DATE 2020.12.12

村上春樹の翻訳本も。名作家・クリエイターが手掛けたクリスマス絵本のマスターピース5選

数多あるクリスマス絵本を前に、どんな作品が喜ばれる?と悩む人も多いだろう。今回は何度読んでも色褪せない美しい魅力を放つ、世界的名作家&クリエイターが手がけた作品をご紹介。豊かな「物語」で、惹き込まれる「ビジュアル」で楽しませてくれる名作で、心温まるひと時を。

このシーズンに読みたくなるクリスマスの絵本。

もみの木を飾り、サンタクロースからのプレゼントを待つ。クリスマスは今や、子どもたちにとって当たり前のイベントになっていますが、そのルーツや背景にある物語を知ることで、さらにこの特別な時間をワクワクとした気持ちで待つことができるようになるかもしれません。

また毎年、繰り返し読みたいからこそ、ファンタジックな驚きと発見のある色褪せない名作を。村上春樹が翻訳を手がけた1冊や、堀内誠一が描いた絵本は、時代を経ても変わらぬ本物の美しさが宿ります。

そう、クリスマス絵本で大事なのはもしかしたら美しさかもしれません。手にするだけ、本棚に置くだけで、スペシャルな気持ちになれるもの。今回は、美しいイラストレーションや装丁などにも着目し、贈り物にしても喜ばれる名作を揃えました。

01. 堀内誠一初の絵本。鮮やかで温かなクリスマスの世界に浸る 『くろうまブランキー』

再話:伊東三郎 画:堀内誠一 福音館書店 900円

発行から50年以上にわたり、愛されているまさに名作。その理由のひとつは、堀内誠一によるイラストレーションの魅力です。グラフィックデザイナーであった堀内の絵本作家として初めての作品で、素朴で温かみのあるタッチは、その後の『ぐるんぱのようちえん』『たろうのおでかけ』などにも繋がります。表紙の色鮮やかなクリスマスツリーと真っ黒なブランキーの対比も美しく目を引きます。

ストーリーはフランスのフレネ学校*1 で子どもたちとの共同創作で生まれ、まとめたのは詩人でエスペランティスト*2 として知られる伊東三郎。クリスマスを迎える前の夜に静かな気持ちで読みたいお話です。主人公、小さな黒馬ブランキーは、意地悪な主人のもと一生懸命働いても眠る小屋さえ作ってもらえず死にそうになり、倒れたブランキーを助けたのはサンタクロースで……。

 

*1 教師主体の従来の教育カリキュラムではなく、子どもたちが主体的に学習を計画し、自由な表現活動を行う「フレネ教育」を取り入れた学校

*2 中立的で公平な言語として使用される国際共通語「エスペラント」を使用する人

02. ハルキスト必見。『ポーラー・エクスプレス』の原作 『急行「北極号」』

絵と文:C・V・オールズバーグ 訳:村上春樹 あすなろ書房 1,500円

『ジュマンジ』、『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』など緻密でリアリティのあるイラストレーションと奇想天外な物語で世界中の読者を魅了するC・V・オールズバーグの、クリスマスのお話といえばこちら。トム・ハンクス主演の映画「ポーラー・エクスプレス」の原作としてもお馴染みです。

この本の楽しみはなんといっても、村上春樹による美しい翻訳。C・V・オールズバーグ作品を愛し、ほぼ全作品の翻訳を手がけています。白い蒸気につつまれた謎めいた汽車は、急行「北極号」。子どもたちを乗せ、北極点を目指します。そこには一体、何があるのでしょう。雪が降りしきるグレーな色調で統一された静かな夜の物語。クリスマスの幻想的な旅は、たとえそれが空想のお話だったとしても、特別な“何か”を子どもたちの記憶に色濃く残してくれます。

03. ピッピやロッタちゃんの作者が描いた冬の夜の物語 『みまわりこびと』

文:アストリッド・リンドグレーン 絵:キティ・クローザー 訳:ふしみみさを 講談社 1,400円

赤い帽子をかぶった小さな妖精トムテは、北欧で古くから言い伝えられている農家に繁栄をもたらすとされる守り神。スウェーデンでは、サンタクロースのことを“ユール(クリスマスの)トムテ”と言い、このこびとたちの存在をずっと大事に信じています。その想いが伝わるのが、この『みまわりこびと』のお話。

書いたのは、『長くつ下のピッピ』や『ロッタちゃん』シリーズで知られるスウェーデンの国民的児童文学作家のアストリッド・リンドグレーン。彼女が、19世紀に書かれた詩をもとにして書いた文章に、絵本作家のキティ・クローザーが絵をつけました。動物たちや家族が寝静まる中、たったひとり起きてみまわりをするのは小さなこびと。雪降りつもる北欧らしい、冬の夜の物語。暖かい部屋で、家族一緒に読むのにぴったりの1冊です。

04.時を超えて読み継がれる、美しいクリスマス絵本『ちいさな もみのき』

作:マーガレット・ワイズ・ブラウン 絵:バーバラ・クーニー 訳:かみじょう ゆみこ 福音館書店 1,100円

森のはずれにある一本のもみの木は、ある日、お父さんの手で家へと運ばれていきました。もみの木は足の悪い男の子の家の、素敵なクリスマスツリーになりました。それから何年も冬のたびに男の子とクリスマスを過ごしましたが……。数々の名作絵本を手がけるマーガレット・ワイズ・ブラウンによる心温まるクリスマスの定番絵本のひとつ。金色のモール、金の鈴と銀の星、ガラスの飾りにいろんな色のきらきら光る玉……クリスマスツリーを飾る楽しさ、子どもたちの歌うキャロル。神聖なクリスマスの雰囲気にぴったりの繰り返し読みたくなる1冊です。『エミリー』など少年少女たちの機微を描く繊細な画風で知られるバーバラ・クーニーによる挿絵は素朴でありながら、時がたっても変わらぬ崇高な美しさを感じます。緑と赤を使った配色もクリスマスらしく愛らしいです。

05. 「マリメッコ」デザイナーによる美しいグラフィックが、子どもの感性を刺激 『くるみ割り人形』

作:E.T.A.ホフマン 絵:サンナ・アンヌッカ 訳:小宮 由 アノニマ・スタジオ 2,600円

クリスマスの物語としてチャイコフスキーのバレエ演目でもおなじみの『くるみ割り人形』。そのオリジナルは、1816年に発表された「くるみ割り人形とねずみの王様」というドイツ人作家E.T.A.ホフマンによる童話です。

この伝統ある物語に、ファッションブランド、「マリメッコ」のデザイナーであるサンナ・アンヌッカがイラストレーションを描き、小宮由氏による新訳をつけた新装版。これまでサンナが手がけた『モミの木』『雪の女王』の絵本シリーズと同じく、クラシックな布装に美しいゴールドの箔を押したくるみ割り人形が描かれたグラフィカルなカバーは、クリスマスシーズンのインテリアとしても本棚を美しく彩ってくれそうです。古典的名作をじっくりと楽しむのも、冬の夜ならではの雰囲気があります。

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