DATE 2017.01.31

そんなふう 08

産後半年以上経過し、体調はすっかり元に戻ったように感じる。お酒を飲まないし、規則正しい生活だから、むしろ産前よりも調子がいいかもしれない。少しずつ仕事も増やしていて、先日出張で関西に行った際、久しぶりに会った知人に体調だいじょうぶですか?と聞かれ、ほぼ元に戻ったというと驚かれた。いま2歳くらいのお子さんがいる彼女は、自分はなかなか体調が戻らなくて大変でした、ということ。個人差があるのだなあ。振り返ると5ヶ月に入ったあたりはまだ疲れやすかったが、6ヶ月に入るとほぼ産前と変わらない体調に戻ったので、そのあたりが境目だったかもしれない。夜間の授乳回数も、まだ以前と変わらないので寝不足気味ではあるけれど、少し気持ちに余裕が出て来た。夫に子どもを預けて友人と夜食事に出かけたりもできるようになったりした。とはいえ、ある程度食事して近況報告が済むと自然と気持ちは急いて来る。あまり遅くならないうちに帰ろうと、後ろ髪をひかれながらお店を出て、急ぎ足で帰途につく。夜道を歩きながら、こんな気持ちで家に帰るのは高校生以来じゃないか、と気がついた。夫が疲れていないか、子どもがぐずっていないか、と思案しながら玄関の扉を開けるとき、門限をやぶってしまい、母にばれないようにそうっとドアノブを回す高校生の頃の自分と重なった。一人暮らしが長かった自分にとって、ああ、いま家族がいるんだな、としみじみ実感する瞬間だった。誰もいない部屋の扉を開けたときの薄暗くて動かない空気に、帰るたびにちょっと寂しい気持ちになったこと、それとは引き換えにいつまで夜遊びしてもいい自由があったこと。つい最近のことなのにもう過去のことだ。高校生のときに門限が嫌でしょうがなくて、早く自立して一人暮らしがしたいと思った時期ももちろん遠い過去だ。夢がかなって一人暮らしも満喫しすぎて、人がそれぞれの家族を持つ意味がやっとわかった頃、自分も家族を持った。体験しないとわからないことばかりだ。扉を開けると灯りのついた温かい部屋に、守りたい人たちがいることは、ひとりで背中を丸めてベッドで眠っている少しまえの自分にとってはありえない現実だったのだ。守りたい人がいるというのは生きるよすがになるけど、同時にとても怖いことだということを知った。子どもに、夫に、もしなにかあったら、と想像するだけで恐ろしい。こんなに怖い気持ちを皆抱えて生きているのかと思うと、世の中がいままでとは違った見え方がしてくる。高校生の頃、門限をやぶって遅くなった自分を心配して両親が探しに出てくれたことがある。自宅の通りのまえでお互い自転車で鉢合わせしたとき、心配と安堵が混ざった表情になった両親のあのときの顔が、いまになってありありと思い出させられるのだ。

BACKNUMBER 川内倫子 そんなふう
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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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