音楽を深く聴くことは「旅」に似ている? ― 音楽エデュケーションのかたちとは:第3回
音楽を深く聴くことは、「旅」に似ている
過去20 年間、日本フィルハーモニー交響楽団や上野学園大学とともに歩んできた仕事は、興味深い文化的次元を持つ、学習の新しい視点を与えてくれました。音楽は世界共通の普遍的な言語であると同時に、カルチャーの違いを見いだすレンズとしても作用できると気づきました。例えば、音楽を聴く方法と、音楽を日常生活に取り入れる方法の間には、間違いなく明確な違いがあります。
その違いを証明する例として、私がよく行うイタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディの代表作「四季」の一節「春」にひもづくワークショップがあります。ここではまず街から離れた田園地帯で、早朝の森の中を散策します。そして木の上に太陽が昇った時、どんな音が聞こえてくるかを子どもたちと話し合います。ここで聞いた豊かな一つひとつの音が、後にオリジナルの楽曲を作成する際、物語を描く基礎資料となります。ヴィヴァルディの協奏曲には、それぞれ季節の特徴を鮮明に説明する詩がつけられています。 「春」の初めには「ドーンコーラス」があり、ヴィヴァルディはヴァイオリンで17の異なる鳥の鳴き声を挙げているのです。 しかし日本では、18 世紀のイタリアの田舎とは動物の生息環境が異なるため、こうした早朝の鳥の鳴き声はイタリアとは異なります。つまり、音楽を通して、自分たちの暮らす地域や環境について深い思索を得ることができるのです。
昨年、私は日本フィルハーモニー交響楽団とともに福島県の南相馬市を訪れました。そこでは、地元の馬術の伝統と楽曲「ドン・キホーテ」を「騎士道」という概念でつなぐ高校生向けのワークショップ・プロジェクトに関わりました。ご存知「ドン・キホーテ」はスペインのセルバンテスの有名な小説であり、リヒャルト・シュトラウスの楽曲がさらにその世界を色濃くしました。またその楽曲は、音楽的な物語を作ることが、市民権を探究する要素の一つになりうることを提示しました。このワークショップを通じて私たちは、「ルールを作るのは簡単だが、それを維持するのは難しい」という概念を探りました。
今年、私はこれらのいくつかのアイデアを探究し広めるため、ここ日本で『マイクさんのミュージカルジャーニー – 親子のための旅行ガイド』なる書籍の出版を予定しています。そこでは音楽を異なる視点で捉える、または音楽を聴くという壮大な「旅」に乗りだすことで、親と子どもの絆を深めることを目指しています。 音楽を聴くことは、私にとっては常に旅行のようなものなのです。
音楽を簡単に消費せず、自分たちの歌を歌おう
しかし現在、私たちの周りにあふれる音楽は、皮肉にもどんどんと消費されています。私たちは貪欲にも、ファストフードのような音楽を貪り、音楽業界はいつでも新しい味で私たちを誘惑してきます。その時私たちは、人間の進化において非常に重要な基盤の役目を果たしてきた、本来の音楽とのつながりを失いつつあるのです。
チャールズ・ダーウィンはこのように書いています。「もし私が生まれ変わったら、毎週少なくとも一度は詩を読み、音楽を聴くという規則を作るだろう。おそらく今の私の脳は一部が委縮しているので、普段から使うことで脳を活性化した状態に保つことができるはずだ」。このことは、年齢とは関係がありません。私にとって学習における最も重要な要素は3つ、「好奇心」「選択の方法」「関係」です。また、これらは音楽制作の基本原則にも通じます。
「子どもにもっと歌を歌わせてください」。子どもを持つ親の皆さんにすぐにでも勧められることがあるとすれば、私はこう答えるでしょう。歌は特定の音楽作品である必要はありません。ショッピングに行く時、その買い物リストを即興で歌にするだけで良いのです。そしてリズミカルな動きを加えることができれば、さらに良いでしょう。 あなたも今日から音楽の旅を始めてみませんか?