DATE 2017.03.30

夢中になる経験をつくる「プロジェクト型学習」とは? ― 野生のクリエイティビティを育む:第1回

未来を生きる子どもたちにとって、本当に必要な「学び」とはどんなものなのでしょうか?
今回は、新しい学校のかたちや、子どもたちのクリエイティビティを育む教育について、ミュージアム・エデュケーター会田大也さんにお話を伺います。

「新たな学校」が生まれている

突然ですが、近年、新しいタイプの学校や教育施設が増えてきていることをみなさんご存知でしょうか。そのひとつに、ビジネスの世界などでグローバルに活躍してきた人たちが創り出している新しいタイプの学校があります。象徴的な例としては、2003 年リクルートに勤務していた藤原和博さんが東京都で初めての民間人校長として杉並区立和田中学校校長に就任したこと。藤原さんは校内に「よのなか科」を創設し、そのユニークな取り組みを次々と自身の著書にまとめて出版しました。以来、なかなか外部の思考を受け入れにくかった学校教育の中に、新しい風が吹き込み始めたのです。

新しい学びのかたちー会田大也_新しい学校イラスト

そのほかにも、多くの国からの留学生と日本人がともに学ぶ全寮制の学校「ISAK(International School of Asia, Karuizawa)」、さまざまな実地研修を通じて通常の科目学習を教えていく「きのくに子どもの村学園」、質の高い教養の授業がすべて英語で行われる「国際教養大学」、園舎を持たず、森での遊びを通じて子どもを見守り育てていく「森のようちえんまるたんぼう」などがあります。私がプログラム内容を監修している、伊勢丹発の教育コンテンツ「cocoiku」では、幼児から小学生を対象に「メディアセンスを育む」というコンセプトで展開しています。百貨店という環境を活かして、託児機能との融合や品質の高い商品をそろえる各ブランドと協働するプログラム開発など、これまでにない新たな教育のかたちを提供しています。

 

また世界に目を向けると、IT 起業家がベンチャーキャピタルから多額の出資を受けて立ち上げたアメリカのミネルヴァ大学は、キャンパスや校舎を持たず、1 学年150 名ほどの学生が共同生活をしながら世界の7都市を1 ヵ月ずつめぐり、各都市のIT 企業などの法人パートナーのもとで学んでいく学校です。同じくアメリカで世界中を旅しながら学ぶ「THINKGlobal School」はその高校版。3 年間で12 ヵ国、3 ヵ月ごとに生活する国が変わっていきます。また、インドネシアのバリ島にある「GreenSchool」は、3 歳から高校生までの子どもたちを受け入れ、持続可能性やエコロジーなどをコンセプトに、豊かな自然の中で農作物を育てたりしながら、サスティナブルな感覚を身に付けた次世代のリーダーを育成することを目指しています。

 

 

プロジェクトを通して、夢中になる経験をつくる

こうした新しいタイプの教育施設に特徴的なのが「プロジェクト型学習」です。これは科目ごとに学習を進める従来のカリキュラムに対して、大きな一つの目標を設定し、それを実現するために必要な知識を実地で学んでいくアプローチです。例えば、「秘密基地をつくる」というミッションがあったとき、チーム内での役割分担から設計、実際の工事施工に至るまでのプロセスを通して、組織づくり、情報の集め方、設計に必要な計算、図面製作といったトピックが、従来の科目である数学、情報、物理、図画工作、倫理などと対応しています。こちらのほうが、「いつか役に立つ」と言われて勉強するよりも、学習の目的や理由を子どもたちが納得した上で取り組めそうです。

新しい学びのかたちー会田大也_新しい学校イラスト

子どもたち自身が、自分たちの学び場や環境づくりに関わること。その究極の事例の一つに建築家ペーター・ヒューブナーが設計したゲルゼンキルヘン・ビスマルクの総合学校があります。この学校の建物は計画から完成までになんと11 年もの歳月がかかったのですが、その理由は学校の新5年生の生徒がクラスルーム棟を授業の一環で設計するプロジェクトを行っていたためでした。そこでは、設計事務所のスタッフが生徒と先生のあいだに入り、まず計測した子どもたちの身体サイズをスケールダウンした粘土人形を作るところからスタートしました。建築家が描いた試作図面に合わせて子どもたちは素材をカットし、組み立て、試作を繰り返しながら模型を作製していきます。また、木造校舎の骨格を作る課程では、子どもたちは構造計算の基礎や素材の組み合わせによる強度の違いなどを学び、実際に建物の施工のお手伝いにも携わります。竣工までに1 年間をかけるこのプロジェクトは6 年間継続し、最終的に子どもたちと作った6棟のクラスルーム棟が竣工しました。

こうしたプロジェクト型学習では、子どもたちはみんな一斉に夢中になって何かに取り組み始めます。そこで大切なことは、この「夢中になった経験」を大人になっても記憶していること。誰しも夢中で仕事をしている時は、誰にも真似できないパフォーマンスを発揮していることがよくあります。一人ひとりその対象は異なりますが、なるべく多くの人たちが自分の夢中になれることを分担し合っていくほうが、いい未来をつくれるんじゃないかと思うんです。

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