AI 時代に必要な力とは? ― “ 異才” を発掘する、 ROCKET プロジェクト:第3回
3. ユニークさを楽しむ
ユニークな子どもたちと付き合うのは大変でしょうとよく言われます。確かに、常識に合わせようとすると心配になり、ほとんどの人はイライラするでしょう。集団で一斉に活動していると彼らを同じペースで参加させることは大変です。でも一斉指導を原則としてしないROCKET であれば個々が好きな活動をやっていても全く気になりません。むしろ個々の突き抜けた活動をこちらも楽しんでいるのですから。そんな彼らでも本当に生きるために必要だと思えば、彼らの方から勝手に集団の授業に入ってきます。
また、教科書を開いて勉強させることも大変です。それならば教科書を使わなければいいだけです。ROCKET の教育の基本は普段の子どもたちの活動です。調理したり、工作したり、移動したりする中で教科に関連した大切なことをちょっとだけインプットしておけば、彼らは知識の大切さに気づいて自然と吸収していきます。例えば、異なる値段のリンゴを食べながら、「なんでこんなに値段が違うのかな?」と問いかけておくだけで、産地の規模、輸送費、貿易、為替などの話題につながっていきます。我々が合わせるのではなく、彼らのスタイルに合わせた場所を作れば、ユニークさを発揮する彼らを安心して、また、楽しみながら見守ることができます。
例えば、ROCKET にはキノコが大好きな中学生H 君がいます。彼は学校でキノコの話しかしないので浮いています。でも私は彼の話が大好きです。知識だけでなく採集経験も豊富で話は尽きません。「日本にもトリュフやポルチーニがあるよ。今度採集してくるから」と言って、次週には素晴らしいトリュフが籠盛りで届くのですから驚きです。都内のイタリアンやフレンチ料理のシェフが集まった日はさらに話が盛り上がりました。
4. 自分で責任を取れ
ROCKET では子どもに好きなことを自由にさせています。多くの親は進学して会社に就職することが大切だと考えているので、「そんなことをさせて誰が責任を取るのですか!」と言う声も聞こえてきます。しかし、子どもの人生は親の人生ではありません。自分の生き方に責任を取るようにと子どもたちには日々言い聞かせています。集団に帰属して組織のせいにするか、個人で自由に生きて自分で責任を取るかの選択にすぎません。私は就職できなくても自分で起業してお金を稼げばいいと思っています。
こんなROCKET の活動を続けていると、我々の計画のなさに不安を感じ、マニュアルなしで生活するのが苦手な子どもたちは学校の大切さに気づくのか、集団生活に帰っていきます(つまり、学校に通うようになります)。その一方で、ROCKET の学びが合っている子どもたちは学校に行かない後ろめたさを感じなくなり、その自由な時間を活かしてたくましく進み始めます。どちらが良いわけではありません。どちらも自分に合った道を見つけたといえます。
子どものためのアカデミック・リゾート
学校と学びのスタイルが合わず不適応を起こした子どもたちは病院に連れていかれ、中には薬を処方される子どももいます。またソーシャルスキルを学ぶ訓練を受ける子どももいます。本来ならば何もせずに済んだ子どもたちが、集団に入れないばかりに、その中でその子らしさを失っていくのはとても悲しいことです。
心が傷ついた子どもたちは病院しか行き場所がないのでしょうか? 私は今、そんな子どもたちの心を癒し、自信を取り戻すリゾート施設を構想しています。リゾート施設に向かうアプローチには、若い人たちが営むパン屋、家具屋、花屋、クラシックカーガレージ、ソフトハウスなどが並びます。そこを歩いているとお店の若いお兄さんやお姉さんが「ちょっと手伝ってよ」と声を掛けてくれます。中には夕方まで手伝って「助かったよ、明日もよろしく」と言われ、お駄賃をもらって帰る子どももいるでしょう。目的のワークショップやセミナーに出られなくても偶然出会った若い人の手伝いを楽しみ、学べる場所です。このリゾートに集まるのは変なことに興味のある子どもばかりで、受験勉強に明け暮れている子どもにすれば何も役立たない場所として違和感を感じるでしょう。でもAI 時代に必要な力は、好きなことがあり自分で楽しむことができることです。その力がイノベーションを生んでいくと思います。ユニークな子どもたちは堂々と遊びや趣味のエリートを目指してほしいと思います。