絵本レーベル第1弾『しんまいぐま』発売!写真家・若木信吾さん×イラストレーター・オカタオカさん インタビュー
──表紙には、こちらに背を向けた神妙な面持ちのくまさん。まだ「くま」としては「しんまい」のようで手慣れたベテランくまが川で上手にしゃけを捕まえているのを「ぼくもたべたいな〜」と眺めています。自分もしゃけを捕まえようと挑戦しようとしますが……。川にドボン! しゃけに噛まれてガブッ!など、ユーモラスなくまの動きや表情が楽しい1冊です。作・絵は、人気イラストレーターのオカタオカさん。「くま」はオカタオカさんにとって、描き続けている大切なモチーフのひとつ。写真家の若木信吾さんは、それが絵本になるのではないか、と思ったそうです。
若木:ちょうど1年前くらいに僕が浜松でやっている小さな本屋〈BOOKS AND PRINTS〉でオカタオカくんの絵の展示を行ったんです。その中に、作品のひとつとして、この絵本の中にも登場するくまが魚を手で掴む絵があって。つかまれて「ぎょえ」ってなっている魚の表情や水の「バシャ」という躍動感とか、この1枚で「あ、もうストーリーになっている」と。子どもたちが喜びそうな絵本ができあがるぞ、とイメージが膨らんだんです。それで、この絵の前後をつけて、絵本を作りませんかと彼に持ちかけたんです。
オカタオカ:もともと絵本はずっと描いてみたいと思っていたのでお誘いいただいたのは素直にうれしかったですね。絵本の制作ってとても難しいんです。ストーリーもゼロからご自身で考えてください、と言われることがほとんどで、アイデアを出してそれをまた吟味して……というのが延々と続く。だけれど、若木さんの提案はすごく具体的で、話が早かった(笑)。おっしゃっている通り、この絵を入れたいみたいな具体的な依頼もありましたし、もっと細かなページ数とかフォーマットも決まっていて。参加するアーティストも5名の方で5作品作る予定というのも、あらかじめ伺っていました。
若木:オカタオカさんをはじめ、今回お願いした5人のアーティストの方々は、みなさんほぼ絵本作りがはじめてなんですよね。絵本って「こうあるべき」とか「教えがないといけない」というような固定概念も強いし、その一方で決まったフォーマットもないから、制作のとっかかりが難しいと思うんです。ただ、今回は僕の中で明確な目標があったので、それを提示することで共同作業がスムーズにできるんじゃないかと。絵本を作る責任を作家さんに全部委ねるのではなく、プロデュースする側がきちんと方向を指し示すことで、作家によいパフォーマンスをしてもらいたかった。みなさん、依頼を受けてイラストを描くとか、グラフィックを作ることに関してはプロなんです。だから、方向性さえきっちり伝えれば、まちがいなくいいものができると思いました。
オカタオカ:そうですね。きっと、僕も「題材はくま」というだけの依頼だったらもう少し迷っていたと思います。ストーリーも最初は24ページくらいの内容のものを提案したんですけど、もっと短くていいと。それで削って、削って12ページ程度のものにまとめました。
若木:今回、僕が絵本をやろうと思ったのは、自分の子育ての経験からなんです。絵本って自分から進んで読むものではなかったんですけれど、子どもが生まれて手にとるようになって、いろいろ読んでいくと2歳くらいのころに「ちょうどいいもの」の選択肢があまりないということに気づいたんです。大人も楽しめるような物語絵本ってやはり4、5歳以上向けのものになってしまう。ベストセラーになっているような定番の赤ちゃん絵本はありますが、もう少しストーリーや読んでいて楽しみのあるもの、ビジュアルに魅力のあるものがあってもいいのではないか、と。だから、今回のシリーズのターゲットはずばり2歳児なんです。さっき言った明確な目標というのは2歳児に読んでもらうこと。2歳の子は、基本的にストーリーとか話のオチとか関係ない(笑)。面白い絵や気に入った表情があれば、そこを何度も繰り返し読みたい。「もう1回」「もう1回」と連続5再生くらい余裕である。だったら、ページ数も短く12ページくらいでいいんじゃないかと思ったんです。
