DATE 2021.06.15

是枝裕和監督も支持する子供のための映画教室が、今の時代に必要なわけとは?

小学1年生が映画制作に参加するーーそんなワークショップがあるという。創造力や実行力、そして他人との共同作業で映画をつくるという時間は、子どもにとってどんな体験となるのだろうか?「こども映画教室」主宰の土肥悦子さんに聞いた

【SPECIAL FEATURE】子どもと映画の今とこれから

観たいものを観たいだけ楽しめてしまう今どきの子どもたちのコンテンツ環境。これから子どもたちにとっての本当に幸せなコンテンツ体験とはなにかを考える。開催中のショートショートフィルム映画祭とのスペシャルコラボコンテンツも!

こどもが映画を通して学べることって?

“世界を映す窓”ともいわれる映画は、子どもたちの情操教育にも役立つといわれている。そんな映画と子どもたちが出会う場としてワークショップ「こども映画教室」を展開している土肥悦子さんに子どもたちとっての映画教育の効果について伺った。

 

――「こども映画教室」はすでに17年間続いていますが、子ども向けに映画のワークショップを始めたきっかけはなんですか?

 

私は東京の映画配給会社で買付・宣伝の仕事をした後、1998年に金沢で小さな映画館「シネモンド」を開館し、運営していたのですが、シネモンドの経営が危うくなり、公設民営の映画館にしようと考えたとき、そのプレゼンテーションの一つとして、“未来を担う子どもたちに向けたことをやれますよ”ということで事業を立ち上げることにした、という経緯なんです。2004年から「こども映画教室」を始めました。参考にしたのは、チリ映画『100人の子供たちが列車を待っている』(88年) です。84年からチリの各地で映画教室を開いているアリシア・ベガ先生の活動を追ったドキュメンタリーです。独裁政権下のチリにおいて、子どもたちに自尊心や自己肯定感をもってもらいたい、という思いでアリシア先生は始めたんです。『こども映画教室』をやろうと思ったとき、この映画のことを思い出して、まずは何度も繰り返し観て、アリシア先生がやっていることを全部書き出し、見よう見まねで始めました。

 

――最初は映画制作のワークショップではなかったとか?

 

アリシア先生は映画自体の制作はしません。なので私たちも最初はゾーエトロープなどの視覚玩具を使用した工作ワークショップをしていました。2017年に中江裕司監督をお呼びした時に、映画制作の提案を受けて、映画制作のワークショップをやってみたんです。最初は「子どもたちが映画の内容についてではなく、機材を使うことに夢中になってしまうのではないか」と心配していたのですが、まったく問題ありませんでした。というより、驚くほど面白いものを作るので驚きました。

 

――小学生の低学年でもですか?

 

はい。小学校1年生でも参加できますよ。

――どんな風に制作チームは組んでいるのですか?

 

ケースバイケースですが、小学生向けの映画制作ワークショップの場合は1回3日間で、6人一組で4チーム、24人くらいで行うことが多いですね。撮影、監督、(音声の)録音、そして演者もすべて子どもたちが分担します。映画のプロがそれぞれチームリーダーとして付きますが、原則として大人は口出しをしません。

編集はチームリーダーのPCを使って行うので、小学校低学年の場合は、チームリーダーがオペレーターとして作業することはありますが、小学校高学年以上になるとPCが使える子も多いので、チームリーダーに聞きながら、自分たちで編集します。最終日に、自分たちの作った映画をみんなで観る上映会も開催します。ワークショップ自体は保護者は見学していただけないのですが、最終日の上映会には来ていただいています。

――「こども映画教室」に参加する子どもたちは、自分の意思で申し込んでくるのですか?

