DATE 2019.07.08

あたり前に誰かと一緒にいる。銭湯を営む家族とそのコミュニティ|それぞれ違う家族のかたち Vol.3

人が多様ならその分だけ家族も多様です。これが正解という家族のかたちがあるわけではありません。東京・八丁堀で生まれ育ち、銭湯を家業とする周明さん一家は、都心にいながらも地域や社会とつながり、「田舎みたいな人付き合い」をしているという。

地元が都心という環境

ご近所付き合いという関係は、そこで生まれ育ち、長く暮らしていることはもちろん、子どもができたことをきっかけに生まれることがある。同年代の子どもがいる親同士は無意識にシンパシーを抱いている。子どもが外で遊ぶということのリスクも、遊ぶ場所の少なさも、近隣との連携が図れていればスムーズにいく側面もあるかもしれない。共有地で遊ぶことや年長者と接するという経験を通して、規範やモラルは良くも悪くもできていく。

岡村周明(39) 銭湯経営
岡村一美(38) 主婦
岡村実美(10)
岡村幸來(7)
岡村弥弥(3)

父である周明さんは八丁堀で生まれ育った。家業は銭湯で、ご自身が跡を継いで今も近所の人々の癒やしとなるお湯を張り続けている。銭湯を使っている人から、銭湯はおばちゃんがよく話しかけてくる場所だと聞いたことがあるが、銭湯は不特定多数の人が訪れ、人前に裸やすっぴんを晒すという意味で非常にオープンな場所。そうした場で生まれ育った周明さんの子育てでは、地元という場所でオープンかつ自然な助け合いが行われている。

あたり前に誰かと一緒にいること

現代では子だくさんの部類に入る3人の子どもがいる岡村家だが、子どもができる以前から周明さんと一美さんは、身近に子どもがいた。

 

「夫の甥や姪の面倒を見たり、私のいとこの子どもを私たちがディズニーランドに連れていったりもしていたので、子どもと一緒に遊ぶというのは特別なことではありませんでした。二人きりでいるよりも誰かがいることが多くて、結婚前は夫の弟がデートに一緒に来るということがなぜかよくありました(笑)」。

 

二人とも親戚が多すぎて、結婚式の来賓がほぼ親戚で埋まってしまったらしい。二人はそもそも大家族気質なのだろう。以前、一美さんが友だちと旅行することになった時も、一美さんだけでなく、岡村家全員で一緒に行ったという。お宅はそうだよと、友だちは納得していたそうだ。

 

「夫の両親が近くにいて、夫の叔母さんも隣で喫茶店をやっています。気がつくと子どもたちが隣のお店にいるということがよくあります。都内でうちみたいな状況は珍しいかもしれません。そういう環境があったから、どこかで安心して3人産めたというのはあったと思います」。

 

 

自分たち以外にも、祖父母や親戚、さらには近所の人やお客さんなど、たくさんの人が子どもたちを見ていてくれる。一番下の子はまだ小さいこともあって、仕事場によくいるという。番台にいたり、みんなでお風呂に入りに来たり、銭湯のマスコットみたいな存在でもある。

 

「上のお姉ちゃんが裸足で逃亡した時、見つけた近所の人が捕まえて家に連れてきてくれたこともありました。家のすぐそばに公立の幼稚園と小学校が入っている建物があって、その前が公園なんです。近所の子どもはみんなそこに入ってそのまま一緒に学年が上がっていく。上の子の時は1クラスだけの少人数だったこともあって、みんな知り合いなんです。公園に行けば誰かいるし、子どもに何かあれば連絡もしてくれます。ザ・地元です。自営業で家族全員が一緒にいる時間が長いと、どうしても親が二人して怒ってしまうこともあります。そうした時、子どもたちは親戚やご近所の友人知人のところに逃げるんです。自分の居場所が複数あるというか、子どもたちの逃げ場があるというのはいいことだと思うんです」

地元の人にとっての東京という田舎

東京という場所にありながら、地域や社会ともつながり、絶妙な暮らしをしている。
「恵まれていると思います」と自分たちでも自覚しているほど、都心で誰かと一緒に生きていられる状況は羨ましい。

 

「東京なのに田舎みた いな人付き合いをしているのかもしれません。顔も名前も知っている人たちばかりなので何かあったら助けるよというコミュニティにはなっています。その分、聞きたくない噂とかも耳に入ってきますが(笑)。見かけた子どもの変化に気づいたら、本人にも親にも『何かあったの?』と気軽に話ができる距離感なんです。でも八丁堀のある中央区全体がそうかというとそんなことはないようで、学級崩壊の話も耳にしたりするので、自分たちの周囲は特殊な場所なのかもしれません」

 

最近は開発が続き、周辺は大きなマンションがたくさんできているという。人も入れ替わり、新しい人がたくさん流入してきている。

 

 

「知らない人が増えて、知っている人は減っています」と周明さんが話すように、これまでの人と人とのつながりが変わっていくタイミングなのかもしれない。そしてそれは銭湯という場所、仕事が変わっていくことかもしれない。

 

長女が夏休みにサマースクールで北海道に行って帰ってきた時、「ねえママ聞いて、北海道って大きな声で叫んでも近所の人に怒られないんだから」と話してくれたという。東京という都会で育った子どものおもしろい話ともとれるし、コミュニティのあり方が変わっていっている現状に対して、何か考えさせられることでもある。

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