マルハニチロに聞いた、家族のための海のSDGs。未来もお寿司を⾷べるために、今できること。
みんなが大好きなお寿司。
「今日は回転寿司に行こう!」
そんな会話で盛り上がるファミリーも多いでしょう。しかし、実は、回転寿司の材料であるお魚に危機が迫っているかもしれないのです。国内の漁獲量の低下や、海の環境問題など、海にまつわるニュースもよく目にするようになった昨今、私たちはどんなふうに水産物と付き合っていけばいいのでしょうか。
子供たちが大きくなった頃、今と同じようにお寿司を楽しめる社会かどうか、それを決めるのは私たちの選択かもしれません。
親⼦で考える「どこまで知ってる?海のSDGs クイズ」
突然ですが、クイズです。いくつ答えられますか?
01. 魚は本当に獲れなくなっているの?将来、食べられなくなる?
02. マグロが養殖できるってほんと?そうするとどんないいことがある?
03. 海洋プラスチック問題が心配。今、獲れる魚は本当に安全?
04. 最近注目されている「プラスチック包装問題」。解決に向けて、どんなアクションに取り組んでいるの?
05. 海の環境問題を考える上で、大事な視点ってどんなこと?
06. 私たちがいつもの生活でできることってなに?スーパーで見つけられる水産エコラベルって?
身近な魚のことですが、意外と難しかったのではないでしょうか?こちらの答えと解説をこれからご紹介していきます。
今回、このクイズの解説をしてくれるのは、日本そして世界を代表する水産企業のマルハニチロの志村遥夏さん。志村さんは現在、経営企画部サステナビリティ推進グループで同社が進めているSDGsにまつわる施策やリサーチなどを行っています。
冷凍食品や缶詰などでもおなじみのマルハニチロは、年間売上高約8,600億円(2020年度)の半分以上は水産物の取り扱い。漁業から水産物の輸出入・加工販売をトータルで取り扱う世界のトッププレイヤーとして、海のSDGsに対してもリーダーシップをとっています。どうすればいつまでも美味しく魚を食べられるか、会社だけでなく世界規模でさまざまな研究を行っている同社。ファミリーにとってもとても身近で重要な海や魚の今とこれからについて聞いてみましょう。
01. 魚は本当に獲れなくなっているの?将来、食べられなくなる?
――まず、ニュースなどで「○○が獲れません」という内容を目にすることがありますが、今食べている魚全体が獲れなくなってきているということなのでしょうか?
「2021年秋もサンマが不漁というニュースが流れました。日本での漁獲量は減少傾向です。たしかに近年、サケ、サンマやスルメイカなどの漁獲量が減っていますが、一方でブリやイワシは増えています。イワシは一時期不漁だったのですが、ここ数年、増えています。今まで北海道ではあまり水揚げされていなかったブリが豊漁になるという現象も起きていて、全ての魚が獲れなくなっているということではないんです。
漁獲量が減っている理由としては、単純に魚が減っている可能性もありますが、海流や海水温の変動で、従来、漁をしていたエリアで獲れなくなったという可能性もあります。さらに漁業者の高齢化や、外国漁船による漁獲が増えていることなど、複雑な要因が絡んだ結果、日本での漁獲量の減少につながっているということになっています」
――単純に、魚が多い少ないということだけではないんですね。これは、海に自然に生きている天然の魚を獲ってくるから、安定しないという理解でよいでしょうか?
「そうですね。“安定した供給”という点では、天然の魚は、先ほども触れたように海流の変動など、海洋環境の変化の影響を受けやすいと考えられます。量の安定という点では、養殖は有効な手段だと考えられますが、中には養殖できない魚種もありますので、すべての水産物を養殖でまかなうことはできません。近年、養殖に関しては、技術が上がってきていて、弊社ではクロマグロの完全養殖もしているのですが、まだ、難しい魚種も多いんですよ」
02. マグロが養殖できるってほんと?そうするとどんないいことがある?
