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大人にも子どもにも効く「哲学対話」ってなに?
哲学=難しい?
「哲学」と聞くとどんなイメージが浮かぶだろうか。
日本ではどこか縁遠いイメージのある「哲学」だが、ヨーロッパでは哲学は学校のカリキュラムに入れられている国も多く、例えばフランスの高校では必修科目となっているほど距離の近い学問である。「学問」というとまた小難しそうに聞こえるかもしれないが、生きていくうえで、知っておくといい知恵や思考といった捉え方が近いのかもしれない。
そんな哲学的な考え方で、大人も子どももそれぞれが抱える悩みや問いに対して、対話を重ねることで考えを深めていく「哲学対話」というアプローチ法がある。
「人生とは?」といった壮大なテーマではなく、もっと身近な問いや悩みに対して、語り合っていく哲学対話は、例えば、友達付き合い、教育方針、学校での悩みなど、身近な問題を掘り下げていくもの。大人も子どもも抱えているモヤモヤの扱い方を対話によって掘り下げていくという。まさにFasuファミリーが知っておきたい、いわばコミュニケーションスキルだ。
そこで今回、哲学対話について深く理解すべく、哲学対話のスキルやプログラムを全国で提供するNPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」理事・幡野雄一さんと、幡野さんと共に哲学対話を用いた芸術ワークショップを開催している「THEATRE for ALL(シアターフォーオール)」主宰の中村茜さん、さらに歌手の坂本美雨さんに集まってもらい、鼎談を実現。「大人にも子どもにも効く哲学対話」をテーマにそれぞれの考えを語ってもらった。
「嘘はどんな時でもついちゃダメ?」という問いに向き合う
ーー哲学と聞くと、多くの人が「難しい」「専門的なもの」といったイメージを持つと思います。この「哲学対話」は、どういったものなのでしょうか?
幡野さん:哲学対話とは、正解が一つに決まらないような問いを、皆で問いあって考えていくもの。ここで言う「哲学」は学術的なものではなく、専門的な知識は必要としません。哲学者の考えを掘り下げるのではなく、自分自身が哲学者になって思考するスタイルです。哲学=「愛とは」「正義とは」みたいな壮大なイメージが強いと思いますが、哲学対話で取り上げるのは普段感じている悩みや疑問。「宿題は本当にやらなきゃいけないの?」「嘘はどんな時でもついちゃダメ?」など身近にある問いに向き合うのが哲学対話です。
坂本さん:なるほど。ディベートとは全く異なるものなんですよね?
幡野さん:意見を言い合うディベートは、基本的に自分の考えや立場を崩さないスタイルですよね。でも哲学対話は他者の意見を聞きながら、自分の考えを柔軟に更新していくもの。そのために自分の意見を主張するよりも、どんどん相手の意見や考えを引き出して聞くことが重要になります。
中村さん:問いかけ合うのが大切って言われてましたよね。自分の意見を言うだけでなく、人に意見を聞いたり、人の意見を傾聴する、っていうことも大事にしてください、みたいな。
幡野さん:そうです。そうです。
中村さん:私たち「シアターフォーオール」でも、その点がとても面白いと思って「哲学対話」のワークショップを開催しているんです。「シアターフォーオール」は、アクセシビリティに特化したバリアフリー対応のオンライン劇場で、年齢や障害の有無、住んでいる場所などに関わらず、より多くの人に豊かな鑑賞体験を提供することを目指しています。作品を配信するだけでなく、その作品のテーマをより深く理解したり、探求したりすることを目指して、ラーニングプログラムも展開しているのですが、そのうちの一つが、哲学対話を用いたワークショップ。芸術に対する障害という意味では、作品を見てその内容の難しさや分からなさにモヤモヤする気持ちも、一つのハードルだと思っています。そういったモヤモヤを巡る考察を「哲学対話」を通してポジティブな思考時間として捉え直していきたいと思い、ワークショップを企画しています。
芸術鑑賞の場にも有効的な「哲学対話」
ーーなるほど。作品を観た時のモヤモヤもハードルというのは面白いですね。たしかに難解な作品や自分の価値観とは異なる作品を観た時はなかなか咀嚼できなくてモヤモヤすることがあります。
中村さん:そうなんです。さまざまな意見をシェアすることで新しい価値観にも出会えるんじゃないかな、と。私は演劇プロデューサーとして作品を作るとき、古代ギリシャ演劇を参考にしているのですが、インターネットや印刷技術がなかった当時は、演劇こそが社会を伝え、批評するメディアだったそうです。大きな劇場に何万人もの人を集め、そこで社会風刺や政治批評的な作品を上演し、それをきっかけに人々が議論していた。そういった演劇の社会的機能を復活させたいと思い、日々活動しています。
