DATE 2017.05.09

人々のライフスタイルに寄り添うライフスタイルブランド〈キャラメル〉。デザイナーのエヴァに潜在する美学。

キッズウェアにとどまらず、ウィメンズやホームラインも手がける〈キャラメル〉設立者でありデザイナーのエヴァ・カラヤニス。彼女が冷静に見据えるファッションのあり方、そしてブランドを形成する彼女の思想とは。

1999年にロンドンで創立された〈キャラメル〉はキッズウェアブランドとしてスタート。当時主流だったありきたりなキッズウェアやベビー服のスタイルを刷新し、ユニークかつモダンなデザインを打ち出した。デザイナーのエヴァ・カラヤニスは「私が1999年に〈キャラメル〉を始めた時は、キッズウェアもキッズマガジンもなかったの」と、当時のキッズウェア市場について話してくれた。「あの頃、ロンドンには白やベイビーブルー、ピンクといった定番スタイルのキッズウェアしかなかったわ。私は子どもたちにも、それぞれが持つ魅力や個性を表現できるような服が必要だと思ったの。ロンドンという、コンテンポラリーかつファッション感度の高い街で生活しているのに、ロンドナーが子どもに着せている服は全然コンテンポラリーではなく、昔から変わらない、至ってノーマルで伝統的な服だったわ」。彼女は子どもに何を着せればいいのかと思いを巡らせていたという。「多くの親はとってもおしゃれに着飾っていたわ。80年代後半から90年代ってみんなおしゃれだったでしょう?〈ヨウジ・ヤマモト〉や〈メゾン・マルジェラ〉など、素晴らしいデザイナーたちで溢れていた時代だったしね。親は<メゾン・マルジェラ>や<アン ドゥムルメステール>を着用していて、子どもたちには白やベイビーブルー、そしてピンクの服ばかりというのは考えものよ。私は子どもにもみんなそれぞれ自分らしくいてほしいという気持ちから、自分の子どもにももっとクールな服を着て欲しかった。定番スタイルだけではパーソナリティを表現できないでしょう?」

〈キャラメル〉設立者兼デザイナーのエヴァ・カラヤニス 。

エヴァはギリシャ出身。ギリシャでは法律の勉強をしていた異色のデザイナーだ。そんな彼女がロンドンに移ったのは、25年前だという。「ロンドンに移ってアート&ヒストリーを勉強したわ。その後、結婚し、子どもを授かったの。私は念願だった、オリジナリティ溢れる小さなショップを開いたの。フレームやキャンドルなど、私が好きだと思ったものたちを集めたショップだった。その中にスコットランドで見つけたキッズウェアなど、私がセレクトしたキッズウェアのコーナーもあったわ」と、彼女は常に自分の好きなものに忠実であり、テイストが明確だ。それは、今も変わらず、彼女のデザインにも反映されている。そして、「小さい時からお人形のコーディネートや自分の服に興味があった」と話すエヴァは、〈キャラメル〉をスタートする前から、キッズウェアに興味を持っていたという。キッズウェアへの興味、自身のテイストへの探求、そして、子どもを設けたことにより生じたキッズウェア市場への疑問がブランドスタートを後押ししたのだろう。

〈キャラメル〉ベビーとチャイルドの2017年春夏コレクション。

〈キャラメル〉の服は、コンテンポラリーかつパーソナル。つまり、服は自身を表現する手段であり、子どものライフスタイルとリンクしている服を提案し続けている。“服はパーソナリティを表現するもの”というエヴァのフィロソフィーがこのブランドの中核となっている。「私は子どもたちの服を見ているのが好き。〈キャラメル〉の服は、ウェアラブルで自由に纏うことができる。服は着飾るのでなく、個性を主張しすぎるためのものでもない。子どもは人形ではないから、飾りつけるのはなく、決して行き過ぎてない服を提案したいと思っている」。そんな彼女が手がけた服は、英国風のチェックやツイードなど、オーセンティックでクラシックな要素をキッズウェアにも取り入れつつ、動きやすいユニークなカットを施していたり、軽いオーガンザ素材を使用するなど、モダンとクラシックが融合している。

