DATE 2021.09.01

カリスマバイヤー山田遊に聞く、ジェンダーと“家族のモノ選び”の関係

ジェンダーニュートラルな価値観を持つ名品を紹介してきた「ジェンダーレスなプロダクト図鑑」特集。なぜ今プロダクトは、性の境界線を越えようとするのか。家族の暮らしにジェンダーレスな視点が必要な訳とは?長年バイヤーとして活躍してきた山田遊さんと共に、その理由に迫る。

【特集】ジェンダーレスなプロダクト図鑑

ジェンダーレスの価値観が社会的に広まる中、家族の買い物においても夫婦で共有できるものを選ぶファミリーが増えている。そんな想いに応えるように、ジェンダーレスなデザイン・機能性を備えたプロダクトが各メーカーから続々登場。新時代を生きる家族にオススメの名品を紹介。

 

プロダクトの世界において、ジェンダーの価値観が多様化している昨今。

本特集でも紹介したようにファミリーを取り巻くアイテムに関しても、子供乗せ自転車、コスメ、マタニティウェア、ストローラーまで、性別を感じさせず誰もが愛用できるデザインと機能性を備えた製品が続々登場している。

夫婦や家族単位でプロダクトを選び、シェアするという新しい消費スタイルは、自分の性に合わせ、自分のためだけに物を買っていたかつての消費スタイルに比べると、家族の絆をより深めているようにも感じる。

 

果たして暮らしの中にジェンダーレスな視点があることは、家族のあり方にどんな価値をもたらしてくれるのだろうか。そもそもなぜ今、プロダクトの世界にジェンダーレスな価値観がここまで急速に広まったのか。今回その答えを探るべく、これまでデザインを中心に、工芸や美術、ファッション、美容、食など幅広い領域のアイテムをバイイングし、お店作りを行ってきたmethod代表・山田遊さんに話を伺った。

 

「ジェンダーレスプロダクト」はいかにして生まれたのか

一昔前であれば市場には、男女ごとに色や柄が区別された製品が溢れかえっていた。しかし現在では、ユーザーの性別を問わないデザインの製品が増えている。この流れはいつ頃から始まったのだろうか。

 

「近年ジェンダー問題が社会的な関心ごとなり、ジェンダーニュートラルなプロダクトが急速に増えていますが、そのキッカケを作ったのは2014年頃にファッション業界で起こった「ノームコア」ブームだと思います。性別を感じさせないシンプルスタイルのノームコアファッションは世界中で人気を集め、同じ頃にはユニクロも『誰もが着られるシンプルで高機能な服』を目指す、Life Wearをコンセプトに掲げました。あの頃からタイムレスでシンプル、そしてユニセックスなデザインのプロダクトのニーズが高まっていったように感じます」

 

「ノームコア」とは、Tシャツやデニム、スニーカーなどの定番アイテムを主役に、トレンドに左右されない“普遍的なファッション”を追求するスタイルのこと。装飾やカラーを削ぎ落としたミニマルなファッションで、まさにジェンダーレスな価値観を体現していた。そしてこのノームコアブームで評価された「トレンドに流されず、シンプルで定番的なものを長く大切にする」という価値観が、昨今のコロナ禍で再び高まっているのではと、山田さんは分析する。

 

「これまで多くの人が、コスパを重視し、消費しては買い換える生き方を続けてきました。ですがコロナが始まった去年から、誰もが自分の暮らし方を見直し、改めてシンプルで本質的な暮らしを求めるようになった。このムードが急速に広まった背景には、数年前から関心が高まっていた環境問題も深く絡んでいると思います実際にコロナを契機に『環境に配慮して物を増やさない、すぐに物を捨てない生き方をしたい』と考えるようになった読者の方も多いのではないでしょうか。

本質的に豊かな暮らしを目指そうとすると、上質で長く使えるものが好まれますし、ものを増やさないためには、特に家庭内ではシェアできるアイテムが良しとされるでしょう。長く使え、シェアできるものに注目が集まった結果、ニュートラルなデザインのプロダクトが支持されるようになったのも頷けます。ジェンダーレスなプロダクトが台頭した背景には、単にジェンダー問題への意識だけでなく、コロナによる暮らしの変化や環境問題が複合的に関係していると思います」

 

日本の市場に「ジェンダーレス」の価値観を広めた2大ブランド

ジェンダーレスなモノづくりに関しては、SDGsへの関心が高い海外ブランドの方が積極的に取り組んでいるようにも思えるが、日本企業においても、ユニセックスなプロダクトを生み出し、世界で認められている2つのブランドがあると言う。

 

「日本市場にジェンダーレスな価値観をもたらした企業といえば、ユニクロ無印良品でしょう。ユニクロが幅広い年代・性別の人に響く、シンプルで上質な衣料品を展開したことや、無印良品が創業から何十年もの間、簡潔な暮らしを全ての人に提案し、日本人の生活の質を向上させたことは間違いない。この2社は海外でも評価が高いですし、“日本らしいデザイン”として認知されていますね。

正直、それ以前の日本のプロダクトは過剰さがもたらすダサさがあったと思うんです。例えば、“花柄のピンクの布団”のように柄×色を好み、デザインに引きの美学がなかった。でも2000年代にユニクロや、V字回復を果たした無印良品がミニマルなデザインの価値観を広め結果として都市部から地方まで国民の暮らしに対する美意識を変えていったこれは本当に大きな変革だったと思います」

 

茶碗・箸・コップetc. 家族でモノを分ける日本独自の暮らしのあり方は、もう古い?

