創造性を育む「観察」の練習をしてみよう ― 好奇心を駆動させる「観察の練習」:第2回
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第一回:創造性は、特別な人だけのもの?
第三回:観察することで隠れた面白さに気づく
面白いことはどこにある?
前回の話からは少し脱線しますが、以前から、「なんか面白いことないかなあ」という言葉が気になっています。この言葉は、大人も子どもも関係なく、街中やSNS など色々な場所で聞いたり見かけたりします。そのたびにいつも、心のどこかに違和感が生まれています。みなさんはどうですか? こういった言葉をつい言ってしまったり、聞いたりしたことはありませんか?
私たちの日常には、多様なメディアから発信される「コンテンツ」と呼ばれるものが溢れています。その大半は娯楽として私たちの目や耳、脳や心を退屈させないために、あの手この手を駆使して刺激を与え続けます。でもそんな刺激も、例えば暗い部屋に入った瞬間は何も見えなかったのが、次第に暗さに目が慣れて部屋の様子が分かるように、いつの間にか慣れて気にならなくなってきます。膨大な刺激に埋もれた日常を繰り返していった結果、さまざまな刺激をキャンセルして退屈さすら感じるようになってしまい「なんか面白いことないかなあ」という言葉が出てくるのだと思います。
「面白いこと」、言い換えれば自分の好奇心を満たしてくれるようなものが、外からやってきてくれるのを待つようになってしまうと、誰かの視点で編集された価値だけを吸収するということになってしまいます。
将来、創造性やその土台となる好奇心を自在に発揮できるようになるために、子どもの頃から、与えられるものだけを楽しむのではなく、日常の中にある多種多様な不思議なものを見つけて、「なぜだろう」と考えていく力を育てること、それが今回のお話の主題になっている「観察」という行為なのです。
「観察」の練習ことはじめ
では早速ですが、今この文章を読みながらで結構ですので、これから出すお題に当てはまるものを、15 秒以内に周りの環境から見つけてみてください。辺りをキョロキョロと見回して探すという感じになると思います。
Q1. 身の回りの風景から、何か気になるものを1つ探して、注目してください。
いかがですか? 何か見つけることはできましたか? 正直、かなり難しかったのではないかと思います。「何か気になるもの」というのは、一見すごく自由な設定なのですが、いざ自分がそのような設定で、僅かな時間で何かに着目しようとすると、「自分が気になるものとは一体何なのか」ということから改めて考えなくてはならず、すごく困惑してしまうのではないでしょうか。では、2つ目のお題を出してみます。こちらだと、どうでしょうか。
Q2. 身の回りにある「丸いもの」を探してください。
いかがですか? 先程のお題とは打って変わって、条件が設定されると途端にさまざまなものが目に入ってきたのではないでしょうか。ここでポイントになるのは、とても見つけやすくなったということだけでなく、先程まで視界に入っていても無視していたようなものに意識が向いたというところにあります。それでは、最後に3つ目のお題を出します。こちらはどうでしょうか。
Q3. 身の回りにある「丸くて青いもの」を探してください。
今度はいかがでしたか? 先程、条件があった方が探しやすいという話をしましたが、条件が複数組み合わさり複雑になると、それらの条件すべてを満たすものを探す必要があるため、最初にやっていただいた、条件がない時とは別の難しさが生まれたのではないでしょうか。どうやら、とにかく何か条件があればよいというわけではなさそうです。
今取り組んでいただいたこの3つの質問は、『考具』(加藤昌治, 2003)で紹介されていた「カラーバス」という手法を参考に改良したものですが、条件設定を変えてみることで、見つけやすさが大きく変化したというのを実感していただければと思います。
では一体、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。その理由のひとつに、人間の「先入観から逃れられない」性質があると考えています。私たちは普段から、見た目の格好や既に持っている知識など、さまざまな先入観の影響を受けて物事を捉えています。
例えば、これからある規則で並んだ数字を見せます。その規則に従うと、カッコの中にはどんな数字が入るでしょうか。
5, 10, 15, ( )
多くの人は、瞬間的に「5の倍数」という規則を思い浮かべ、「20」という数字を思い浮かべると思います。しかし5 の倍数だけがこの数列の規則ではありません。例えば今回の場合だと、「左の数字より右の数字の方が大きい」という規則も当てはまります。そう考えるとカッコの中には15よりも大きい数が入ればいいので、20だけでなく16でも18でも32560でもよいということになります。しかし、私たちは目立ちやすい規則や最初に思いついてしまった規則の範疇だけで考えてしまうため、答えの可能性を絞り込んでしまうことがあります。
次回は、いつもと違った角度から物事を観察するための「先入観」との付き合い方についてです。