DATE 2020.06.16

5月某日

豚まんをこしらえる。ひき肉がなくソーセージで代用したけれど、なかなかの出来。料理家のみなさんがすてきなレシピをつぎつぎと公開してくれるおかげで、なんとか飽きずに日々の料理を続けられている。今の時期、むやみやたらと出歩かず、ごろりと横になっているだけでだれかの役に立てているというのはうれしいが、はたして自分もほかにできることはないのだろうか。なにも思いつかないまま日々が通り過ぎていく。食後は子とはじめての公園へ。iPhoneを新調したせいか、いつもより写真がきれいに撮れる。

5月某日

離れた町で暮らす友人が「運動するのに目的地が必要だから」と、はるばる近所まで自転車でやってくる。土産だといって手製のケーキをくれ、またそそくさと風のように去っていった。こんなふうにあっけなく挨拶だけして別れるなんて、すごく変な気分。駅前のてんやで弁当を買って昼ごはんにし、その後、すこし遠くの園芸店まで出かけることに。子はなかなか後部シートに座りたがらず、仕方なく好きなように歩かせてみる。帰ってから調べたら、2kmほども歩いていた。

5月某日

夫が仕事に出かけず家にいるので、そうか連休なのかと気がついた。先日買った鉢をベランダに移し、パクチーの種を撒く。バジルも一緒に蒔く予定だったが、思っていたよりずっと多くの土がひとつの鉢に必要で、途中で足りなくなってしまった。その後、電動ドリルで古い棚をふたつ解体。こうして掃除や片付けに精を出すのは、のっぺりとした日々の中で、なにかひとつでも「やった感」がほしいのだと思う。きのうと今日がべつの日だと実感できるような、なにかが。夜はビースティー・ボーイズのドキュメンタリーを観る。自分は彼らのドンピシャ世代ではないけれど、ひたすらに将来はなにかおもしろいことがしたいと思っていた10代の頃を思いだして、思わず高校時代の友人にLINE。

5月某日

昼、キムチ入り豆乳そうめん。あまりに運動不足なので、夫と子には先に自転車で公園に向かってもらい、5kmほどの距離を走る。ランニングは嫌いではないのだが、走り方が悪いのかいつもすぐに右膝が痛くなる。今日もやはり途中から痛みだし、帰りは歩いて帰った。夜はクミンを入れた肉団子といろんな野菜をぎゅうぎゅうに詰めたオーブン焼きと、バゲットがなかったので超熟の食パンとワイン。おいしいものを食べておいしいと言いあえるのってしあわせだ。

5月某日

朝、レモンリゾット。昼はふたたび肉まんとフライドポテトをつくって食べる。最近は起きるのが遅いので、朝食と昼食の間隔が短くなりがちなのが気になっている。歯列矯正をしている関係で口内炎ができ、イライラのピークでなにもやる気が起きない。夫に夕食の支度、子の風呂と寝かしつけをすべて放り投げ、ひとりで部屋を暗くして無料配信されていた1962年のフランス映画『ラ・ジュテ』を観る。映画と同名の、ゴールデン街のすてきなマダムのいるバーは今どうしているのだろう。つづけて話題の韓国ドラマ、『愛の不時着』を観始める。

5月某日

パクチーの芽が出てきた! 予想を超えるかわいらしさ。今後はパクチー日記もつけて成長を見守っていこう。ホットケーキとベーコン、コーヒーの朝食を済ませてから公園に行き、スケートボードの練習。まだよちよちとしか滑れないけれど、子もたのしそう。掃除をしていたら、本棚から10年以上前の自分の写真を見つけてしばらく見入ってしまった。若くてとてもまぶしい。当時はそんなこと知る由もなかった。はじまりはいつも雨、気づくのはいつも後だ。夕食にカルボナーラを食べた後、夫は自転車で走りに行くという。運動をして、自分だけきれいになるつもりだろうか。わたしは酒を飲みながら『愛の不時着』を観る。