ウェアラブルかつタイムレスなウィメンズウェアにも注目が集まる。

今ではウィメンズラインも始め、デザインの幅を広げている。ウィメンズラインを始めたきっかけについては、子どもの頃〈キャラメル〉を愛用していた人々からの要望も多かったのだという。「ある意味、自然とウィメンズを始めうようになったわ。もともとウィメンズにも興味があったので、新たな挑戦をしたかった。それにブランド設立当初に〈キャラメル〉を着ていてくれたキッズたちは今や19、20歳と立派な大人に成長しているわ。多くの子どもたちが大人になっても着たいと言ってくれていたの。そして<キャラメル>の美学をウィメンズラインでも提案したいとも思っていたの。」ときっかけを話す。また、型破りで自由な発想を持つ彼女は、「ターゲットや年齢は設定してはいないの。メンズにだって着てもらえるデザインだし、子育てママや若者にも来て欲しい。私の娘は19歳で、モダンなロンドンキッズっていう感じなんだけど、私のパンツやジャケットを履いたり着たりするの。それに、少年が店に来て、私のウィメンズラインを着たり。私は、ジェンダーや年齢に関係なくいいと思ったものをデザインする。ベースには私自身が着たいと思うもの作りたいという考えがあり、着やすくて、洗練された素材やカラーパレットなど、私のテイストが詰まっているわ。トレンドはあまりフォローしたくないの。ファッションは流れが早く、いつでも変化している。私は、驚くような斬新なデザインではないけれど、何年も着用することができる、タイムレスなデザインを提案したいの。母であり、働く母であるというライフスタイルが反映されたデザインね」と性別年齢問わず着用できる服を提案する。彼女のデザインには“私らしく”というメッセージガ込められているような気がした。

代官山に位置する日本に唯一の路面店。

日本では、代官山に店を構える〈キャラメル〉。「イタリアのトレードショーに参加したの。従来の個性のないイタリアブランドばかりが並んでいたけれど、私は、”NEW VIEW”というセクションで展示をしたの。そこには、当時は3ブランドしかいなかったわ。ベルギーデザイナーとイタリアンデザイナーと私たち。そこでサエグサさん〈ギンザのサエグサ〉に出会ったの。彼が私のブランドを気に入ってくれて、私の服を銀座で取り扱ってくれたわ。その後、『日本にショップをオープンしたい』と言ったの。彼は、『いつかね』って言ってくれて、その10年後に日本に招待してくれた。その時に見つけたお店が代官山にあるこの場所だったの。初めは一緒にビジネスをしていて、5年後、私は一人でここを持つことになったのよ」と話す。なぜ日本だったのか。日本へのこだわりが特別あるわけではないようだ。「私はあまりビジネスプランを立てるタイプの人間じゃないの。単純に日本が好きだし、日本人のテイストとわたしのテイストはマッチしていると思うの。私の美学は日本の美学と似ているのよ」。と気分のままに、そして直感を信じてここまで来た様子が伺える。

〈キャラメル〉代官山の店内の様子。英国の雰囲気漂う趣のある雰囲気が特徴的。

今後について尋ねると、「〈キャラメル〉はわたしが経営しているブランド。ロンドンでスタートしてから、今となっては少し他の国にも進出しているけど、これからもこのブランドを大企業に拡大させるつもりはないの。何百人のチームで100店舗を持つような会社はわたしには向いていない。わたしはこのブランドが好きで、わたしがいいと思ったプロダクトを扱いたいわ」と揺るがない。「代官山店では、店頭販売のみではなく電話でも通販のオーダーも受けているわ。でもその他にも日本のウェブサイトも作りたいと思っているの。今実際に計画中なのだけれど、シンプルでクリアなデザインにしたい。プロダクトを見せることをメインとした、まるでルックブックのようなウェブサイトを考えてる。今は英語のウェブサイトしかないので日本のカスタマーにとっては親切じゃないの。やっぱり今の時代、ウェブサイトは重要。その利便性やデザインでブランドのイメージを表現でき、多くの人に素早く伝えることができるから。郊外の人が旅行などで店に立ち寄り服を買ってくれても、子どもの服を買うためだけにわざわざ東京に足を運ぶことは困難でしょ?リピーターになりたいと思ってくれる人のためにもウェブサイトは必要よね。せっかく日本にショップを持っているのだし。」

〈キャラメル〉代官山ではベビー、チャイルド、ウィメンズを取り扱っている。

“子どもに服を着せる”ことを深く考え、ブランドをスタートした彼女。親として、そしてデザイナーとして、彼女は今の親子の関係性を言及する。「今の親はとても子どもと距離が近い。それはいいことだと思うわ。でも、完璧なイメージを確立するため、期待やプレッシャーを与えすぎることは新たな問題ね。子育ては競争ではないし、パフォーマンスのためのものではない。全てが早く進みすぎている。もう少し、スローダウンしてもいいんじゃないかな。もっと今を楽しんでほしい。幸せとは何か?完璧な教育、服、ホリデーを親は与えようとするけど、それが子どもへのストレスにもなる」。“リラックスして”。それがエヴァからのメッセージだ。

日本に来日中のエヴァ。ブランド立ち上げのきっかけや自身のフィロソフィーを語る。

LATEST POST 最新記事

第1回:多様な生き方、暮らし方
ARTICLES
第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

2022.11.17
エルゴベビーの抱っこひも「ADAPT」がリニューアル発売。アップデートした機能を解説
動物園、博物館、美術館…。9つの施設でシームレスにクリエイティブな体験ができる「Museum Start あいうえの」とは
圧倒的な高級感で魅了。黒川鞄工房の「シボ牛革」ランドセルシリーズに新色が登場【2023年ラン活NEWS】