ウィリアム・フォーサイスというコンテンポラリーダンスの巨匠がいるのですが、彼はパリでの初演があると必ず、スタンディングオベーションとブーイングが半々になることを毎回目指しているそうです。私はそれがとても健全な社会の在り方だと思っていて。いろんな意見があることで議論も深まりますし、結果より良いアイデアに繋がったり、新しい気づきが生まれると思うんです。「哲学対話」もさまざまな人の考えに耳を傾けるという点で、私自身が目指す演劇のあり方と通じるものがあると感じ、共感しています。
坂本さん:そのお話、とても興味深いですね。アメリカは裁判文化なので、自分の意見を通すためには相手の意見も聞いて、それを受け止めた上で論証したり反論しよう、という考えがあります。主張を大切にする姿勢は、哲学対話の考えとは少し異なりますが、ただアメリカで学ぶ「自己主張」は決して攻撃的な姿勢ではなかったと思います。アメリカでも相手の意見を聞くというのは、自己主張と同じくらい大事だと教育されますね。でも、日本では、子どもたちが他者と対話する機会がそもそも少ないように感じますから、ワークショップなどで「哲学対話」の柔らかい姿勢も経験できる機会があるといいですよね。
哲学対話とは、固定概念をほぐすためのアプローチ
ーー家庭でも「哲学対話」を知ってると良い場面は多そうですね。
坂本さん:子どもも大人も、自分の中にある考えに固執してしまうことはありますよね。やっぱりそれぞれ自分の正義があるから。私自身は自分の考えは子どもに伝えたいですが、でもそれが正しいこととは思って欲しくない。子どもから何か悩みや疑問を投げかけられた時も、「ママはこう考えるけど、ママが正しいとは限らないし自分で考えて」と伝えます。でも娘と意見が違う時に尊重する気持ちはありつつも、自分の考えを信じているところもあるからモヤモヤすることも正直あります(笑)。
幡野さん:実は哲学対話は、誰が正しいとか何が間違っているとか「正解」が出るものではないんです。モヤモヤが残ったまま終わるので、問題を解決してスッキリしたい人は「結論は何なの?」と感じて本当に合わないと思います(笑)。じゃあ哲学対話で何ができるかというと、他者のさまざまな意見を聞いて受け止めることで、1回自分の中にある固定概念を「ほぐす」ことができるんです。そうすることで、価値観の固執から解放される。そこでほぐした思考をもう一度自分で編み直した時に、それぞれ自分なりの答えが出るのかなと思います。
大人と子どもが「哲学対話」をする時に気をつけたいこと
中村さん:幡野さんが哲学対話を始める最初の説明の時に、「わからないことからしか哲学は始まらないよ」っていう話をされてて、「わからないっていうことを割とポジティブに捉えるっていうのが哲学なんです」って話されてるのはすごく印象的でしたね。フランスとかで小学校とか幼稚園とかから哲学の時間があるっていうのはすごい大事なことだなと思うんですよね。社会と自分がどう関り続けるかっていうことも考え続けるから、それと同じで考え続ける場っていうのを肯定していく教育だったり、社会風土みたいなものを作れるといいですよね。
幡野さん:そうなんですけどね。難しいですね。子どもに限らず「わからない」って恐怖ではあるんじゃないですか。一番の恐れだし、不快だし。だからそのわからなさから発生する恐怖とか、不快感に耐性をつける、みたいなのも一つ重要なのかなという気がする。すぐその不安とか恐怖を取り除こうとすると、やっぱりそれはよくないと思って。不安な顔しててもそのままにしておくとか、お子さんに何か聞かれても正解を答えられない時ってありますよね。そんな時は、お母さんもわからないってことで不安な顔をしていればいいわけですよ。
中村さん:共感するっていう
坂本さん:そうですね。「私もわからない」っていうこととか、あと子どもとは別の、自分の疑問っていうのを子どもに投げてみるっていうのもいいのかなって気がする。
中村さん:さまざまな価値観を知るという点で、子どもたちが何か疑問や悩みがあった時に、家族以外の幅広い世代の人と対話する機会があることも重要なように思います。以前「シアターフォーオール」で演劇ワークショップをやった時に、多世代の人たちが集まるとすごく有機的な良い環境が生まれることに気づきました。子どもは感情のスイッチをオンにするのがすごく早いので、子どものエネルギーにつられて大人もどんどん気分が乗ってくるんです。そうすると子どもたちも喜んで、またムードが高まって。学校や家庭ではなかなか実現しづらいと思うので、「シアターフォーオール」のような劇場や民間の教育機関が、多世代の人たちと交流し新しい気づきや学びを得られる場を作れると良いなと思います。
