Vol:4 子どもたちと海洋マイクロプラスチックについて考える。プロジェクト「OMNI」が拡げる可能性
普段の私たちの暮らしが、海とつながっていることを想像したことはあるでしょうか。食卓に上る海産物だけでなく、海の水が蒸発して雨となったり、川から流れたゴミが海にたどり着くこともあります。今回は、国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標=SDGsから、14番目の目標「海の豊かさを守ろう」に注目します。
海を取り巻く環境において特に近年注目されるのは、プラスチックゴミが粉々に分解されて海の中に滞留する「マイクロプラスチック」。それが海の生態系にどんな影響を及ぼすかは未知数で、いま世界中の研究者たちが研究に勤しんでいます。
「大規模海洋観測プロジェクトOMNI」もまた、東京大学の研究者たちが中心となって運営する海洋観測のプラットフォーム。マイクロプラスチックをはじめ、海水温や塩分濃度など海の中のさまざまなデータを計測するデバイスを開発・運用して研究に貢献するとともに、まだ知られていない海のことを一般の人々に広める活動も行っています。
東京大学生産技術研究所の「DLX Design Lab」はこれら「OMNI」に関わる海洋学の研究者たちと協働し、海洋マイクロプラスティックの問題を若い世代に学んでもらうためにワークショップ運営や学習ツールの開発などを、デザイナーと科学者の共創で進めています。今回は「DLX Design Lab」の左右田智美さんと木下晴之先生にお話を伺いました。
謎の多いマイクロプラスチックの世界
「海洋マイクロプラスチックの問題をはじめ、日頃から海のことを考えられるような機会として、小学生や中高生向けのワークショップなども開催しています」
そう語る左右田さんは、自ら手作業で制作したというクレーンアニメーション映像を紹介してくれました。ここでは、複雑な要素をもつ海洋マイクロプラスチックを端的に解説しています。マイクロプラスチックが魚の体内に蓄積されることで生態系にどんな影響を及ぼすのか、またそれらはどれくらいの年月で土に還るのかも解明されていません。それでも、できるだけプラゴミを出さないようにすることが海の豊かさを守ることにもつながってきます。
「この活動を広く伝えるため、海沿岸の地域自治体などとも連携を進めています。特に逗子市はつながりが深く、『OMNI』の計測装置を逗子の海岸に設置してもらっているほか、今年の8月には市内にある『黒門とびうおクラブ(一般社団法人そっか運営)』協力のもと、小・中学生向けのオンライン・ワークショップを開催しました」
「『そっか』が運営する『海のじどうかん』では、日頃から海辺のゴミ拾い活動などを行っていることもあり、ワークショップに参加した子どもたちはみんな意識が高かったですね。『海洋マイクロプラスチックの問題を解決するには?』という質問には、『マイクロプラスチックを吸収するマリンスーツで泳いでみる』など、私たちもハッとするようなさまざまなアイデアが寄せられました」
海をもっと、クリエイティブに探求する
今回はアイデアベースのワークショップでしたが、今後は実際に海辺を歩いたり、『OMNI』でデータを収集したり、また子どもたちの考えたアイデアを実行に移せるようなプランも計画しているとのこと。海洋学研究者の木下晴之先生は、こうした活動はプラスチック問題の啓蒙だけでなく、もっと学術的な側面での発展を期待したいと語ります。
「私たちの研究は、そもそもマイクロプラスチックがいまどんな状態になっていて、どんな影響があるのかを、より広い視野で探求していくことを目的としています。つまり、具体的な問題解決を提示するというよりは、その問題を考えるためのデータを集めることが重要なのです。その点では、今後日本各地の子どもたちが集計した海洋データが学術論文に使われるなど、もっと研究と結びつくような可能性も探っていきたいですね」
マイクロプラスチックに関するプロジェクトは、ただ「解決すべき問題」と考えるだけではなく、こうした学術研究のほか、クリエイティブなアイデアを育む可能性もあると語る左右田さん。
「海の問題は遠いものではなく、日々の生活の中でも考えられることがたくさんあります。ゴミ拾いやリサイクルでも、楽しく知恵を編んでいくこともできるでしょう。海という環境への気付きから、クリエイティビティが発揮されるような状況をどんどんつくっていきたいですね」