DATE 2020.09.24

Vol:4 子どもたちと海洋マイクロプラスチックについて考える。プロジェクト「OMNI」が拡げる可能性

近年世界的に深刻化している、「海洋汚染」。東京大学の研究者によるプロジェクトチーム「OMNI」では、特に問題視されている海洋マイクロプラスチック問題について研究を行なっている。そんな「OMNI」がこの夏、子ども向けのワークショップを実施。その模様をリポート。

普段の私たちの暮らしが、海とつながっていることを想像したことはあるでしょうか。食卓に上る海産物だけでなく、海の水が蒸発して雨となったり、川から流れたゴミが海にたどり着くこともあります。今回は、国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標=SDGsから、14番目の目標「海の豊かさを守ろう」に注目します。

 

海を取り巻く環境において特に近年注目されるのは、プラスチックゴミが粉々に分解されて海の中に滞留する「マイクロプラスチック」。それが海の生態系にどんな影響を及ぼすかは未知数で、いま世界中の研究者たちが研究に勤しんでいます。

「大規模海洋観測プロジェクトOMNI」もまた、東京大学の研究者たちが中心となって運営する海洋観測のプラットフォーム。マイクロプラスチックをはじめ、海水温や塩分濃度など海の中のさまざまなデータを計測するデバイスを開発・運用して研究に貢献するとともに、まだ知られていない海のことを一般の人々に広める活動も行っています。

 

東京大学生産技術研究所の「DLX Design Lab」はこれら「OMNI」に関わる海洋学の研究者たちと協働し、海洋マイクロプラスティックの問題を若い世代に学んでもらうためにワークショップ運営や学習ツールの開発などを、デザイナーと科学者の共創で進めています。今回は「DLX Design Lab」の左右田智美さんと木下晴之先生にお話を伺いました。

謎の多いマイクロプラスチックの世界

「海洋マイクロプラスチックの問題をはじめ、日頃から海のことを考えられるような機会として、小学生や中高生向けのワークショップなども開催しています」

 

そう語る左右田さんは、自ら手作業で制作したというクレーンアニメーション映像を紹介してくれました。ここでは、複雑な要素をもつ海洋マイクロプラスチックを端的に解説しています。マイクロプラスチックが魚の体内に蓄積されることで生態系にどんな影響を及ぼすのか、またそれらはどれくらいの年月で土に還るのかも解明されていません。それでも、できるだけプラゴミを出さないようにすることが海の豊かさを守ることにもつながってきます。

 

 

「この活動を広く伝えるため、海沿岸の地域自治体などとも連携を進めています。特に逗子市はつながりが深く、『OMNI』の計測装置を逗子の海岸に設置してもらっているほか、今年の8月には市内にある『黒門とびうおクラブ(一般社団法人そっか運営)』協力のもと、小・中学生向けのオンライン・ワークショップを開催しました」

ワークショップ当日は、マイクロプラスチックの構造を示した模型で説明。

「『そっか』が運営する『海のじどうかん』では、日頃から海辺のゴミ拾い活動などを行っていることもあり、ワークショップに参加した子どもたちはみんな意識が高かったですね。『海洋マイクロプラスチックの問題を解決するには?』という質問には、『マイクロプラスチックを吸収するマリンスーツで泳いでみる』など、私たちもハッとするようなさまざまなアイデアが寄せられました」

プラスチックゴミを減らすアイデアなどを考えていく子どもたち

海をもっと、クリエイティブに探求する

今回はアイデアベースのワークショップでしたが、今後は実際に海辺を歩いたり、『OMNI』でデータを収集したり、また子どもたちの考えたアイデアを実行に移せるようなプランも計画しているとのこと。海洋学研究者の木下晴之先生は、こうした活動はプラスチック問題の啓蒙だけでなく、もっと学術的な側面での発展を期待したいと語ります。

 

「私たちの研究は、そもそもマイクロプラスチックがいまどんな状態になっていて、どんな影響があるのかを、より広い視野で探求していくことを目的としています。つまり、具体的な問題解決を提示するというよりは、その問題を考えるためのデータを集めることが重要なのです。その点では、今後日本各地の子どもたちが集計した海洋データが学術論文に使われるなど、もっと研究と結びつくような可能性も探っていきたいですね」

 

マイクロプラスチックに関するプロジェクトは、ただ「解決すべき問題」と考えるだけではなく、こうした学術研究のほか、クリエイティブなアイデアを育む可能性もあると語る左右田さん。

 

「海の問題は遠いものではなく、日々の生活の中でも考えられることがたくさんあります。ゴミ拾いやリサイクルでも、楽しく知恵を編んでいくこともできるでしょう。海という環境への気付きから、クリエイティビティが発揮されるような状況をどんどんつくっていきたいですね」

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】