DATE 2022.01.26

私たちがフォルケホイスコーレを留学先に選んだ理由。そして学んだこと【Z世代座談会】

現在、日本で広まりつつあるフォルケホイスコーレ留学という選択。日本人の学生が、今あえて留学先に北欧を選ぶ理由とは。そしてその経験にはどんな価値があったのか?共に大学時代に休学しフォルケ留学を行なった、ミレニアル世代・Z世代の若者たちによるクロストークをお届け。

将来、我が子の進路の選択肢として海外留学を考えている、というファミリーは少なくないだろう。これまで人気の留学先といえば、イギリスやアメリカ、オセアニア諸国などでの語学留学や、オックスフォードやアイビーリーグなどの有名大学への進学が主流だったが、果たして英語圏の国への留学だけが、日本人にとっての留学の正解なのだろうか? 親も子も、さまざまな留学の形を知っておくことで、多様な選択肢の中から本人の希望や性格に一番マッチした留学先を選べるはず。そこで今回、Fasuファミリーに新しい留学の形として紹介したいのが「北欧留学」だ。

 

実は今、日本人大学生の間で、北欧独自の教育機関「フォルケホイスコーレ」への留学を希望する人がじわじわと増えているという。学位がもらえる教育機関ではないフォルケは、日本人の保護者たちには響きにくい留学先かもしれないが、フォルケを経験した学生たちの満足度は高く、特に就職活動シーズンの前にフォルケを経験したことで「将来を思い描けるようになった」「自分自身で考える力や想いを伝える力が身についた」という声は多く聞こえる。

 

慶應義塾大学在学中にフォルケ留学を経験した、能條桃子さんと瀧澤千花さんもそのうちの一人。2019年に大学を休学し、デンマークにあるフォルケホイスコーレに留学した2人は、留学での経験をキッカケに、現在はinstagramでU30世代の若者に向けて政治・社会情報を発信する「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げ、活動中だ。そのフォロワー数は現在8.4万人を突破(2022年1月現在)。これまでに福島みずほ議員や中曽根康隆議員ら様々な政党の政治家と共にインスタライブを開催し、世界的経済誌『Forbes JAPAN』にも寄稿をしたりと、その影響力と注目度を拡大し続けている。

 

そんなパワーメディアを若くして運営する能條さんと瀧澤さんだが、「NO YOUTH NO JAPAN」の活動を始められたのも、フォルケ留学を通して自分の人生の価値観や可能性に向き合えたからだと言う。彼女たちにそこまで言わしめる、フォルケの魅力とは一体何だろうか? 今回、同じく大学時代にフォルケ留学を経験した、英語学習コンサルタントの渡邊小百合さんをモデレーターに迎え、3人の体験談を語ってもらった。

左から 瀧澤千花さん、能條桃子さん、渡邊小百合さん
左から 瀧澤千花さん、能條桃子さん、渡邊小百合さん

【座談会メンバー】

一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 代表理事
能條桃子

2019年、大学在学中にフォルケホイスコーレ留学を経験。Z世代。

一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 創立メンバー
瀧澤千花

2019年、大学在学中にフォルケホイスコーレ留学を経験。Z世代。

英語学習コンサルタント
渡邊小百合

2016〜2018年の内、約1年半フォルケホイスコーレに滞在。大学在学中に生徒として留学を経験後、卒業後にサポートスタッフも経験。ミレニアル世代。

日本人大学生が、デンマーク留学に惹かれた理由

渡邊小百合(以下、渡邊) 海外留学といえばアメリカやイギリスを選ぶ人が多いですが、2人はなぜデンマークを選んだのですか?

 

瀧澤千花(以下、瀧澤) 元々高校時代からジェンダー平等や働き方に興味があり、「民主主義って何だろう?」と考えていたところ、デンマークに民主主義を学べる学校「フォルケホイスコーレ(以下、フォルケ)」があることを知ったのがきっかけです。その時は自分がこれから何をしたいかまだ分かっていなくて、将来のことを含めて考える時間がほしくて留学を決意しました。

 

能條桃子(以下、能條) 日本は大学3年から就活が始まりますが、今ようやく大学生活のリズムが整ってきたところなのに、就職なんて早すぎる!と思っていました。そんな時、デンマーク人は高校卒業後にギャップイヤーを利用して自分の進路に向き合っていると知りました。そのギャップイヤーの中で、フォルケホイスコーレに通っていると。そこからフォルケに興味を持つようになり、私もギャップイヤーを体験してみたいと思ったのがきっかけです。また日本の大学で政治を学ぶ中で、北欧の「高負担高福祉で幸福になる」というモデルケースをよく耳にし、その暮らしも体感してみたかった。デンマークは国民の幸福度ランキングで常に上位ですが、「本当に皆幸せなの?」とその実態を知りたかったんです。

 

