観察することで隠れた面白さに気づく ― 好奇心を駆動させる「観察の練習」:第3回
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第一回:創造性は、特別な人だけのもの?
第二回:創造性を育む「観察」の練習をしてみよう
先入観を利用する
前回ご紹介したように、先入観は私たちの物の見方に多大な影響を日々もたらしていますが、一般的に先入観は、私たちの視野を偏らせてしまうネガティブなものとして捉えられているように思います。確かにこの強力に偏らせてしまう性質に抗うことは、非常に困難ですし、創造の分野でも「いかにして先入観から逃れるか」ということがよく語られます。
しかし私は、先入観に抗うのではなく、逆に人間の持つ先入観に囚われてしまうという性質を利用した方がよいと考えています。例えば、自分である特別なお題を設定することができれば、先入観がはたらき視点が絞り込まれ、結果として普段とは違う視点で世界を眺めることができるようになるはずです。これは、意識的に先入観を利用して、自分の視野をズラした(広げた)とも言えます。
このような考え方が、前述の「観察」を技術化するという話の基盤となっています。もし、適切な制約をお題として設定し観察することが可能になれば、どんな人でも自由に身の回りの見過ごしていた事象に気づくことができるはずです。
そうなると問題は、どのように観察のための制約を設定すればいいのかということになります。前述の3つの問いをやっていただいて分かったように、適切な条件設定が見つけやすさに大きく影響します。今回は、いくつか問いを設定するためのアプローチを紹介しておくので、是非みなさん、この設定の要素を少しずつ変更して試しながら、自分にとっての観察のための適切な条件設定を探してみてください。
1.物理的に目の位置を変える
例えば、しゃがんで猫の目線になった時に見えるものや、ある特定の位置から見えるものを探ることで、自分の視野を大きく変えることができます。
「○○の位置から見てみよう」といった形で設定してみると、よいかもしれません。
2.属性に着眼する
前述の問いのように「○○なものを探してみよう」と形や色といった属性に絞って見てみると、さまざまなものに気づくことができます。
属性は他にも、質感や素材、使用者など色々な設定が可能です。
3.痕跡に着眼する
ある場所にだけ付いている汚れや部分的に剥げている文字、何かを引きずった跡など、痕跡は何らかの行動の証として環境に残されています。痕跡に着眼することで、人間の癖のようなものに気づくことができます。
4.後から付加されたものに着眼する
既に完成しているものに対して後から付加された要素には、現状の問題点を解決したいといったような、制作者の明確な意志があるはずです。このような点について着眼することで、さまざまな人たちが密かに行っている創意工夫に気づくことができます。
5.見間違いや認識のエラーに着眼する
別のものに見間違えてしまうような、認知のエラーが起きた状況に意識的になることで、私たちが普段無意識に行っている、物事を理解する仕組みそのものに気づくことができます。
こういった視点で制約を定め、日々の暮らしや街の中を観察していくことで、驚くほど多様なことに気づくことができ、実は普段の見知っているはずの生活の中には、面白いことがたくさんあることが分かります。そういった、今まで見落としていたあたり前の中にある面白いことを一つひとつすくい上げ、「なぜそれを面白いと思ったのだろう」と考え続けていくことで、私たちの創造性は磨かれていくのです。
創造性を育む教育には、特別な道具を使ったり環境を用意したりすることよりも、生活の中にある、隠れた面白さに気づき、驚きと楽しさに溢れた日々を過ごすことの方が重要だと、私は考えています。
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