(c)GYRO_PHOTOGRAPHY/amanaimages
(c)GYRO_PHOTOGRAPHY/amanaimages

2000年代以降からデザインに対する意識が高まってきた一方で、日本には古くから、茶碗や箸、コップなどを、父・母・息子・娘でデザインや色を分けて使うという暮らしの文化も根付いている。家庭内で物を分けるという文化は、世界的に見ても稀。この独自の文化がある限り、日本人のプロダクトに対する価値観は世界から遅れをとってしまうのだろうか。

 

「家庭内でアイテムを分けることで、デザインの調和が崩れてしまっているのは事実だと思います。ですが一方で、自分専用のものを用意して大切に使うという文化は日本ならではの美徳ですよね。家族がそれぞれ自分の物を持っていることは悪いことではないと思います。問題なのは現状の日本で物を購入する際に、ジェンダーの価値観に囚われたアイテム選びが未だに続いているということ。『男性(女性)だからコレ』ではなく、自分の意思で好きなデザインのものを選ぶべきだと思います。ジェンダーバイアスに囚われてアイテムを選ぶと、家庭内でも自然とその価値観が刷り込まれる危険性があります。特に子供のものはつい大人が選びがちですが、まずは子供の意見を聞くことが大切ではないでしょうか」

 

とはいえ、家族それぞれが自分の気に入ったものを選んだ結果、どうしても個々の嗜好が異なり、デザインの調和が図れないこともあるだろう。夫婦間だけでなく、子供と大人のテイストを合わせることも至難の技だ。

 

「家族で一緒に長く生活していく空間ですから、嗜好を尊重しながら、互いに歩み寄り、納得しながら選ぶ。そのためには話し合うことに尽きますよね。もちろん、特に子供とは意見を擦り合わせることが難しいと思いますが、誰か一人が選ぶのではなく『家族みんなで一緒に選ぶ』という空気を作っていくのも、これからの時代に必要なように感じます。そうやって選び抜いたものは、より愛着を持って大切にできるのではないでしょうか」

 

「ジェンダーレス=ニュートラルカラーではない」ーこれからの時代の「色」のあり方

(c)MASKOT/amanaimages
(c)MASKOT/amanaimages

近年ジェンダーレスな価値観は、子供向け製品の市場でも拡大を見せている。例えばランドセルは男女ともにキャメルが人気を博し、アパレルウェアもベージュやグレーなどのニュアンスカラーがユニセックスに着こなせると好評だ。しかしジェンダーレスであること=ニュートラルカラーであることなのだろうか?

 

「僕自身、ジェンダーレス=ニュートラルカラーと言う考えは少し違うような気がします。本当にジェンダーレスなプロダクトって、誰もが好きな色を選べるよう多彩なカラー展開があるプロダクトだと思うんです。実はその考えは海外では既に広がっていて、欧米ではカラー展開に力を注ぐ企業が増えているように感じます。

近年アプリが普及した影響もあり、『アプリに文字は要らない』ということで製品にロゴタイプを省略する企業が増えました。アップルやスターバックスなどがそうですね。ロゴタイプを省く分、彼らが勝負するのは“色”。アップルは初代iMacの時代から色展開に注力してきた企業ですが、その頃から彼らは『色はユーザー側に選択肢がある』と考えていたように思えます。色こそ与えられるものじゃなくて、自分で選ぶもの。どんな色を選んでもその人らしい色として受け入れられる社会が、本当の意味で多様性のある社会だと感じますし、色の捉え方はプロダクトの世界で今後どんどん重要度を増すと思います」

 

日本の市場では、未だユニセックスの象徴としてニュートラルカラーの製品が人気傾向にあるが、日本でも「色」に挑戦する企業は増えてきていると山田さんは言う。

 

「例えば、以前はビタミンカラーが中心のremyのレミパンプラスは、柴田文江さんがデザインを手がけてから、カラフルな色から、モノトーンやバイカラーに色の表現を広げました。僕も白とグレーのバイカラーを自宅で使っています(笑)。無印良品もナチュラルな色合いの印象が強いですが、有明店がオープンした時は、『無印良品の黒』と題して真っ黒の製品を打ち出しています。色に挑戦する日本企業は増えているように思いますし、そんな製品が増えることで、ジェンダーを色で分ける価値観が今後変わっていくと良いですね」

 

バイヤー、キュレーター、method代表取締役
山田遊

南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年にmethodを設立。国立新美術館ミュージアムショップや21_21 DESIGN SIGHT SHOPなどのバイイングのほか、イベント企画・立案や各種コンペティンションの審査員、教育機関や産地での講演など、多岐に渡って活動を続ける。2013年『別冊Discover Japan 暮らしの専門店』、2014年(エイ出版社)、『デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド』(誠文堂新光社)を発売。

method公式サイト:http://wearemethod.com/

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