無理して一緒にいない。自分と子どものための“離婚”という選択|それぞれ違う家族のかたち Vol.8
無理して一緒にいないこと
最近の日本の離婚率は約35%になるそうで、結婚した人の3分の1が離婚しているのであれば、もはや珍しいことではない。2008年の人口動態調査では、離婚件数251136組のうち、子どもなし夫婦は107302組(42.7%)で、子どもあり夫婦は143834組(57.3%)だったという(平成21年度 人口動態統計特殊報告より)。一件一件が完全に個別のもので、事情も状況もそれぞれ。離婚がどんな意味を持っているのか、シングルとして子どもを育てることにどんな課題を見出すのかも違っているはずだ。
25歳で結婚し、翌年長男を授かった三村さんは、2019年に離婚した。周囲よりは早いかもという気はしたが、授かりものである子どもは素直に嬉しかったという。
「ただ、まだ20代で、仕事もプライベートも楽しんでいる仕事仲間や友人を見て、取り残されたと感じることはありました。子どものいない同世代には子育てのことは相談できなかったので、だんだん会わなくなる人もいましたね」
それでも元夫の手伝いや現役の保育士である母親のアドバイスなどもあり、子育てに行き詰まるということはなかった。元夫も手伝いはしてくれていたが、子育てとは別のことから関係が悪くなり、結果離婚という選択肢が最善であると判断した。
「無理して一緒にいることの方が子どもにとって不幸だと思ったんです。世の中には、子どもがいるのにどうしても離婚しなくちゃいけないのかとか、子どもが大きくなるまで我慢するという選択肢もあるんじゃないかという意見もあります。それでもそれが無理をしている状態なのであれば、続けていくことの方がいやだなと思った。子どもは最優先事項ではありますが、そのままでは自分がつらくて、子どもはそれに気づいてもっとつらい思いをすると思ったんです。結果、私は離婚したことで解き放たれて自分自身も子どもとの関係も良くなった。離婚理由がDVとかではないので、これからも父親として会ってもいきます」
どこか自信なさげに話してくれていた三村さんから強い意志を感じる言葉が聞こえてきた。
現役保育士である母の偉大さ
横浜から東京の実家へ戻った三村さんは、公的支援という意味では東京の暮らしは恩恵が大きく、結果的によかったと思っている。
「横浜は子どもの医療費免除が小学校までですが、今住んでいる区は中学校まで。横浜は中学校の給食がなくてお弁当ですが、東京は給食です。まだ先ですが、働かなきゃいけない親にとって、給食かどうかでかなり違う。育ち盛りの子どもに給食はありがたい」
そして何より両親、とくに保育士である母親と一緒に住めるというのは、子育てについて大きな助けとなっている。男親の不在を父親が埋めてくれている側面もある。
「二人きりでずっといるとどうしても行き詰まってしまうこともあると思うんです。息子にとっておじいちゃんが父親的な存在になったり、おばあちゃんが甘えていい対象になったりして助かっています。迷った時には、ネット情報にのみ込まれて負の感情にならないように、母に相談をしています。現役で仕事をしているだけあって、私と子育てに関する世代的なズレもない。やはりプロですごいと思います」
自分たちが幸せなら幸せなんだ
ひとり親になると、二人で出かけた時の写真が、基本的にはどちらかがどちらかを撮ったものばかりになり、自分と子どもが一緒に写っている写真は少なくなってしまう。
「いつも友人や母と一緒には出かけられないので、今回二人でちゃんと撮ってもらえるのは本当に嬉しい。一緒に撮れないことも多いですけど、写真はちゃんと撮りたいという気持ちがあって、携帯だけじゃなくデジカメもちゃんと持ち歩いています。『また撮るの?』と言われたりしていますが、めげません(笑)。撮った写真は、アルバスというプリントサービスを使っています。保育園や学校で作ったものも撮影して、その月の出来事として月ごとに一緒にファイルにしています」
両親の手伝いのおかげもあり、自由に時間も使えるようになってきた。けれども、まだ仕事もプライベートもこれからどんなことが待っているのか想像できないと言う。福利厚生など自分の心配や進学など子どもの未来の心配。経済的にも環境的にも考えることはたくさんある。
「かつて美容師だった頃のように、たくさんの人と知り合い、社会とつながりながら生きていくということができていません。両親の手伝いがあっても、まだそういう不安はあります。でも大事なのは、子どもとの信頼関係をどれだけ強く自分たち自身で築けるか。そのためにもまず自分が揺らがないようにしないと、子どもが不安になってしまいます。自分たちが幸せだと信じることを大事にして、どんな環境でも自分たちが幸せなら幸せなんだなと胸を張って言いたい。みんな揃っているから幸せということではない。無理している人に、本当にそれで幸せですかと聞きたくらい、いま子どもと二人で幸せです」