DATE 2017.03.30

アートとクリエイティビティに富んだ〈ソフト・ギャラリー〉。ティナとバーバラのデザイナーデュオにインタビュー

<ソフト・ギャラリー>はティナとバーバラによる、コペンハーゲン発信のキッズウェアブランド。今年でブランド設立10周年を迎え、じわりじわりと日本でも知名度を上げている。母として、そしてデザイナーとして、さまざまなアーティストとクリエイティブな探究心を掻き立てている2人。オリジナリティ溢れるデザインが生まれるまでの軌跡を辿る。
デザインを手がけるティナ・ホルト・モラー(左)とバーバラ・ヴィット(右)。

Tシャツやトレーナーに施されているユニークな手書き風の刺繍。さまざまなアイテムに描かれている色とりどりのプリント。<ソフト・ギャラリー>の服は見ているだけで心が弾む。ティナ(TINE)とバーバラ(BARBARA)のデザイナーデュオによるこのブランドは、コペンハーゲンを拠点に置き、今年、ブランド創立10周年を迎えるキッズブランドだ。彼女たちの服はどれもプレイフルかつ独創的。まるでアートを身に纏っているようだ。

数々のウェメンズウェアブランドにて経験を重ねたキャリアを活かし、自由かつプレイフルなキッズウェアを生みだすデザイナーのティナ。

デンマーク出身の彼女たち。2人の出会いはロンドンだった。「ティナはRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)でウィメンズウェア、私はLCF(ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション)でフォトグラフィーを専攻していたの。ティナの卒業制作を撮ったのが私だった。それに私たちはたまたまノッティングヒルに住んでいたの。それから、友達として関係を築いていったわ。卒業後、私はロンドンに残りフォトグラファーとして活動し、ティナはデンマークでいくつかのブランドでキャリアを積んだの。そして10年前、私もコペンハーゲンに戻り、彼女と再会し、一緒に<ソフト・ギャラリー>をスタートした」とバーバラは当時を思い返す。

ファッションフォトグラファーとしての経験も持つバーバラ。デザインプロセスにおいては、子どもたちの意見も大切にしているという。

2人ともキッズウェアのフィールドにはいなかった。しかし、彼女たちに共通していたことは、アートへの深い興味とクリエイティビティへのこだわり、そして詩的かつストーリーのある服を作りたいという強い思いだったという。「デンマーク出身のインターナショナルなキッズブランドを作りたかった。私たちは、2人の子どもを持つ母親でもあり、何より子どもが大好きよ。それに私たちは母親として子供たちにどういう服を着させたいかっていう、リアルな目線を持っている。ウィメンズウェアはトレンドがあり、そのトレンドは絶えず変化しているけれど、キッズウェアは、自由かつプレイフルにデザインができるわ。毎シーズンが小さなプロジェクトのようなの。デザインを手がけることは、みんなに物語を話している感覚よ」とデザインを心から楽しんでいる様子が伺える。「ファッションとアートにとても興味があったわ。キッズファションにも、もっとクリエイティブでアートな風を吹き込みたいと思っていたの。そこで、これまで出会った多くのアーティストたちとコラボレーションして、斬新かつ新鮮なデザインを生みだすというアイデアを思いついた」。国境を越え、様々なアーティストと活動をしていた彼女たち。これまで知り合ってきたアーティストや興味のあるアーティストたちに連絡を取り、初のコレクションを完成させた。「初めてのコレクションは25ルックのエクスクルージヴなコレクションだった。スウェーデンとデンマーク出身の、オートクチュールの手刺繍アーティストとコラボレーションしたの。キッズのためにソフトかつウェアラブル、そして何より美しい、とても素晴らしいコレクションだった。アーティストと協業することができ、ユニークでオリジナリティ溢れるコレクションが完成した。とても楽しかったわ」とティナは話す。その後、さまざまなアーティストとのコラボを通じ、彼女たちは自身の境界線を超えていく。「<ソフト・ギャラリー>は、私たちの新たなクリエイティブスペースとなったわ。ただ新しいデザインを作りだすだけでは意味がなく、もっと深いストーリーをデザインに込めたかったの。<ソフト・ギャラリー>は私たちやアーティストたちにとってのキャンバスなの。創造することにリミットはなく、どんどん新しいものが生まれる場所よ」とバーバラ。何より彼女たちは、<ソフト・ギャラリー>の世界を楽しんでいる。そしてティナは、「キッズたちも私たちの服を着て何かスペシャルな気持ちになれることを願っているわ」と加えた。