――クロマグロの完全養殖に着手された目的も安定供給だったんですか?
「そうですね。健康・和食ブームなどに起因して、世界的にマグロ類の消費量は増えています。このままだと2050年にはマグロをはじめ、寿司店の人気のネタの大半が食べられなくなるとも言われていて、それはやはり困る、と。日本人にとって、お寿司やお魚料理は大切な食文化でもあります。そこで、水産資源を守りながら食文化を守ることはできないかと、今から30年以上前にチャレンジしはじめたんです。さまざまな紆余曲折があって、2010年に卵からクロマグロを育てる完全養殖に成功して、現在では日本国内だけでなく世界に向けても広く出荷を行っています。寿司店やスーパーにも出荷しているので、気づかないうちに口にされているかもしれません」
――なるほど。養殖にはそうしたメリットがありますよね。一方で日本では「天然信仰」みたいなものも根強くあるように思います。
「以前は養殖に対するネガティブなイメージも多く持たれていたようですが、改善されてきました。そして、しっかり管理して育てておりますので、安全性や品質については安心していただけます。味の面では、天然ものは旬がおいしく、季節の風物詩という面もあります。一方で養殖は、脂乗りなど品質の管理がしやすいので、一年を通して比較的安定した品質のものを出荷できるようになっています。
弊社ではカンパチの養殖にも取り組んでいるのですが、日本では現在、クロマグロやカンパチのような『嗜好品魚種』の養殖がメインになっています。世界的にはたんぱく源の確保ということで、ナマズやティラピアなど手ごろな価格の魚が養殖され、生産量は増加傾向にあります。世界で増え続ける人口を支えるために、こうした取り組みは重要だと考えています。日本でも身近なサンマやカツオなどが養殖できるようになって、安定的に供給されることで、手ごろな価格で食べられるようになると良いなと、個人的には思っています」
――2021年秋は4人家族でサンマ代だけで1,000円、みたいな状況でした。ちょっと悩んでしまいます。
「食べられなくなる=絶滅するということ以外にも、資源量が減り、価格が高騰し、人々の手に届かなくなるということでもあると思います。完全養殖なら安定的な価格での供給、天然魚の保護ができます。また、養殖クロマグロのエサに、サバ缶の原料のうち、缶に入らない頭や尾の部分を飼料に混ぜる取り組みも行っています。可能な限り循環させ、海への環境負荷を低減していけるように考えています」
03. 海洋プラスチック問題が心配。今、獲れる魚は本当に安全?
――海の環境問題というと、最近では、レジ袋を食べてしまったウミガメのことなど、海洋プラスチックのことをよくニュースで見かけます。
「レジ袋の削減は進んできていると思いますが、日常の生活の中で気づかないうちに環境にダメージを与えているという意味では、意外と食器洗いや風呂掃除に使うスポンジなども問題なようです。プラスチックで作られていて、しかも使うたびに摩耗し、下水へ流れ出す。処理場を通過して、海まで届いてしまう可能性が高いそうです。対策としては、セルロースなど植物由来のスポンジを使用することが考えられます」
――マイクロプラスチックというやつですね。魚が食べてしまうという報道を見たことがありますが、プラスチックを食べた魚を、人が食べても大丈夫なのでしょうか?
「マイクロプラスチックの問題については、まさに今、研究がなされている最中です。人間の体内に取り込まれるプラスチックは体外へ排出されるという研究結果もありますが、プラスチックは製造の際に化学物質が添加される場合や、海を漂流する際に化学物質が吸着することがあるため、体内への影響についてはまだわかっていないようです。魚の内臓に溜まりやすいという研究もあるので、気になるようなら内臓を避けるという手段もあります。
海洋プラスチックの面では、弊社では、魚を獲る時の漁具・漁網にも気をつけています。海中に放棄されてしまったり、流失してしまったりということがないように、漁具を回収していく方策を考えています」
04. 最近注目されている「プラスチック包装問題」。解決に向けて、どんなアクションに取り組んでいるの?
