大人にも味わってほしい哲学的絵本【4歳~向け】
現代社会の虚を鋭くあぶりだす衝撃的絵本『セミ』。
文字のない絵本『アライバル』で知られる絵本作家、画家、映像作家として活躍するショーン・タン。その最新作がこちら。主人公は表紙で佇む、グレーのスーツを着たセミ。オフィスでひとりきり、ミスもせず、無欠勤で残業までさせられて、17年間も働いたセミ。人間の、誰ひとりとしてセミに感謝せず、彼をまともに相手にしません。そんなセミが定年をむかえたら……。とてもシンプルな物語ですが、ページをめくるたびに心にひりひりとした感情が募ります。セミは一体、人間のことをどうみていたのでしょうか。ひたすらにグレーで無機質なつまらない世界。そこを脱皮したセミが飛び立った先はどんなに色鮮やかなのでしょう。翻訳家・岸本佐知子さんの手がけたセミの言葉使いもとても愛らしく、キャラクターに似合っています。
いったい、何が違うのかを考える『へいわとせんそう』。
人気イラストレーターのNoritakeさんの簡略化されたポップなイラストレーションと同じようにわかりやすい言葉で核心を伝える詩人・谷川俊太郎さんによる絵本。ページをひらくと、元気いっぱいの「へいわのボク」と膝を抱えて辛そうな表情の「せんそうのボク」。「へいわのワタシ」は本が読めて必要なものが机の上に揃っています。でも、「せんそうのワタシ」には何もありません。「へいわ」と「せんそう」を対比することで、平和であることがどういう意味をもつのか、そして戦争が起こるとどんなに悲しく、つらいことが起きるかも教えてくれます。そして、絵本の最後は「みかた」と「てき」を比べます。そこにいる人に、みえる景色に、大きな違いはあるのでしょうか。とても大事なことを考えるきっかけになる1冊です。
どんな動物より、光よりもはやいものは?『このよで いちばん はやいのは』。
カメとウサギならどちらが速い?でも、ウサギより速いのは…。比較の対象を広げていき、カモシカよりチータ、チータより魚が泳ぐスピードのほうが速い、と段々と視野を広げて、速いものを考えていきます。人間は、動物と比べては、そんなに速く走れないけれど、速く走る道具を作りだしました。新幹線、自動車、飛行機、人工衛星。速いもの探しは、宇宙に飛び出します。この世でもっとも速いのは、光の速度。でも、実はそれよりもっと速く、遠くへいけるものがあって…。物語の最後に語られるのは“物質的な速さ”では語りきれないもの。でも、その速さの尊さを知っていることが一番、大事なような気がします。『あらしのよるに』のあべ弘士さんによる挿画もとても魅力的です。