ったら思いのほか大喜びして驚いた。普段は家の裏の川で水遊びすることが多いけど、物心ついてから海に入ったのは初めてで、怖がるかと思ったら、波の動きに自分が飲み込まれるのが楽しかったようだ。存分に楽しんでなかなか帰ろうとしなかった。

語彙も増えて数ヶ月前よりも随分と滑らかに会話できるようになった。先日トイレで用を足すときに便座に座らせてから少しの間その場を離れたら、ぽつりと「さみしい」と言って驚いた。どうしたの?ひとりじゃいやだった?と聞くと、「ひとりはさみしい」とか細い声でつぶやいた。さみしい、という感情の芽生えを初めて口にした瞬間にいま立ち会った、ということに込み上げてくるものがあり、便座から下ろしていつもより少し強めに抱きしめた。ひとりで在ることの寂しさをこの子も知ったのだな、と思うと感慨深かった。それからは自分が外出の準備をしているたびに、さみしい、と言うようになり、家を空けづらくなった。

 

初めて娘が口にした言葉は「きれい」だった。まだ授乳中で、授乳後に抱っこしている時、窓の外に雨粒が光っていた。それを見て自分が綺麗だね、と言ったら、真似をしてきれい、と言ったのだった。驚いて聞き返しても、それ以上はなにも言わなかった。そのときは意味がわからずただ真似をしただけなのだろうけど、初めての言葉が「きれい」だったことは、幸先がいいような、彼女の今後の人生をなにか綺麗なもので照らしてくれているような気がして嬉しかった。実際は綺麗なことだけではない世の中で、なるべくそちら側に目を向けてくれたら、と思ったことを覚えている。

BACKNUMBER 川内倫子 そんなふう
バックナンバー

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】