――プラスチックといえば、加工食品の包材についてもどうお考えですか?
「冷凍食品などに使われているトレーやフィルムは薄く、小さくし、プラスチックの使用量を削減するなど、CO2の排出量の削減に繋げています。さらに、パッケージを小さくすると、トラックなどで1回に運べる量が増えるということになりますので、輸送のコストも減り、輸送時のCO2の排出削減にもなります」
05. 海の環境問題を考える上で、大事な視点ってどんなこと?
――ひとつの取り組みがいろいろなことに繋がっていくのですね。海の環境問題を考えるときに大事な視点というのは何なのでしょうか。
「海は世界に繋がっている、ということを認識することだと思います。一国で漁獲制限をしていても、他の国の船が獲っていたら解決になりませんし、海洋プラスチックも海流に乗って、国境を超えます。そうした視点から、世界の大手水産会社10社と海洋科学者からなる『SeaBOS(シーボス・Seafood Business for Ocean Stewardship)』という組織に参画しています。『SeaBOS』は持続可能な水産物の生産と健全な海洋環境の実現に向けて、世界をリードすることを目的にしています。ここでのタスクフォースでも海洋プラスチックの削減や気候変動への対応、水産物のトレーサビリティがあげられており、優先順位の高い事項として、業界全体で認識しています」
06. 私たちがいつもの生活でできることってなに?スーパーで見つけられる水産エコラベルって?
――一般の消費者ができることはありますか?
「MSC認証やASC認証などの水産エコラベルがついている商品を選んでいただけると、環境へ配慮した消費行動ができます。MSC「海のエコラベル」は『MSC(海洋管理協議会/Marine Stewardship Council)』、ASCのロゴは『ASC(水産養殖管理協議会/Aquaculture Stewardship Council)』による認証です。どちらも適切な環境への配慮と資源利用を求められ、持続可能な漁業や養殖により生産された水産物であるという認証になります」
――初めて知りました。それは一般のスーパーでも売られていますか?
「弊社の冷凍食品や缶詰でも取り扱っておりますし、大手スーパーの魚介コーナーでもラベルがついているものが販売されています。食品売り場でよく見てみてくださいね。ただし、まだまだ消費者にマークの認知が十分に浸透していないことや、購入動機として環境が最優先にならないといった現状もあります。
弊社では、親子向け料理教室を実施したり、小中高校等の企業訪問を受け入れたりしているのですが、その時にはMSC認証、ASC認証について必ずお伝えするようにしています。小中高校ではSDGsが指導要領に入るようになりましたし、このような環境配慮型の商品がこれから先、少しずつ選択肢として上がるようになっていくのではと期待しています。
弊社もいろいろと取り組んでまいりますが、それぞれの立場で1人1人がちょっとずつ気をつけて、少しずつ変えていくということが、海の環境に負荷をかけないということに繋がっていくと思います」
――ひとりがものすごくがんばるのではなく、みんなでちょっとずつやる方が、大きなうねりになっていくという事ですね。
「そうですね、でも、まずは自分の好きな魚を見つけて欲しいなと思います。魚は種類も調理法もたくさんあるので、いろいろ試してほしいですね。天然ものと養殖ものを食べ比べてみることで、そういった違いも楽しんでいただきたいです。調理が大変でしたら、回転寿司や加工食品もありますし。そうした先に、この魚って、どんな海でどう暮らしているのかな?という疑問が自然と生まれてくるでしょうし、その海を守るための環境への配慮についても気になってくると思うんです」
一言では説明しきれない海と魚、人間の関係。海の未来を守るために、私たち消費者にもできることがたくさんありました。まずは、どんな魚が食卓や回転寿司店に並んでいるのか、そんなところから、ファミリーで話し合ってみてはいかがでしょうか。