子どもの目を借りて、世界を見る ― 野生のクリエイティビティを育む:第3回
今回は、多様な環境の変化の中で生きる子どもとの向き合い方について、ミュージアム・エデュケーター会田大也さんにお話を伺います。
現代を生きる私たちはかつてないほどの環境の変化に晒されていますが、それは子どもにとっても同じこと。今まで以上に、多様な前提や常識が入り乱れる世界に暮らしているのです。そうしたとき、私自身も子育て中の親の一人ですが、自分が育った時の環境を前提に子育てをしてしまうと、どこかで不適切な対応や勘違いが起きることに気がつきます。自分の思い込みや決めつけをなるべく排して、まずは子どもの目の前の様子や起きている現象を素直にしっかり観察することが大切だと思っています。
そうして子どものことを見守る際に、私は「2 種類の目」を持って観察するように意識しています。一つは「大人の目」。子どもに危険が及ばないか、大人の常識に照らし合わせながら、どんな対応が適切かを考える目です。もう一つは、子ども自身が見ている世界をイメージする「子どもの目」。子ども目線になって、彼らがどんな風景を見ているのか、どんな心境でいるのかを、彼らの中に潜り込んで見るような視点です。「内側からの目線(Inner View)」でしょうか。例えば3歳ぐらいの子どもには、何でも嫌がる「イヤイヤ期」が訪れます。「大人の目」から見れば、あの手この手を繰り出しても「イヤイヤ」が繰り返され、ほとほと困ってしまう状況です。その一方で「子どもの目」を借りて見ると、それまで自分は何でも周囲のことを受け入れるしかなかったのに「イヤ!」と言うだけで、周りの大人は今までと異なる対応を返してくれることに気が付いた瞬間だと見えるかもしれません。言い換えれば、「自分は世界を拒否できる」ということを確かめている。それは、子どもが成長する中で経験するべきステップの一つです。もし子どもがイヤイヤ期になったら、「この子は何かを嫌がっているのではなく、『イヤ』と言えることを確かめてみているのかも」と考えるだけで、その後の向き合い方が変わるかもしれません。
こうした子どもとの向き合い方、すなわち相手の目線で世界を見る方法そのものは、子どもに対してだけでなく、他文化とより一層交流が深まっていくこれからの多様な社会において、大人にも必要な視点だと言えるでしょう。相手の視点に飛び込んで物事を考える思考は、野生のクリエイティビティと根っこの部分でつながっていると感じています。常に新しいモノの見方に触れ、そのことを楽しむ子どもたちのように、私たち自身も未知のものに触れる喜びを楽しみ、子どもと一緒に成長していけると良いなと思うのです。
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