DATE 2017.11.10

学校に行かないのは、悪いこと? ― “ 異才” を発掘する、 ROCKET プロジェクト:第1回

学校や塾に習いごと、毎日忙しい子どもたちにとって自分らしく生きられる「学び」とはどんなものなのでしょうか?今回は、ユニークな子どもたちの個性を活かす「異才発掘プロジェクト ROCKET」を推進する、東京大学の中邑賢龍先生にお話を伺います。

学校に行かないのは、悪いこと?

ゲームやスマホがもたらすさまざまな刺激、核家族化、画一化した競争社会など、現代は子育てがとても難しい時代です。普通に育てているのにどうしてうまくいかないのか悩んでいる人も多いと思います。特に子どもが不登校になると、家庭での生活リズムが一変し、親の仕事にも支障が生じます。多くの親は子どもを責め立ててなんとか登校させようとしますが、中には心理的不調を訴え、暴力的な行動で激しい抵抗を示す子どももいます。それでも、決して子どもを責めないでください。彼らにとっては、そこに学校があるから不登校という問題が生じているだけです。その子どもの個性や認知特性が、一斉指導を行う今の学校のスタイルに向いてないと考えてもいいでしょう。大切なことは学校に行くか行かないかよりも、その子どもに合った学びの場を提供できるかどうかだと思います。

今、社会では創造的でイノベーティブな人材が求められています。その一方で、未だ子どもの教育は従来からの協調性のあるオールマイティな人材養成から抜け出せていません。早くから進学塾に通わせ、スポーツ教室で協調性を身につけさせ、余裕があればロボット教室にも通ってSTEM(Science,Technology, Engineering and Mathematics)教育を行うのが現代の理想の子育てになっている気がします。

不登校になっている子どもは現在、全国に12 万5千人近くいます。私は彼らが努力しない心の弱いダメな子どもであるとは思いません。親や学校の圧力に屈せずに学校に行きたくないという主張ができるのですから。どんなに親や教師から強く言われても、空気を読まず、好きなことをして生き続けているユニークな子どもたちこそ、社会にイノベーションを起こす人材になるのではと私は考えています。空気の読める人材は会議の場で流れを変える発言をすることは避けます。人の役に立ちたいと考える人間は多くの人の考える範囲の中でしか創造性を発揮できません。

社会のルール遵守が厳格化し効率化が追求されると、規則に従わない、また、時間内に物事を処理できない人は学校や会社組織から排除される傾向が強まります。空気を読まない、役に立たないことを続ける子どもたちは社会に適応できないと考え、幼少期から矯正される時代に入っています。中には発達障害と診断を受ける子どももいます。個性豊かなユニークな子どもたちが潰される社会にはストップをかけなければいけません。

「異才」ってなんだろう?

私の研究室では、社会不適応をきたした成人の人たちと一緒に働いています。彼らは才能豊かな人たちですが、子どもの頃に認められなかった、排除されたという経験から心理的な不安定さを抱えて苦しんでいます。彼らが子どもの頃、もっと誰かに認められていたらと考えたことが「異才発掘プロジェクトROCKET」を始めたきっかけです。ROCKET とは、Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents の頭文字をとったもので、ちょっと変わった才能と志のある子どもたちが集える場所です。「我々は君たちを見捨てない、唯一あるのは君たちが我々を見限る時である」というポリシーを持って、学校になじめない子どもたちを全国から集め、2014年にスタートしました。

異才、ギフテッド、なんだか不思議な言葉です。オールマイティで一流校に行ってなくてもこの言葉があれば救われるような気がします。ROCKET を開始した当初は、飛び級して一流校に入る子どもたちのためのプロジェクトと誤解されましたが、これは高校や大学進学に関与するプロジェクトではありません。では、ここで言う「異才」とは何を指すのでしょうか。

「どうやって異才を見つけるのですか?」とよく尋ねられます。しかし、我々が異才となる子どもを見つけだせるわけではありません。異才は子ども自身が好きなことを続けた結果、周囲が評価して勝手に名付けるものであり、いまROCKET に参加している子どもたちが将来異才になるかどうかもわからないし、それを期待すべきではないと考えています。異才とは、人の期待に応えて頑張るのではなく、周囲のことをちっとも気にせず前に進んでいく人のような気がしています。誰に何を言われようと好きなことを続けるユニークな子どもを探しているのがROCKET であり、ここに集まった子どもたちがその特性を潰されずに大人になった時にこそ、異才が活躍するイノベーティブな社会が到来するに違いありません。

ROCKET は学校ではありません。自由な新しいかたちの学びの場で、不登校の子どもたちが、学校長の承諾を得て参加しています。子どもたちの得意とする分野の教育はあえて行わず、それを自分で学んでいけるようなサポートとこれから1 人で生き抜くための教育を行っています。

【中邑賢龍先生 オススメの学びの本】

『育てにくい子は、挑発して伸ばす』著:中邑賢龍(文藝春秋)
「ユニークな子どもは褒めるだけではだめ。挑発されても立ち向かってくる中に異才の芽を発見できる」をテーマとした中邑先生の最新著書。親向けに書かれているが、理解し合えない人間関係に悩む大人にもオススメ。

次の回からは、ROCKETの教育の指針となる、いくつかのポイントをご紹介していきます。ぜひご期待ください。

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