オカタオカ:プロデューサーとしての若木さんとの仕事は本当に刺激的でした。8コマの絵を半分の4コマにしてくれとか、いろいろ難しい修正もあったんですけれど(笑)、それも「2歳の子どもたち」の視点を的確に分析してアドバイスしてくれていることなので、説明をきくとすっと懐におちるものがあって、それならやらなくちゃ、と思える。本当にひとりで作っているという感じじゃないんですよね。若木さんは写真家としてだけでなく、こういった新しい試みも次々と実現されていて、そこがスゴイ。普段、僕もひとりで作家活動をしていますけれど、こうやって誰かと何か作るのは本当に面白いことですし、僕自身も誰かとなにか生み出すことを自分からはじめてみたいとさえ思えました。
若木:作家ってふだん何のために作品を作るかというと、結局、自分のためじゃないですか。僕もそうですから。でも、この絵本シリーズに関しては私利私欲が一切ないんですよね。そういうものを全部捨てて子どもたちを喜ばせようということに集中できる。それが楽しいですよね。絵本のサイズは、お父さんやお母さんのバッグに入れて持ち運べて、子どもたちの手にちょうどいい大きさにしようとか、紙質も強めのボール紙で中面はツルツルのコート紙で、少しくらいお茶がこぼれても大丈夫なものがいいよね、とか。ここで作家性を出したいからと、変型サイズにしたりだとか、質感のある紙にしようとかすると、急に読者から離れてしまうんです。自分の作家性と切り離してできるから、純粋に作品に打ち込めたんだと思います。
──若木さんは、絵本はビジュアルを介した親と子の大切なコミュニケーションツールだと言います。
若木:うちの子が0歳のころ、まだ絵本もそんなに揃っていなくて一緒に(アメリカの画家)サイ・トゥオンブリーの画集を眺めていたんです。「ぶわーってなってるね」とか言いながら。それがすごくウケていて(笑)。子どもは、一緒に話しながら絵を眺めるだけでもすごくたくさんのことを受けとってくれる。でも、それには親のパフォーマンスがとても大事。子どもには、時間も言葉もない。すごく未知の存在なんです。何も知らない彼らにとっては、すべてのものが新しいもの。だから、お父さんやお母さんが普段言わないような「ぎょえ!」とか言っていたら、それだけで楽しいし、いい交流になる(笑)。今回の絵本は、オノマトペもたくさん入れて、絵だけでなく言葉も楽しく読み聞かせできるものを意識しました。
オカタオカ:絵本は、長く読んでもらえることもとてもうれしいですね。
若木:ボロボロになるまで読んでほしいよね。2歳児にとって絵本はおもちゃの延長だから、雑に扱ってほしいです。汚くなったら、弟や妹には新しい『しんまいぐま』を買ってあげて(笑)。
オカタオカ:愛着を持って読んでもらえたらいいですよね。僕自身も、『しんまいぐま』に愛着があるので、この1冊だけでなくもっといろんなことに挑戦させてあげたい(笑)。シリーズで続けていくのも面白いかもしれない。
若木:それもいいね。50作目くらいになってもまだまだ「しんまい」なんでしょ(笑)? まだまだ手探りではじめた絵本シリーズですが、まずは『しんまいぐま』をはじめとする5作品を大切に、多くの方に読んでいただけるように紹介していければなと思っています。たくさんの子どもたちの手に届けばうれしいですね。
〈オカタオカ / イラストレーター〉
1986年宮崎県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。雑誌や書籍、アパレル、広告などのイラストレーションを手がけるほか、国内外での個展開催などその活動は多岐にわたる。バンド『水中図鑑』としても活動。好きな絵本は馬場のぼるの『11ぴきのねこ』。
〈若木信吾 / 写真家、映画監督〉
1971年静岡生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真学科卒業。写真家として、雑誌・広告・音楽媒体など幅広い分野で活躍。故郷である静岡県浜松市に書店〈BOOKS AND PRINTS〉を持つ。