ユニークな着眼点とシンプルだけど遊び心たっぷりのイラストで大人にも子どもにも大人気の絵本作家ヨシタケシンスケさん。2013年に発売された初めての絵本「りんごかもしれない」は大ヒット。この「発想えほんシリーズ」は今回で4作目。最新作のテーマは「人をきらいになる気持ち」なんだそうです。
物事をいろいろな角度から考えてみる面白さを教えてくれた「りんごかもしれない」。自分とは何か、アイデンティティを問う「ぼくのニセモノをつくるには」。そして、亡くなったおじいちゃんの遺品から「死」を掘り下げた「このあと どうしちゃおう」。気持ちが晴れたり、心がほっとしたりできる、物事の考え方、見方をヨシタケさん流に大人にも子どもたちにも提案してくれる「発想えほんシリーズ」は累計100万部を超えるヒットシリーズです。
「最初からシリーズで出そうなんて考えてなかったですから、テーマはその都度考えています。今回は、2つ候補のお題があって、ひとつは“変化”。自分が成長して変わったり、家族の都合で住む場所が変わったり。そういう変化をどう受け入れるべきか。もうひとつが“人をきらってしまう気持ち”。どちらも誰にでもあることです。でも、“変化”は、昨年発売した絵本『それしか ないわけ ないでしょう』(白泉社)で近いテーマを扱っていたので、じゃ、“きらい”という負の感情をテーマにしよう、と。お題はすんなり決まりましたが、そこからがすごく長くて。思った以上にやりにくいテーマだったんです」
絵本は、ランドセルを背負った女の子が校門をでる場面からはじまります。疲れ切った表情をした女の子。「わたしには きらいなひとがいる。なんにんか、いる。」と衝撃の告白をします。
「なんでこのテーマに行き着いたかと言うと、僕にもきらいな人がいるからです(笑)。僕は、そんなに人をきらいになることがない。ただ、強烈にきらいだなって人が何人かいて、その人のことを考えると仕事も手につかなくなるほどで(笑)。で、そういう、きらいだなって思った人のことをもう1回好きになれないんです。どうしても信じられない、きらいな人って。でも、世の中では子どもに“人をきらっちゃだめですよ”と言う。それは残酷なことです。子どもに、負の感情を抱かないようにしましょうというのは大変難しいこと。だったら、きらいな人っているよね、しょうがないよね、大人もそうだもんってきちんと言ってあげたい」
人をきらって、マイナスの感情を抱いたらどうすればいいのか。絵本では、下校中の女の子が、通りすがりの女子高生や井戸端会議中のママさんたちの会話からヒントをもらい、ある考察を深めていきます。
「きらいという感情は大きなパワーを持っている。その行く先、ベクトルを変えるだけでポジティブにできるのではないかと思ったんです。ただ、マイナスの感情を否定はしたくなかったので、そのバランスをとるのが難しかったですね。あと、子どもたちに“あいつきらい”って言っていいんだ、人をいじめてもいいんだと誤解されるような内容にしたくなかった。誰にも言えず、ひとり心の中で抱えるイヤな気持ちって子どもでも、子どもだからこそあると思う。それとどう向き合うかがこの絵本で伝えたかったことです」
女の子は「イヤなことは いつやってくるか わからない。」と、じぶんの好きなものを楽しいことを集めた、「はげましアイテム」を用意します。
「もちろん、僕にもあります。僕にとってのはげましアイテムは、ずっと使っているスケッチ帳。気持ちをリセットするいちばんのツールです。いやなことがあって、そこから逃げるために描いている(笑)。嫁に怒られたとかか、外でいやなこと言われたとかがあると、自分が楽しくなるための絵を描く。この絵本も、それと同じなんです。イヤな気持ちになることは日常生活の中でどうしてもある。それとどう向き合うべきか、自分が知りたくて描いている。僕の絵本はいつもそれなんです。自分が生きやすくするにはどうすればいいか、松葉杖のように、自分が人生を歩きやすくするための考えを絵本に描いている。で、読者の方には、これ僕用にカスタマイズしたやつですけど、もしよかったらみなさんもお使いください、とおみせしている感じ。合うようならどうぞ使ってくださいね、と(笑)」
最終的に、女の子は「おとなになっても きらいなひとは いるかもしれない。」と考えます。そして、その時々で自分でどうすべきか考えればいい、と結論をだして家へと帰ります。弱さや悩みを肯定しながら、いつも等身大の軽やかな気持ちになれる答えを提示してくれるヨシタケさんの絵本。それは、子どもたちにとっては「近所の変なおじさん」なのだとヨシタケさん。
「自分が親という立場で考えたときに、親から子どもに言いにくいことってある。同じように学校の先生だから言えないこともある。死についてとか、人をきらいになる気持ちなんかまさにそうで。ぶっちゃけて言いにくいこと、身も蓋もないことや、説明しにくいことを、絵本なら自由に語ることができる。それは、ある意味、無責任な立場だからできることだと思うんです。それがまさに、近所の変なおじさんの立ち位置で(笑)」
「あのおじさん、何している人かよくわからないけど、言っていることがなんか面白いぞ、腑に落ちるぞ、と思ってもらえたら大成功。絵本を読んで、こういう考えもアリなんだ、こういう大人もいていいんだって思ってもらえればそれでいい。世間にはいろんな考えがあるし、選択肢はいくつもある。絵本はそれを提示するのに最適のコンテンツだと思うんです。絵本のそんな多様性や可能性は、これからを生きる子どもたちの勇気につながるものです。親や先生にこうしなさいと言われても、できないときってある。それでも人生をすり抜けていく方法や考え方、そのヒントが多くの絵本の中にあるのだと思います」
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