5月某日

ひと月前に購入したマットがようやく届いたので、アプリを立ち上げて、はじめてヨガをしてみる。すごく気持ちがいい。こんなにすてきなものをなぜ今までだれも教えてくれなかったのかと思うけれど、面倒くさがりのあまりにそういうものはみずから敬遠してきただけだ。このところ地震が多いのでさすがに不安になり、非常用袋を用意することに(これもやっていなかった)。仕事の途中、1時間だけ抜けて子と公園。初夏を通り越して、気候はすでに真夏のよう。夜は子のリクエストで、ふたたびカルボナーラ。母は糖質オフがしたい。

5月某日

ひさしぶりにスーパーへ。食材を選んで買うというだけの行為が、なんだかとてもたのしい。魚がどれも新鮮でぴちぴちと光っており、引っ張られるようにして鰹と鰤と鮭の刺身を購入。寿司屋が開いていないので、ふだんよりも上質な魚がスーパーにあるという噂は本当なのかもしれない。トイレットペーパーは売場に復活していたが、買いたかったハンドソープや除菌ティッシュはあいかわらず品切れ。夜は刺身、アサリの酒蒸し、網で焼いた栃尾の油揚げに生姜醤油をたらして食べる。

5月某日

朝起きてヨガをしてから、さつまいもがたくさんあるのでケーキを焼く。昼はなにをしたか忘れた。サイゼリヤのラム串がテイクアウトできるようになったので、夜、仕事帰りの夫に買ってきてもらうよう頼み、その他、塩豚のサムギョプサル、人参とほうれん草のナムル、長芋の海苔醤油和えなど。22時頃、定期的に赤坂で餃子を食す「珉珉会」のメンバーでZOOM飲み。みんな元気そう。早くまた餃子食べたいね。

5月某日

朝から雨。歯科矯正の定期検診のため、ひと月以上ぶりに電車に乗って新宿へ。駅に到着した途端、高校生の頃、大阪の梅田から深夜バスに乗って朝4時の新宿に着いたときのことを唐突に思いだした。曇っていて街じゅうが暗く、道を行き交う人の数も少ないので、目に映る景色があの時ととてもよく似ていたのだと思う。硬質な都市がもつこの独特の緊張感の圧を、わたしはもう忘れかけていたのだなあ。

5月某日

毎晩、こんなに人体から水分があふれるものかと自分でも戸惑うほどに大量の涙を流しながら『愛の不時着』を観ている。悲しくて泣いているのではない、愛しいのだ。朝、机の上に山のように積み上げられたくしゃくしゃのティッシュを見て夫があきれているそうである。

5月某日

雨は止んだが、曇っていて寒い。隣室で続いている工事の音から避難したくて、子と自転車で園芸店へ。土やハーブの種を選んでいたら、子がヒマワリを育てたいというのでその種も買う。以前来たときには気づかなかったが、奥には熱帯魚のコーナーもあり、少しのあいだ目をたのしませてもらった。昼食は子のリクエストでまたまたカルボナーラ、わたしはゆで鶏とレタスのサラダ。夜は塩豚の残りでポトフ、子の好きなアサリのリゾット、肉屋で買ってきたフライいろいろ。メニューに統一感のないこんな日もわりと好きだ。

5月某日

先日は真夏日だったというのに、今は寒くて暖房をつけたい。しばらくだらだらとしていたけれど、ヨガをしたらやはり気分がよくなった。家族が寝静まったあとの楽しみだった『愛の不時着』を、ついに観終わってしまってさみしい。ちょっと今日はだめな日だという自覚があって、夫が早く帰宅することを願うがかなわない。子育てはクライアントワークだと思う。つねに相手の気分を思いやり、不平不満を円満に解決し、心身の栄養を与え、事故を防ぎ、笑顔で遊びにつきあう。平気なときもあれば、しんどいときもある。自由に使えるひとりの時間が少しでもあればなあ。