 

いろいろですが、小学生の低学年の場合は、親が申し込んでくるわけですから、映画やカルチャーに興味がある家庭の子どもが多いですね。ただ、地方自治体が主催して無償で開催する場合は、本人の意思に関係なく、例えば学校から生徒を送り込んでくる場合もあります。

でも、そういう子も一緒に映画を作っているうちにどんどん変わっていくんです。むしろ、そういう子のほうが、より反応が大きかったりもする。映画に出会ったことで、大きく変わる姿を観ると、こういう子たちにこそ届けるべきだと思っています。

ワークショップの最初に「映画は、どれだけ本気に取り組んだかは、全部、スクリーンに映る」と話しますが、そういう言葉ひとつひとつが子どもたちのスイッチを押していく。本気になって夢中になってやったことが達成感に繋がる。だから、初日には浮かない顔をしていた子も、最終日に作品を上映する時には、みんな生き生きとしています。

――17年間前と今の子どもたちとでは変化はありますか?インターネット時代に入り、ものごころついた時からYouTubeで動画を観ている最近の子どもたちは、90分もじっと映画を観ることはできるのでしょうか?

 

ワークショップをやっている限りではあまり変化は感じませんね。YouTuberになりたいという夢を持っている子が出てきたというのはありますが。また、親御さんの中には、「うちの子は落ち着きがなく、映画1本観られないと思います」と心配する方もいらっしゃいますが、小学校の低学年でもみんなちゃんと観られます。制作だけでなく、映画鑑賞のワークショップも開いていますが、暗闇の中で映画を一緒に観るという体験がいいのではないでしょうか。

 

――保護者には子ども向けにおすすめの作品を紹介したりするのですか?

 

「子ども向けの映画」は考えませんね。小さい子どもでもアニメ以外の作品もちゃんと観られますよ。親御さんから質問された時は、「お母様やお父様が好きな映画を見せてください」とお答えしています。観た後に、一緒になっていろいろ話せることが大事ですから。私たちも「こども映画教室」で観せる場合も、“子ども向け”ではなく、私たちがいい作品だと思う映画を観せています。少し難しい作品の場合は、「観終わった後でクイズをするから、よく観ていてね」とか「スクリーンの中で赤いものを探して」とか、上映前に話しておくと、スクリーンに集中して一生懸命に観るようになります。

是枝裕和監督は「こども映画教室」の特別講師をこれまでに3度も引き受けている。
是枝裕和監督は「こども映画教室」の特別講師をこれまでに3度も引き受けている。

――「こども映画教室」がきっかけで、映画監督とか映画の仕事に就きたいと思うようになった子もいますか?

 

いますね。フランスのシネマテーク・フランセーズが主催している「映画、100歳の青春」(CCAJ)という国際的な映画教育プログラムがあります。世界中から、6〜18歳くらいの子どもたち1000人ほどが参加しているのですが、2017年から毎年中学生を連れて参加しています。そこで刺激を受けた子のひとりは、フランスで勉強したいと今年の1月からフランスに留学しています。また別の子は、カナダに留学しました。その親御さんからは、それまで勉強なんてしたことがなかった子が、CCAJから帰ってきてからは人が変わったように一生懸命勉強していたと聞いています。

 

――日本では子どもの映画教育に関する熱は高まってきていると思いますか?

 

17年前に始めた時には、映画業界の反応は冷ややかだったと思います。「子どもに映画づくりを教えて何になるんだ」という言い方もされました。作り方は教えない、という方針なのに。でも、是枝裕和監督や諏訪敦彦監督などゲストでお呼びした監督たちが賛同してくださっていることもあり、確実に理解は深まっていると思います。最近では、異業種からの方々からもさまざまな誘いを受けています。SDGsというキーワードから、注目が集まっているように感じますね。「ひとりも取り残さない」というSDGs的な考え方はたしかに「こども映画教室」がやっていることと響き合うと思います。

こども映画教室

「こどもと映画のアカルイミライ」を目指すことをミッションに、映画・映像に関するワークショップの企画・実施、学校などへのワークショップのコーディネートや、シンポジウムの開催などを行っている。ワークショップは「映画のおもちゃ工作」「映画観賞」「映画制作」などを開催している。

 

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