演劇劇団マームとジプシーの藤田貴大さんによる演劇『めにみえない みみにしたい』の全国ツアーを記念して、スズキタカユキさん主宰のファッションブランド〈suzuki takayuki〉が子ども服を販売。スズキタカユキさんと藤田貴大さんの対談が実現しました。
演劇劇団マームとジプシーの藤田貴大さんによる、子どもから大人まで楽しめる演劇『めにみえない みみにしたい』が全国ツアーを開催中。ツアーを記念してファッションブランド〈suzuki takayuki〉による子ども服が販売されました。
ラインアップは、オーガニックコットンを使ったやわらかなワンピースドレスと、男女どちらでも着られるブラウスの2型。サイズはゆとりを持たせた100と120サイズ、2歳くらいから6歳くらいの子どもが着られるようになっています。「suzuki takayuki オフィシャルオンラインストア 『esseism』」と『めにみえない みみにしたい』公演会場にて販売中。
今回、子ども服の販売を記念して〈suzuki takayuki〉主宰スズキタカユキさんと藤田貴大さんの対談が実現。藤田さんが関わる20以上の作品やプロジェクトで衣装を手がけてきたスズキさんと藤田さんに、子ども服を作ろうと思ったきっかけや演劇・衣装制作への思い、子どもとファッションの関わり方などを聞きました。
──今回子ども服を作ることになったきっかけを教えてください。
スズキ:『めにみえない みみにしたい』のチラシのビジュアルに小さな女の子が一緒に入ることになって、その衣装を作ったのがきっかけですね。チラシ用にとりあえず1枚作ったのですが、それが意外といいよねって。僕が言うのも変ですけど(笑)。自分的にもちゃんとした“子ども服”を作ったことがなかったので、面白かったです。
──藤田さんはスズキさんに衣装をお願いする時、あまり具体的なイメージを伝えずにお願いするそうですが、今回もそう感じだったのでしょうか?
藤田:笑。スズキさんに話をしに行く段階では、本当にまだ何も決まってないんですよね(笑)。脚本もなくて、タイトルだけが決まっているくらい。イメージだけがある状態で具体的にどうしていくかは決まっていない。でも、そういう段階で話せる人と作品をつくりたいなと思っていて。スズキさんは、それができる人なんです。だから、シャツがいいです・ワンピースがいいですとか、そういうオーダーはしたことはなくて。例えば、スズキさんからは「色のイメージある?」というのは聞かれるんだけど、それもあまり答えていないんです(笑)。
スズキ:全体の雰囲気とか、こんな感じとかは話してくれるけど、確かに具体的な話はないね(笑)。やんわりとした、ふわっとした塊から作っていきます。
──『めにみえない みみにしたい』は去年に続いて再演ですが、衣装としては何か変えた部分はあるのでしょうか?
スズキ:基本的に大きくは変わっていないけど、初演の時に役者さんが動いてみて、感じたことや気になった部分を変えています。役者がただストンと立っているのを引きで見れば一緒に見えるかもしれませんが、動いてみると結構違うんですよね。
藤田:スズキさんは全体感のまとめかたがすばらしいのはもちろん、1人ひとりの組み立て方が緻密で、いつも驚くんですよね。舞台って、10人の出演者がいたら、10人がずっと舞台にいるわけじゃない。シーンによって、組み合わせや配置が変わる。2人の時は2人の雰囲気になる。スズキさんは身体性のある人だからだと思うんですけど、そういうアンサンブルを組んでいくことについても任せることができるんです。たとえば警官役なら警官らしい服装をさせるという、キャラクターの説明になるようなことを衣装に求める演出家もいますよね。それがもしかしたら「普通」なのかもしれませんが、スズキさんとの作業では衣装でキャラクターを決めることはしないですね。説明的なことはしなくても、組み合わせによって不思議と俳優がその人物に見えてくるんですよね。
スズキ:藤田くんが演出している作品は、世界観やストーリーがちゃんとあるよね。舞台としては、その世界のポイントだけを切り取って描いているんだけど、舞台では表現されていない前後の時間の流れを感じるので、服も時間の流れの中にないと、きっちりハマらないなと思って。そういう意味で、それぞれがその世界にも馴染んでいる不自然じゃないものにしたい。例えば制服にしても、毎日そんなにバッキバキで着込んでいる人って、そんなにいないじゃないですか? 制服が決まっていても、それぞれの着こなしがある。そういうところを大事にしたいな思っています。
──藤田さんが、子ども服の感想を「触っていると、とても安心するお洋服です」と言っていたのが印象的でした。