坂本さん:私自身も、我が子には違う年代の人たちともフラットに交流して欲しいと思っているので、意識的に私の友人や仕事先の人に会わせるようにしています。家庭内の価値観だけが正解ではないし、何か迷った時に、年齢を問わずに色んな人の話を聞きに行って欲しいなと。親世代だけでなく、その上の世代の話を聞いたりだとか。年代を超えた多様な価値観を知ることも大事ですよね。
幡野さん:大人は言語化する能力が子どもより圧倒的に高いので、対話する時に子どもの意見に対してどんどん親が意見や質問を返すと、子どもが萎縮して意見を言いづらくなってしまうことがあります。なので子どもの話を聞く時は大人が意識的に間をおくと良いと思います。しっかり聞いているよという身振りや一緒に悩んでる姿勢を見せながら。子どもの話を聞く時は大人が少し演技をして、しっかり聞いているよという身振りや一緒に悩むフリをすると良いですよ。
あとは哲学対話で一番重要なのは、「じっくり、ゆっくり相手の話を聞く」こと。携帯を触りながら、料理しながらではなく、対話だけに集中する時間をしっかり持つことで、より良い哲学対話の時間になると思います。子どもたちも相手が「自分の話を聞いてくれているんだ」と実感できると、自然と他の人の話もきちんと聞けるようになると思います。ただ実は以前、保護者の方から「私が子どもの話を聞きすぎたのか、子どもは私の話を全く聞かなくなってしまった」と言われたことがありました(笑)。大人が子どもの話ばかりを聞くのではなく、適所で大人の意見を聞かせることももちろん大事ですね。
坂本さん:わかってはいても難しいんですよね。つい、スマホ見ながら返事しちゃったりしてます。気をつけないと(笑)
THEATRE for ALL(シアターフォーオール)
演劇・ダンス・映画・現代アートなど様々な作品を対象に、日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施し、アクセシビリティを高めた映像を配信する、オンライン劇場。作品配信に加え、視聴者がより深く作品を理解するための気づきを与えるラーニングプログラムも開催。作品の解説動画や参加型のワークショップなどを実施している。またラボとしての機能も持ち、障害当事者やアーティスト、専門家らとともに、新しい視聴環境を探るプロジェクトなど、身体や言語、環境などが異なる人々同士のコミュニケーションについて、思考し議論していくためのリサーチや場づくりを行っている。リサーチ結果の一部は、『THEATRE for ALL LAB』マガジンを通して発信するほか、シアターフォーオールをはじめとする事業に還元している。
■Fasuが注目する「シアターフォーオール」のラーニングプログラム
(1)2つのQ(キュー)
配信作品をもっと深く理解するための、鑑賞前のウォーミングアップ動画。アーティストや学者が登場し、作品をより理解できるようなヒントを伝授。「2つのQ」が大切にするのは、作品を感じ考える「クエスチョン」と、考えたことを行動に移す「クエスト」という姿勢。シアターフォーオールで公開されるほぼすべての作品に、「2つのQ」の動画がついている。(視聴無料・各作品10分程度)
今回対談に登場した歌手・坂本美雨さんが登場する「2つのQ」も合わせてチェック>>
(2)定期開催ワークショップ「てつがくタイム〜モヤモヤを楽しむ対話の場〜」
シアターフォーオールの配信作品を鑑賞し、その作品のテーマについて深く考え話し合う、「哲学対話」を用いたワークショップ。作品から感じた疑問や不思議を語り合うことで、作品への深い理解へと繋げていく話題のプログラム。NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」の理事・幡野雄一さんが講師を務めている。次回:6/27(日) 10:00-12:00「True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の”当事者”との葛藤 –」を題材に実施予定。
ワークショップの詳細はこちら>>
(3)THEATRE for ALLラーニング 未就学児〜大学生まで!夏のワークショッププログラム 実施
シアターフォーオールでは6月末〜7月にかけて未就学児から大学生向けのワークショップを展開。
作品の鑑賞体験を深める対話型ワークショップや、アーティスト自身から創造の種をもらうワークショップから美術館との協働まで。
この夏、アートと触れ合い、アートから学ぶ、新しい体験ができる予定だ。
7/4(日)Aokid「おうちでつくる◯+□+△!」
7/11(日) ミるミる見るツアー 〜映像を聴いて、語るワークショップ〜
その他多数のワークショップが実施される。