DATE 2019.04.15

そんなふう 49

娘の成長は著しく、まさに目が離せない毎日だ。先週あたりからまた一段階話す言葉の語彙が増え、単語をうまく使って滑らかに話すようになってきた。いつも人形やぬいぐるみはもちろん、散歩中に見つけた花や落ち葉を拾っては、それらに向かってなにやら話しかけている。そして先週あった出来事をふと思い出しては反復して話している。足チックンしてえんえんしてバイキンマン食べたね、と言われた時はなにか作り話をしているのかと思ったけど、よく考えたら先日足に小さなトゲがささって泣いたときに、バイキンマンの形をしたグミをあげたのだった。大人は忘れていても、彼女はしっかり覚えている。

他者を労わる気持ちも芽生えてきていて、わたしがくしゃみをすると、だいじょうぶ?ティッシュいる?と言ってティッシュを一枚とって渡してくれたときは、小さく感動して、ありがたくそのティッシュで鼻をかんだ。部屋のなかで死んでいる小さな虫を見つけたとき、動かないね、かわいそうね、と言って人形用の布団に包んでしばらくずっと眺めていた。ご飯の準備をしていると一緒におりょうりする!と言い張って、洗面所に走っていき、自分専用の脚立を抱えて台所に持ってくる。作業台に手が届くようにセットすると、木べらで鍋の中身を混ぜたがってはらはらする。そのやる気に眩しさを感じるのだが、作業が進まないため、途中で諦めてもらってぬいぐるみとおもちゃのフライ返しを渡して、みんなにお料理つくってね、と言うと、また張り切ってぬいぐるみ相手にままごとを始めた。

朝起きるといつも夢のなかの出来事を話してくれる。さっき、こっしーと遊んでたの、こうちゃんもいたよ、と嬉しそうに話したりする。今朝の第一声は、はだかんぼうでお外走ったの!だった。寝起きとは思えないはっきりした力強い声で起こされた。起きてしばらくは夢の中と地続きなのだろう、立て続けに何やら話していた。彼女だけが持つ自分の世界がどんどん広がってきている。

またある日、夕暮れ時に公園に行くと、いつもよりも少し大きめの滑り台を滑れるようになったことが嬉しいらしく、何度も滑っては階段を登ることを繰り返していたが、途中、突然広場の方へ走り出し、空を仰ぎ見た。とくになにをするでもなく、しばらくそうやってひとり佇んでいる姿を見ていると、ある日の自分に重なった。暮れゆく空を見ながらひとり、公園で遊んでいた、あの頃。1日が終わることに対して幼心にも刹那さを感じ、肌寒くなってきたけどまだ帰りたくなくて、ただオレンジに染まっていく空を眺めた。娘もなにかをいま感じていて、自分なりの物語の世界にいるのだろう。そうやって1日が終わり、今日のことを片隅に記憶し、明日はまた新しい言葉を覚えるのだろう。

 

BACKNUMBER 川内倫子 そんなふう
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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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