5月某日

メルカリで売れたものを郵便局で発送し、ドラえもん切手も無事入手。帰りに肉屋でスペアリブ用の肉を買う。夜は、たのしみにしていた初めてのオンラインヨガ。すてきな先生でやる気がみなぎる。夕食時だったので部屋にこもってやっていたら、先に食事をしている夫と子が、ときどきそーっとドアを開けてのぞいてくる。

5月某日

朝起きてヨガ。豊洲市場で注文していたマグロなどが届く! ふだんはお店にまわるような高級食材が、今だけ一般向けに手頃な価格で販売されているのだ。予定を急遽変更して夕食は手巻き寿司に決め、海苔など買いに行く。夫と子が昼寝したので、その隙にランニング。こんなヘルシーな人間ではなかったはずなのになあ。そしてひと風呂浴びたあとは、いよいよお寿司! ほんとうにおいしいものを食べたときは、お酒を飲まずともいい気分になってふわふわと酔いそうになるもの。そのしあわせをひさびさに体感した。

5月某日

ここしばらく、子を退屈させないようにすることばかりを考えてきたけれど、もしかすると、子の相手をする自分が退屈しないような工夫を考えるほうが大事かもしれない。夜、豚肉とエリンギで丼、大根とホタテのサラダ、わかめとネギの味噌汁。ところで、自転車である程度の距離を走ると自分はよい運動をした気持ちでいっぱいになるが、子はまったく体を動かしていないということに気がついた。どうりで夜も元気なわけだ。

5月某日

アメリカのミネソタ州で無抵抗の黒人男性が警官に殺害され、大きな事件になっている。各地で抗議のデモや暴動が起こり、インスタグラムのタイムラインは真っ黒に塗りつぶされたポストで埋め尽くされている。高校生の頃に授業で、マーティン・ルサー・キング・ジュニアが1963年におこなった有名な演説の一部を暗記する機会があった。「I have a dream」というフレーズが印象的なそれを、そのときは英語で覚えるのに精一杯で、正直内容までちゃんと飲み込めていたかどうかはあやしい。でも今あらためて読んでみて、人種差別の根絶を訴えるその叫びを、はじめて自分のものとして理解できた気がした。当時から60年近くも経っているのに内容がまるで古びていないというのは、当然だけれど褒め言葉ではない。

5月某日

緊急事態宣言が解除されたということは、この日記も近々、本来やろうと思っていた訪れた店や美術館、観た映画、行ったライブなどの記録帖にできるのだろうか。まだあまり実感がわかない。昼、卵チャーハンと大根の葉の味噌汁。あのぎょろぎょろっとした目玉が苦手なのでイカの調理は徹底的に避けてきた人生であったが、スーパーの魚コーナーでイカも下処理(目玉や皮を取る)を頼めると知り、今後の可能性がぐっと広がったような気分になる。米はいくら炊いてもすぐになくなるため、最近はもはや炊くのが億劫。夜はアンチョビとベーコンのトマトパスタ。

5月某日

神戸で暮らす祖母の訃報。102歳だった。2年前の100歳の誕生日のときに親族一同で有馬温泉に集って祝ったのが、顔を合わせた最後の機会となった。子にとっては曾祖母にあたる人だが、どこまで存在を理解できているのかわからなかったので「じいじ(わたしの父)の大事なひとだよ。おかあさんだからね」と説明すると、彼女はぎゅっとした顔になって「わたしの大事なひとでもあるよ」と言った。そうだ、わたしたち家族全員にとって大事なひとであるはずなのに、なぜ自分はそのような言い方をしてしまったのだろう。子はすでに、わたしが思うよりずっと多くのことを考えているみたいだ。

今月のもっと早く始めていたらよかった

・電動自転車

・ヨガ

・iHerb

しかし何ごとも、自分のタイミングというものがあるのだよ。

BACKNUMBER aggiiiiiii 明るけりゃ月夜だと思う
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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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