藤田:俳優が私服から衣装になった時に、表情や様子が引き締まるというのはどんな現場でもかならず見ることになるのだけど、スズキさんの衣服を着たときの変化というのはまた特別にありますね。あまり「衣装」とは言いたくないんですよね。衣装というか、まぎれもなく「衣服」なんですよね。スズキさんの衣服には、着ないと分からないようなディテールや演出が組み込まれていて、僕が知らない関係を(俳優とスズキさんで)結ばれているような気がするんです。素材も、ものすごくいいし、ある種お守りのようなお洋服なんです。だから子ども服をつくってみたとしたら、とても素敵だろうなあと思っていました。
スズキ:嬉しいですね。でも、そういう存在ではありたいなと思っています。服って、人間の最も身近にあるもののひとつだと思っているので、自分にとって思い入れのあるもの、大切なものであって欲しいと思いますね。
藤田:俳優にとって、上演時間というのはもちろん緊張を強いられている厳しい時間でもあるんですよね。スズキさんは、『仕立て屋のサーカス』というライヴ表現を普段から取り組んでいるので、観客の前に立つときの俳優の状態をよく分かっている。
スズキ:役者さんは舞台上ではある種、孤独だと思っていて。だから近くにあるものが、自分を精神的に支えてくれるものだったり、安心感や拠り所になるようものになって欲しいというのがあって。半分は、お客さんに対して見せるものなんだけど、残り半分は本人にとってどんな存在かというのが重要だと思いました。
藤田:スズキさんと取り組んできた作品のなかには、戦争時代を描いている作品など、内容自体が過酷なものもありました。そういう題材を扱う作品のときも、スズキさんのつくる衣服が俳優の肌から一番近いところにあってよかったと思っています。福島でつくった『タイムライン』という作品には、30人くらいの中高生たちが出演します。3年という時間をかけてつくり続けたので100人ちかくの中高生と出会ったことになるのですが、上演が終わったら、スズキさんがその一人ひとりに製作した衣装、つまり衣服を手渡ししていくんですよ。なにかを着るというそれ自体がスペシャルなことであって欲しいと思うし、さっき話した“お守り”のような感覚がみんなに伝わっているといいですよね。
──今回作った子ども服も、そんな“お守り”的な存在として子どもたちが袖を通してくれるといいですね。
スズキ:『仕立て屋のサーカス』を海外でやった時に、「動物は出るのかな?」と本当のサーカスと間違えて来た子どもたちもいました(笑)。実際は全然違うんですけど、それでも、すごく楽しんでくれたのが印象的でした。今回の『めにみえない みみにしたい』もそうですが、子どもを意識しているけれど、決して子ども向きの作品ではなくて、大人も子どもも一緒に楽しめる作品だと思っています。僕がやる中で意識していたのは、大人と子どもが一緒に「服を着る」ということを感じてもらいたいという事です。服を着る体験を印象に残るものにして、いい意味で引っ掛かりが残る経験になって欲しいんです。それは、『タイムライン』も同じで、ひとつの体験・体感をしてもらいたい思いから、この服を作ったというのがあります。
藤田:スズキさんは、つくったものを実際に俳優1人ひとりに着せていくんです。その時間のなかで俳優は、こう着るとこういう表情になるんだなということを学んでいく。スズキさんの手によって「着る」という体験を生んでいることも面白いと思います。
──子どもを意識したものづくりを経て、変化したこと、心境の変化はありましたか?
スズキ:実は子どもに向けての服ではあるのですが、子どもということを意識して作ってないんです。作りとしては、ほぼ大人の服と同じ作り方をしていて。というのも、子どもは体験や知識は大人に比べると少ないけど、一つのことからたくさんのことを感じていて、実は単純じゃないと思っていて。僕らが思っているより、複雑なことを考えたり、わけのわからないことを考えていることもある。子どもだけど、1人ひとりの存在でもある。大人と子どもを分ける必要はないんだということを、改めて思いました。
藤田:僕も全く同じなんですけど、子どもだからといって侮らない。大人と同じくらいのことを考えているけど、抱いている感情をすぐに言葉にできないだけ。例えば、「死ぬ」とか「森が燃える」という言葉も全く同じように受けとってくれている。だから、やればやるほど大人と何も変わらないと分かるんです。一番よくないのは、子どもだからといって手を抜くことだと思います。
スズキ:作品の中では、結構ドキッとする言葉も使っていますよね。世の中は、そんなきれいでふわっとしたものばかりではない。それがすごくいいなと思います。子どもだから、何も伝えない・隠すというのはちょっと違うと思います。
──お二人は幼少期のファッションについて、思い出はありますか?
