01 まだ見ぬひとが連れてくるもの
グラフィックデザイナーの長嶋りかこさんが、妊娠して日々変化する体から、今まで見えなかったことに日々出会い、新陳代謝していく景色を綴るエッセイ。
ひとりで目的地に移動しているときや、ひとりで人混みの中にいるとき、ひとりで食事をしているとき。ふと、今ここにひとりであると思う瞬間に、いや違うそうだった、私の子宮という袋で常にちいさい人間を持ち運びしてる状況で、今この時は真面目なまでにひとりじゃないんだったと、その物理的で神秘的な事実にやや驚く。
いまは妊娠7ヶ月。お腹の中に命が育っていることをまだ本当のことと思えないような頃はもう過ぎて、日に日にパツパツとスイカのような艶を放ちながら張っていく自分のお腹を見ては、ここに何者かがいないわけが無いと思うようになったし、日に日にきょろりきょろりとでかいドジョウのように下腹を動かれる感覚によって、見えないこの子の存在感は増してきている。
存在感に比例するように、今までの自分の生活では全く見えなかった様々なこと達が、急に目の前にひょいと現れることが増えた。その景色に幸せを感じたり、憤りを感じたり、不安に思ったりとさまざまだけど、ひとつひとつ受け止めながら、わたしの生活は少しづつ、この子が連れてくること達と出会い、同時に、今まで自分とともにあった当たり前の見慣れた景色が、少しづつ遠くに去って行く。もちろん、特に何も変わらないこともある。
新陳代謝していく体のように、環境もささやかに変わっていく。わたしはこの子に手を握られ、その景色に導かれていくよう。
明らかな体の変化には驚きと不安が。しかし今という時が何度も体験できることではないこともあり、毎日を取りこぼしたくないような気持ちになる。妊娠していようがいまいが、本来は「今」という時間はそういうものな筈なのに。
誰かにとっては懐かしく、誰かにとってはいつか来るかもしれない未来の、ささやかな、けれどわたしにとっては一大事な新陳代謝を、しばしここで綴っていければと思います。