そんなふう 04
赤ちゃんは思った以上に爪が伸びるのが早い、と気がついたのは産後しばらくしてからだった。赤ちゃんが自分で自分の顔を引っ掻いてしまい、傷が絶えない日がしばらく続いたのだ。手袋がいると聞いてはいたけれど、こういうことなのかあ、と実感。防寒用ではなく、引っ掻き防止用に必要だということがやっとわかった。用意していなかったので購入することにしたのだが、とりいそぎうちにあるものでなにか、と探したところ、友人の子どものおさがりでいただいた防寒用の手袋を見つけた。まだ大きかったのだけど、とりあえずそれで間に合わせることにした。左手でしかひっかかなかったので左だけ、大きな厚手の手袋は不格好だけれど傷をつくるよりはまあ、いいかと数日それで過ごした。それを見て夫がおじいちゃんみたいだね、と言った。自分でもそう思っていたので、そうそう!と深くあいづちをうった。亡くなった祖父は晩年いつも左手に手袋をつけていた。長年の過労によってしびれがとれなくていつも痛がっていたのだけれど、手袋をつけることで痛みが和らぐということで亡くなる数年まえから日常的に左手に手袋をしていたのだ。夫は亡くなった後に出会ったので、残念ながら祖父には実際会っていないけど、写真に左手手袋の姿で写っていたのを見たのを覚えてくれていたのだ。手袋をつける理由は双方全然違うのだけど、左手だけに日常つけているという違和感が共通していたから、小さな手袋を見るたびに祖父のことを思い出していたのだ。生まれてすぐの期間に必要な手袋と、亡くなる数年まえに活用されていた手袋。同じものでも意味が随分違っていて、でもどちらもとても役立っている。お互いに会うことはできなかったけど、この子がもう少し大きくなったら手袋をつけた祖父の写真を見せようと思う。