今や彼女たちのコラボレーターは全世界に広がり、その数は50人にも及ぶ。「子どもたちが世界中のアーティストの作品を着ることができるなんてとても素敵なことだと思うわ。コラボレーターはイラストレーターから刺繍作家まで本当に様々なの。ニューヨークからチリ、ドイツ、メキシコなど、グローバルにコラボレーションを重ねている。そしてデザインはコレクションのテーマに合わせてア−ティストたちが制作してくれるオリジナルなの。全てハンドメイドで作られているわ。コラボレーターと意見交換を重ねるうち、当初想像していたものと全く違う新しいものが出来上がることも。とても刺激的だし、とてもチャレンジングだわ。子どもたちが安心して着用できるよう、素材にもこだわる必要があるし、丈夫かつ動きやすくなければいけない。洗えなきゃいけないしね。私たちは、高いクオリティーかつサステイナブルなデザインであることを重要視している。実用的だけど、他とは違う服が欲しいという消費者のニーズにも答えたい」と柔軟な彼女たちだが、決して揺るがないこだわりも垣間見える。

<ソフト・ギャラリー>のインスタレーションの一部。
コペンハーゲンで開催された10周年記念イベントにて展示された、ブランドの軌跡を辿るフォトモンダージュ。

年に2回の発表されるコレクションは、毎シーズン長いデザインプロセスと時間を経て完成する。「毎回大体5〜10人のアーティストとコラボするわ。多くて15人かな。同じアーティストと再びタッグを組むこともあるわ。まずはチームでアイデアを交換し、テーマを考えるとことからスタートするの。コレクション発表の1年半前から準備を進めるわ。テーマが決まったらアーティストにコンタクトを取る。コラボレーターが決まり、アートピースを受け取ったら、Tシャツや服にプリントを落とし込んだり、刺繍はインドの工場に頼んで仕上げたりするわ。1コレクションが300ピース以上にも及ぶこともあるの」と、そのアイテム数の多さに圧倒される。「アイテム数が多いので、コントロールするのが大変ね。美しいものは溢れているし、新しいアイデアはどんどん生まれてくるから。絶えず生まれてくるチームみんなのアイデアには毎回、もうこれ以上は無理よ!ってなるわ。それに、インドや中国、ポルトガルやウクライナなどにプロダクションを頼んでいるから、生産までに時間も必要なの。作品たちは、本当にたくさんの色を使うし、刺繍もあるから、お金もかかる。サンプルが出来上がり、色や素材を選ぶのも難しいことの1つだわ。なぜならどれも素敵だから、いつも迷ってしまうの」と妥協のない彼女たちだからこそ、直面する困難な1面もあるようだ。

インスタレーションでは、これまでコラボしたアーティストのアートワークも展示した。

今年ブランドを設立し10年を迎える<ソフト・ギャラリー>は、「Jubliee collection」と題された10周年記念コレクションを展開している。2017-18年秋冬コレクション「The Artisan」は、<ソフト・ギャラリー>の世界観を体現すべく、ブランドの真髄ともいえるアートワークに着目したもの。「The Artisan」はその名の通り、伝統的な手法を受け継ぐ、高い手仕事の技術を持ったアーティストとのコラボレーションを次々と打ち出している。「信念と熱意を込めたコレクションよ。私たちの日常や現代の生活からヒントを得て、感度の高いアーティストやクリエイティビティをインプットしたの」と2人の想い入れの強さが伺える。それに加え、コペンハーゲン・ファッションウィーク期間中、ブランド創立10周年を祝う特別なインスタレーションを開催した。「私たちのスタート地点であるアート作品や、10年間の活動をフォトモンタージュにして展示したわ。さまざまな人とのコラボレーションしてきたことをお祝いしたかったの。彼らがいなかったら私たちのブランドは、今の姿ではなかったからね」と多くのコラボレーターへの感謝の意を込めた展示会であったことを説明し、8月にパリにて再び開催する計画も明かしてくれた。さらに4種のトレーナーからなるリミテッドコレクション“celebrating collection”も発表するなど、ブランドのアイデンティティを堪能できるイベントが盛りだくさんだ。

今後もさらに活動の幅を広げていきたいと話す2人は急がずバランスをとりながら事業の拡大を計画しているのだという。「新たなマーケットにもチャレンジしたい。ドイツではまだ一部にしか店舗がないので、徐々に店舗を増やし、事業を広げていきたいわ。日本人アーティストとのコラボもまだ実現していないの。新たなアーティストともっともっと多くの作品を作りたいと思っているわ。ホームコレクション<ソフト・バイ・ソフト・ギャラリー>をもっと成長させていきたい。それにオーガニックやサステイナブルなアイテムはコレクションの中の一部だけなので、コレクション全てをサステイナブルなアイテムにしたいとも思っているわ。子どもたちが大きくなるにつれて、私たちが手がける年齢の幅も広くなっていくわね」と今後のビジョンについて話す。「時に子どもの意見を聞く時もあるわ。彼らからは正直かつリアルな声を聞くことができるの」と笑って話す。これからも世界中の人とコラボし、キッズウェアにとどまらず、ユニークかつスペシャルな作品を生みだしていくだろう。

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