正直言って、工作やお絵かきの準備や片付けがめんどくさくてしょうがないんです。【アートな子育て相談 Vol.1】
【お悩み】
工作やお絵描きが好きな娘に、今のうちからたくさんアートに触れさせてあげたいと思っています。ですが、絵の具や粘土を買ってきて、机が汚れないようシートを敷いて準備をしたり、休日は美術館に連れ出したり。親が「さあやるぞ」と頑張って準備しないといけないので、正直負担に感じてしまうことも多々……。特別な準備をしなくても、もっと気軽に子どもがアートを体験できる方法って、何かありますか?(なっちゃんママ、3歳女子の母)
編集部注:初回のため、今回は編集部スタッフのお悩みです。
会田
すごく共感しますね。準備と片付けだけでもけっこうパワーを使いますもんね。一つ言えることは、子どもにとって、アートは特別なことではないということ。小学校に上がる前くらいまでは、「アートって何?」って聞いても、よくわからなくて当たり前で。おもちゃで遊ぶことも、公園のアリを眺めたり部屋の隅のほこりを集めたりすることも、子どもにはアートな体験だったりするんですよね。大人の世界で“アート”と名付けられているものだけが、心の成長に役立つという訳ではないと思います。
編集部
子どもの視点で見た時に、心の成長に役立つアート体験とはどんなことを指すんですか?
会田
子どもの世界に目を移すと、何が役に立って何が役に立たないか、なんてことは考えてなかったりするわけです。たとえば、森に連れて行って、葉っぱや枝や土、さまざまな手触りのものに触れさせてあげるだけでもいいと思います。特に3歳ぐらいまでの間は、ありとあらゆる触覚に触れることが非常に重要なんです。都心だと、自然の触覚を知る機会が少なくなりがちですが、公園でも十分。公園には砂や葉っぱがありますし、葉っぱも春から夏の新緑の手触りと、秋から冬の枯葉・落ち葉の手触りとでは全然違います。その中間もあるし、中間の中間もあるし、無限にグラデーションしていく触覚があって。冷たい水や、熱いアスファルト、様々な触覚を経験させてあげられるといいんじゃないかな。葉っぱや枝があるだけでも、子どもは何か作り出しますよね。
編集部
公園に出かけることだけでも子どもにとってはアートな体験になる、ということですね。
会田
もう少し「モノを作る」といった体験をさせたいのなら、僕の中でおすすめなのは、木工用ボンドと画用紙だけ持って公園に行くこと。ボンドで葉っぱや枝や石を全部くっつけてみるとか、綺麗な色の画用紙に葉っぱや砂を貼り付けてみるとか、色んな遊びができると思います。「ボンドで絵を書いてみて、そこに砂を流してみたらどんなものになる?」とか、色々試してほしいですね。子どもが作り出すものは素敵なものになると思いますよ。
編集部
親が全部お膳立てしてあげなくても、外に出かけて自然に触れ合ったり、ちょっとした道具を渡すだけでも、子供は勝手にアートな体験を見つけ出せるということですね。私自身もそうなのですが、親が勝手に「アートとはこういうものだ」「こういう体験こそがアートなんだ」と高尚なものに考えてしまって、ハードルが高くなっているのかもしれませんね。
会田
そうなんですよね。美術館に連れていくこともそうで、親は本物のアートを見せようと思って連れて行くんだけど、子どもは走ってもしゃべっても怒られるし、堅苦しい雰囲気で美術館が嫌いになってしまう、なんてことも多いと思います。「アーティストの自由な発想を見に行こう」と言いながらも、ある意味で美術館が社会のルールを学ばせる場にもなってしまっていて。
学校の社会科見学なんかで美術館に来ても、きちんと隊列を組んで美術館の中に入って、解説を受けたら全員綺麗に「ありがとうございました!」とお礼する、みたいな流れが出来てしまっていて。社会教育の一環として美術館が使われているという面もあるので、「美術館の理念とは全く逆なんだけどなあ」と感じる事もありますね。
