DATE 2019.05.31

そんなふう 52

真夏のような暑さが数日続いた5月の日曜日、友達家族が遊びに来たので家の裏で川遊びを楽しんだ。子供たちが成長したこともあり、いつもよりも上流の方へ向かって歩いたり、ひんやりと冷たい水の感触を楽しんだりした。しばらくすると、子供たちが遊び疲れてぐずり出したので、そろそろおうちに戻ろうか、と言ったとき、足元あたりに子亀が流されているのを見つけた。あ、亀!と同時に叫んだ夫がすばやく捕まえた。手のひらに収まるサイズの子亀に、子供たちも興味津々。川に戻すと水の流れに乗って流されたり、少し立ち止まってじっとしていたりするさまを見て、なんだか別れ難くなり、もう少し写真に撮ったり観察したいから、とりあえずうちに連れて帰ろうとバケツに入れた。

昼食を食べたりして子亀の存在を少しのあいだ忘れていたのだが、洗濯物を取り込もうとベランダに出たときにバケツのなかで動いている子亀を見てはっとした。西陽にあたって甲羅が少し乾いていた。すぐに水を取り替えて、写真に撮らせてもらう。夫の手の上で動いたり、バケツのなかで水に浸かったりしている様子を見ていると、だんだん愛おしさが増してきて、なんだかますます別れ難くなってきた。少しの間だけ飼わない?と夫に言ってみるが、それは自分のエゴだとわかっているので、うーん…でもなあ、と難色を示す夫の次の言葉をさえぎるように、そうだよね、可哀想だよね、と自分で自分に言い聞かせる。夫が子亀を川に戻しに行った後ろ姿を見ながら寂しい気持ちになったのは、娘の過ぎ去った赤ちゃん時代を思い出したせいもあるのかもしれない。子亀が夫の手のひらとバケツの中を行ったり来たりしているのを見ていると、娘が新生児の頃に沐浴していた姿と重なった。耳に水が入らないように、気をつけながら慣れない手つきで夫が世話をしていた様子を思い出したのだ。毎回沐浴するたびに、小さな手足をばたつかせ、じっとしなかったあの子と、バケツの中で外に出たそうにもがいている子亀は同じように小さくて壊れやすそうで、でも力強い生命力を放っていた。あの頃の娘の頭のサイズは、ちょうど夫の手のひらに収まるくらいだった。あの頃のあの子にはもう会えないから、せめて子亀を少しでも自分の近くに引き留めたい気持ちになってしまったのだった。

BACKNUMBER 川内倫子 そんなふう
バックナンバー

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】