フランスの食育「味覚の一週間」とは? ― 味覚について学ぼう:第2回
フランス味覚の一週間
レトルトや大量生産品など、工業製品ともいえるような食品が食卓にのぼるようになっていた1990 年当時のフランス。人々の食べものに対する意識が無秩序になっていることを危惧した、ワイン醸造学者であるジャック・ピュゼ氏の考えのもと、ジャーナリストで料理評論家のジャン=リュック・プティルノー氏とパリのシェフたちが一緒になり、「味覚の一週間」の前身「味覚の一日」は生まれました。共働き夫婦の増加や、塾通いなどで子どもたちが多忙になってしまったことにより、食文化の乱れが深刻になっていたことから、1992 年には「味覚の一週間」となり、1週間にわたって味覚教育に関するさまざまな企画が開催されるようになったのです。この「味覚の一週間」は8割以上のフランス人に認知されいてる国民的イベントです。
味覚の一週間で行われる味覚の教育の基本構成は5つ。①五感の働きと5つの基本の味覚(甘み、うま味、塩味、酸味、苦み)を教えること ②五感で味わうことによって広がる食の豊かさを教えること③食品の産地や生産方法についての情報を伝えること ④仲間と「おいしさ」を共有することの楽しさを教えること ⑤講師自身の経験や料理に対する想いを伝え「食」に興味をもつきっかけを作ること、です。講師として一流シェフや生産者が学校に赴き、毎年約150 万人の児童(対象は8〜10 歳)に味覚の授業を行っています。
まずは基本の味を感じてもらうためカカオの濃度が高いチョコレート、塩、ショートケーキ、グレープフルーツなどを実際に味わってもらい、基本の味とそれらの味の違いを学ばせます。また、すりおろしたりんご、角切りりんご、りんごジュース、乾燥させたりんごを順に口に入れて同じ食材でも調理法次第で触感が異なることを学ばせたり、同じくらいの大きさにカットされた野菜や果物を鼻をつまんで食べさせて、今食べているものが何か当てさせたりと、五感をフルに使って味わう練習をさせるのです。鼻をつまんだ状態で口に食べものを入れると味がしないことから「普段は嗅覚を使って味わっているんだ」と、子どもは身をもって覚えていくのです。実際に舌で味わったあとは、児童同士で感想を述べ合います。前述の通り、自分が感じた感覚と人が感じた感覚は異なることがあると知ることで多様性を学んでいきます。また、食べる楽しみに欠かせない表現力を研ぎすませます。
2005 年以降には、味覚教育の効果を科学的に実証する取り組みがはじまり、食べず嫌いが減ること、語彙数が増えること、客観的に物ごとを判断する能力がつくことが認められました(『ピュイゼ 子どものための味覚教育 食育入門編』P.10)。
この総合的人間教育の成果が世界中に伝わり、日本でも「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフ・三國清三氏や、学校法人服部学園 服部栄養専門学校理事長・服部幸應氏らが呼びかけ人になり2011 年から日本版「味覚の一週間」が開催されることになりました。フランスのように日本全国約190 の小学校にシェフが赴き、五感を使って味わうことの楽しさを小学生たちに教えます。
去年はパリの三ツ星レストラン「ル・サンク」のシェフであるクリスチャン・ル= スケール氏をフランスから招聘し、彼の生まれ育ったブルターニュの粗塩やフレッシュな果物で基本の味を学ぶ授業を行いました。
公立大学法人福岡女子大学と連携して「味覚の授業」を受講した小学生を対象に調査をした結果、「以前より料理の匂いを感じるようになった」と答えた子は6割にものぼり、「食に興味をもつようになった」「家族と一緒に食べることが多くなった」と答えた子も4割を超えました(「味覚の一週間」実行委員会資料)。「味覚の授業」が子どもたちの食への関心を高め、食行動にとても良い影響を与えたことがわかります。
「味覚の授業」で行っていることは家でも実践できることばかり。
休みの日に家族で試してみてはいかがでしょうか。