渡邊 2人とも留学を通して進路に向き合いたいという想いがあって、そこに民主主義や福祉など、デンマークへの興味が紐づいたんですね。私は試験や評価のない教育機関で、興味のあることだけに集中してみたかったのが大きな理由です。また、デンマークは非英語圏の中でもTOPレベルで英語力が高い国で知られていますが、そこにも関心を持ちました。英語というと日本ではネイティブのような発音で話せることが大事だとされていますが、それって本当に正しいのだろうかと以前から感じていて。多様性が求められる時代の中で、英語だって多様なアクセントがあって良いはず。そこであえて非ネイティブで英語が発達しているデンマークで英語力を鍛えたいと思ったんです。

 

瀧澤 本当に三者三様の理由ですね。でも留学生は特に、さまざまな目的意識でフォルケ留学をする人が多いですよね。

評価や成績は一切なし。日本の教育システムとは真逆をいくフォルケ

渡邊 フォルケホイスコーレと言うと、何といっても18歳以上なら誰でも入学でき、試験や成績評価が一切ないという教育システムがユニーク。

 

能條 私もまず最初に驚かされたのが、日本のように「いい点数を取れば成績が上がる」という指標が全くなかったことです。誰かが評価を下すことよりも、「自分が良いと思うものを選択する、大事にする」という価値基準がフォルケでは当然のようにあって、でも今までそんな風に考えてこなかった自分自身にも気付かされました。

 

瀧澤 全寮制という点も大きな特徴ですよね。私自身も、クラスメイトと過ごす日常の時間を通して「自分はどういう人間なのか」を少しずつ知っていったように思います。自分自身と向き合う中で、自分の考えや目標・目的を見つけていく場所だから、フォルケには最初から何か明確な目的がある子よりも、自分を見失っている子や、将来に悩んでいる子のほうが向いていると思います。

 

渡邊 目的意識を高く持ってフォルケに挑んでしまうと、学びの中でも寮生活の中でも目標が提示されている訳ではないから、途方に暮れたり、何も達成できない自分に焦ってしまう、というのはあるあるですよね。実際にその理由でフォルケに挫折感を感じたり、「思っていた留学と違う」という意見はよく聞きます。

議論は数時間以上にもおよぶ、民主主義の学校

渡邊 「民主主義」を教育理念に掲げるフォルケでは、学生同士で何時間も議論することも当たり前

 

能條 そうそう! たとえば多くのフォルケで、学生向けに一定額のお金を支給し、何を使うかはすべて学生だけで決めていいという慣習があって。みんなで旅行に行ってもいいし、ボードゲームを買ってもいい。じゃあどうするかと言うと、その議論が何時間も続くんですよ。全く意見がまとまらないので、もう一人あたりの金額で分割すれば良いのでは?とすら思うんですけど、絶対にそういうことはしないんです。

 

瀧澤 日本だと、早々に多数決をして一つの結論にたどり着くことが民主主義だと思われがちだけど、本当はそうじゃないんですよね。全員が自分の想いを言い合って、その後からちゃんと議論することが真の合意形成なんだと学びました。

渡邊 否定的な内容であっても、相手の意見をしっかり汲もうとしてくれますよね。私も一度、学校のシステムにストレスを感じ、いっぱいいっぱいになってしまったことがあったのですが、そのことを友人に漏らしたら、友人は突然メモを取り出して「あなたが何を感じたか教えて。ちゃんとメモして考えるから」と言うんですね。「あなたが何を感じたかが重要で、それに良いも悪いも関係ないでしょう」と。

 

瀧澤 似たような経験が私にもあります。私が取っていたコースは2割が留学生で8割がデンマーク人だったのですが、英語で議論して良いはずなのに、留学生に対してもデンマーク語で議論を投げかける状況になっていて。そこに疎外感を感じてしまい、「それって違うんじゃない?」と想いを全校集会のときに伝えたんです。そしたら先生は「留学生のあなたが今その想いを伝えてくれたことに意義がある」と言ってくれて。自分の意見をぶつけても良いんだと思えた瞬間でした。

 

能條 フォルケは、一人ひとりの意見を本当に大事にする場ですよね。だからといって、誰もが好き勝手にやっているかというとそうではなく、数ヶ月間も強制的に同じ場所で寝食を共にするので、自然とお互いが心地いい状態を目指して調和が生まれていく。そこがフォルケの魅力の一つだと思います。

余白の中で自分と向き合う時間の大切さ

瀧澤 フォルケは日本の学校のように良い成績を取ることがゴールでもないし、明確な目標がない分、本当に自由。でも「自由からの逃走」なんて言葉もあるように、自由でいることって実はすごく勇気がいるんですよね。結果として私にとってフォルケでの時間は、自由を与えられた中で自分と向き合い続ける戦いの日々だったように思います。大学を1年休学してまでデンマークに来た自分は、一体ここで何がしたいんだろうと悩みましたね。でも「自分とは何か」「自分はどうしたいのか」と自問し続けた経験は、確実に自己成長につながったと感じています。