編集部
それは皮肉ですね……。
会田
なのでFasu読者の方も、アートを特別なものとか高尚なものという風に考えすぎる必要は全然ないと思いますよ。日常の中で子供が発見した新しい遊びだったり、初めての経験、みたいなことも子供にとっては立派なアート体験ですから。そういう経験を大切にしてあげたら良いのではと思います。
編集部
私の娘が2〜3歳の頃、小麦粉粘土を細かくちぎってひたすら並べるっていうのを飽きずに繰り返していました。私にとってはゴミにしか見えなかったんですけど(笑)、彼女にとってはアート体験だったんですかね……。
会田
なるほど。僕自身も子どものころ似たような経験がありますが、そういった行動を通して子供は、世界の心理とか、宇宙の真理に近づいているんだと思いますよ。大人は気にも留めないようなことも、子どもは一度気になったら何時間でも集中して考えられる。小麦粉粘土を小さくする行為も、「これ以上小さいものはある?」と探究している可能性もありますよね。「私が一番小さいと思う粘土も、また半分にしたらもっと小さくなるのかな?」ってずっと考えて、止まらなくなったのかも。
僕は、そういう探求って凄く大事だと思います。科学もアートの表現も、活動を前進させる駆動力は「キュリオシティ(好奇心)」ですから。子供の「探求したい」「知りたい」「どうなるんだろう?」という気持ちは大切に見守ってあげると良いと思います。
編集部
子どもの普段の行動で「何でこんなことばかりするんだろう?」と思うことがあったとしても、その行動や好奇心が、後々その子の人生に大きな影響を与えていた、なんてこともありそうですね。
会田
今現在、科学者などの職についている人の中にも、「子どものころに親が自分の行動を止めずに見守ってくれていた」という人も多いのではないでしょうか。逆に、大人が好奇心をくじくのは実はすごく簡単なんです。例えば「そんなつまらないことやらないで」「汚くなるからやめて」「そんなことやっても何にもならないよ」みたいなことを言ってしまうとしますよね。子どもは親に嫌われるのは嫌なので、なるべく親の言うことを聞こうとして、興味を手放してしまうこともあるはずです。
できれば、よほど危なくない限り、子どもが興味を持っていることや熱中していることに関しては一旦見守ってあげてると良いと思います。親御さんも「この子は今、何を探求しようとしているんだろう?」と関心を持てると、より子どもの視点に歩み寄ることもできると思います。
【今回の会田先生からのアドバイス!】
■その1
アート=特別な体験じゃない!まずは公園へ出かけてみよう。
■その2
手軽にアートなモノづくり体験がしたいなら、ボンドと画用紙を公園に持って行って「公園アート」に挑戦を。
■その3
子どもの頃の好奇心・探究心が、将来の職業に繋がることも。子どもが何かに熱中している時は、たとえそれが大人から見て無駄に思えることだとしても、『そんなことやめなさい』の一言を一旦飲み込むべし。
子どもにまつわる疑問やお悩みを大募集!
Fasuでは、読者の皆さんが会田さんに聞いてみたい、お悩みや疑問をお待ちしています!アートな視点で、子育てをもっとクリエイティブに。身近なことから将来のことまで、皆さんといっしょに考えていきます。
例えば……
「YouTubeばかり見ているのが不安。何を見せればいい?」
「我が子はお絵かきに興味が全くありません。カラフルな色鉛筆や絵の具も買い与えてみたけれど……無理強いしないほうがいい?」
「外に出て、体を動かしたり色んな遊びを体験して欲しいけど、どうやったら新しい遊びに興味を持ってもらえるでしょう?」
「会田さんおすすめの子供と行けるミュージアムが知りたい!」
などなど。
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会田先生ってこんな人!会田大也さんにインタビューした連載プロローグ編もチェック!