スズキ:僕はお気に入りのTシャツが1枚ありましたね。なんてことない白いTシャツだったんですけど、超ボロボロになって穴が開くまでずっと着ていました。幼稚園から小2くらいまで着てたかな。最後、原型をとどめていないくらいになって捨てる時、切ってハギレにして残すくらいでしたから(笑)。中学生くらいまでハギレを持っていたのを覚えています。今でも下手したら残っている可能性がありますね(笑)。
藤田:(笑)それは熱い話ですね。
スズキ:全然洋服とかに興味があったわけじゃないけど、執着があったんだよね。持っているとなぜか安心する。藤田くんは何かなかった?
藤田:僕は、母親が買ってくれた服をずっと着てましたね。中学くらい徐々にそれが恥ずかしくなって、弟と一緒に隣町の古着屋に行くとかはありましたけど。特にこれが好きとか、こだわりはありませんでしたね。
──ファッションと演劇。それぞれが、子どもたちにどんな存在になって欲しいと思いますか?
スズキ:子どもに限らず、「自分はこれでいいんだ」「自分のままでいいんだ」と後押ししてくれるもの、自分を守ってくれるものであって欲しいと思います。僕が服を作っていて一番素敵だなと思うのが、いろいろな要素がたくさん入っている服。シャープだけど柔らかい、未来的だけどプリミティブ、フェミニンだけどマスキュリン。さまざまな要素が、ここでしかバランスが取れていないところで立っている服がかっこいいと思っています。そういう服は、着る人にとって見え方が変わり、その人に似合うものだけが際立ってくる。どういう人が来てもある程度似合うんです。だから、うちのブランドを好んで買ってくれるお客さんは、年齢層もタイプもいろんな振り幅がある。誰かに似合って誰かには似合わないではなく、自分なりの着るポイントが見つけられて楽しい服でありたい。子ども達にとって、自分が自分のままで認めてもらえて、自信につながるようなものになってくれると、世の中がちょっと楽しくなるかなと思っています。
藤田:スズキさんがつくる衣服に触れていると、布というものに意識がいくようになったんですよね。俳優は布がまとっているわけだから、観客は絶え間なく布を見つめているとも言えますよね。いろんな要素が詰め込まれたのが演劇で、作品というのはそのひとつひとつのバランスがどう保たれているかだと思うんです。そこにいるのは俳優だけではなくて、その時着ている衣服があって、音も光もある。
お洋服を着る時間、ご飯を食べる時間、いろんな時間に目を向けられるようになっていくためにも、演劇というものがあるような気がしています。お洋服をネットで買うだけじゃなく、その時、お店に足を運んでその空間の空気感を味わってみるとか。いろいろな要素の心地よさを知っていれば、昨日より面白い生き方ができる。それに期待をして、演劇というものを立ち上げているんだと思います。
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スズキタカユキ
1975年愛知生まれ。東京造形大学在学中に友人と開いた展示会をきっかけに映画、ダンス、ミュージシャンなどの衣装を手掛けるようになる。2002-03A/Wから『suzuki takayuki』として自身のブランドを立ち上げる。近年では、様々な企業とのコラボレーションや、アーティストへの衣装提供、演劇やダンス等、舞台での衣装製作も精力的に行う他、パフォーマンスプロジェクトの「仕立て屋のサーカス」を立ち上げ、国内外で多数の公演を行っている。藤田貴大さんが演出を行う作品やプロジェクトでは、『cocoon』をはじめ20以上の衣装を担当する。 http://suzukitakayuki.com/
藤田貴大
マームとジプシー主宰/演劇作家
1985年北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。07年マームとジプシーを旗揚げ。以降全作品の作・演出を担当する。作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す“リフレイン”の手法で注目を集める。11年6月〜8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。以降、様々な分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、演劇経験を問わず様々な年代との創作にも意欲的に取り組む。http://mum-gypsy.com/wp-mum/