 

能條 成績や目標の指数がないからこそ、私も「生産的ではないこと」にどうしても焦ってしまう自分がいることを思い知らされました。そもそも日本人の学生って、余白が足りない気がします。でも生産的じゃない余白の時間があるからこそ、「自分とは何か」に向き合えるし、活動的になれる部分もあると思う。実際に私もフォルケで余白の時間があったからこそ、現在の「NO YOUTH NO JAPAN」の活動も始められました。小さい頃から塾に習い事にと毎日忙しすぎて自分を見失っている子たちにこそ、「生産的でなくて良い」ということを知ってほしいし、余白の中から自分と向き合う時間を見つけてほしいですね。

 

渡邊 学生が余白の時間と向き合うための期間が、まさにギャップイヤー。授業料も宿泊費も食費も込みでトータルの留学費用も安いフォルケは、ギャップイヤーにもってこいだと思いますギャップイヤー制度が日本にはなかなか浸透しないけど、大学在学中に休学してフォルケをギャップイヤーとして取り入れることで、特に若い世代の子たちは自分自身とは何か、自分が将来やりたいことは何かに向き合えるはず。学びたいことが明確でなかったり、将来の進路に悩んでいる子にこそフォルケはぴったりですよね。

渡邊さんが在学中に使っていたメモ用ノートとプロジェクトノート。
渡邊さんが在学中に使っていたメモ用ノートとプロジェクトノート。

デンマークならではの価値観が日本人学生に教えてくれること

渡邊 実際に留学してみて実感したことは、デンマークと日本では物事の捉え方や価値観が大きく異なるということです。例え話ですが、日本ではまず絵と色鉛筆が用意されて、その中から色を選んで綺麗に塗る力を養っていくイメージ。でもデンマークでは、紙だけを渡されて「色鉛筆とか必要だったら自分で取りに行ってね」と言われるようなカルチャーで育っている。だから自分はクレヨンで描きたいのか、色鉛筆が必要か、から考える。さらに何も描かずにそのままでも良いと思っているし、それをジャッジしない社会なのだと感じます。日本で暮らしていると、与えられたものの中でどう器用にこなしていくか、という思考になりがちですが、私はデンマークに行ったことで自分で考える力や、その過程で出会うサプライズだったり、そこから見える景色の面白さを前より楽しめるようになりました留学中にそうしたデンマークの価値観に触れたことで、考え方の幅が広がったと感じています。お2人は、フォルケの経験が自分にどんな価値や影響をもたらしてくれたと思いますか?

 

瀧澤 私自身は、自分の意見を持つことが最も大事だと気付かされました。フォルケに行く前は、例えばスタートアップに入って自己成長する!みたいなキャッチーな言葉に踊らされて、皆と同じようにそうしなくちゃと焦ってしまう自分がいました。でもそれって自分が本当にやりたいことではなくて。授業でも日常生活でも「自分はどう思うのか」を問われ続けるフォルケに身を置くことで、周りに流されることなく、自分の考え見つけ出すことの大切に改めて気づけたと思います。

能條 私はフォルケで、人生に学歴やキャリアは関係ないという価値観に触れられたことが大きかったです。出身大学が慶応なんですが、日本で慶応出身ですと言うと「ちゃんとした人なんだね」という反応が返ってくるのが当たり前でした。でも学歴や競争を重んじないデンマーク社会では経歴は通用しないので、「じゃあ自分の価値とは?」と、そこでようやく自問自答したんです。日本のように学歴を重んじる社会もありますがもデンマークのように意味を持たない世界も存在する。じゃあその中で自分は何を大切にしたいんだろう?と考えた時、私は学歴よりも自分が一番やりたいこと・自分にとって意義のあることを大切にしようと気づいたんです。それが私にとっては「デンマークのような民主主義を日本で実現したい」「日本の若者の政治参加の姿勢を変えたい」という想いであり、現在のNO YOUTH NO JAPANの活動にも繋がっています。

 

瀧澤 デンマークの価値観を知って自分の本当の考えに出会う、という意味では、私は留学してみて、デンマーク人のような価値観で生きるのは自分自身には向いていないということにも気づきましたね。日本人的な思考ですが、もうちょっと自分を急かして、生産性も意識して生きた方が自分には向いているなと。でもそのことに気づいて、そういう生き方を自分で選択できた。それは自分自身と向き合い続けたフォルケの生活があったからだと思います。

 

渡邊 2人の言うように、フォルケは自分のやりたいことや、自分の本質に気づくきっかけとなりうる場所そこが、日本の学生にとって一番大きな魅力かもしれないですね。

NO YOUTH NO JAPAN

U30世代のための社会と政治の教科書メディア。instagramのフォロワー数は8.5万人を突破(2021年12月現在)。SNSでの情報発信のほか、選挙ドットコムにも記事を寄稿。若者を巻き込んだ政治・社会イベントの企画・運営も行なっている。

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】