さようなら、ディック・ブルーナさん。
新しく翻訳された2冊の絵本、『おうさま』と『ふなのりのやん』。
1953年に絵本作家としてデビューして以来、これまで124冊もの絵本を描いてきたブルーナさん。まだ、日本語に翻訳されていない絵本はたくさんあります。そんな中から、この4月に、福音館書店より発売された新しい2つの絵本をご紹介します。『おうさま』は王様と庭師の娘の身分違いの恋を描いた、ドラマティックなお話。好きな子と一緒にいるために王様が考えた選択とは……? 『ふなのりのやん』は、船乗りのやんの航海の様子を描きます。やんがたどり着いた島で出会ったのはとってもかわいいエスキモーの家族。やんが受けたもてなしに、読み手も心が温まります。どちらも、60年代にブルーナさんが描いたもの。シンプルな構成の絵だからこそ、想像力を刺激されます。
0歳のためのディック・ブルーナ、『はる なつ あき ふゆ』、『どうぶつ』、『あか き あお みどり』。
色や線がぱきっとはっきりしていて、読みやすいブルーナさんの絵本は子どもたちのファースト・ブックとして最適。今回は『子どもがはじめてであう絵本』シリーズの中から昨年、発売されたばかりの「なまえ」セットをおすすめ。春夏秋冬や動物たちの名前、色の呼び方などを紹介しています。余分なテキストがない分、ブルーナさんの絵をみながら、「春はお花が咲いてきれいだね」とか「くまとほっきょくぐまは似ているね」とか「きいろのボタンはどこにあるかな?」など、自由な会話が楽しめます。長く愛される絵本になりそうです。
難しいテーマもうさこちゃんと一緒に考える。『うさこちゃんのだいすきな おばあちゃん』、『うさこちゃん びじゅつかんへいく』。
一方で、ブルーナさんの絵本は、すべて赤ちゃん向きということはありません。ブルーナさんは「うさこちゃん」の物語を通して、子どもたちに世の中で起こる様々な場面を教えてくれているんです。『うさこちゃんのだいすきな おばあちゃん』では、うさこちゃんのおばあちゃんが亡くなります。うさこちゃんは、はじめて「死」とは何かを知ります。『うさこちゃん びじゅつかんへいく』では、はじめて美術館に行き、うさこちゃんは「アート」に触れます。そして、将来を夢見る希望を手に入れます。このほかにも「障害」をテーマにした『うさこちゃんとたれみみくん』やキャラメルを盗んでしまった罪悪感を描いた『うさこちゃんときゃらめる』などがあります。子どもたちが成長に伴い、通過しなくてはいけないさまざまな複雑な感情。ブルーナさんは、それをとても静かに、誰にでもあることだよ、と教えてくれているようです。ちょっと成長したうさこちゃんの物語を、親子で考えながら、一緒に読んでみてください。