DATE 2020.05.15

4月某日

仕事に出かける前、かばんの中に豚の挽肉が入ったパックを見つけて「ヒッ」と声が出た。昨日買ってそのまま忘れていたらしい。傷んでいないことを祈りながら冷蔵庫に入れる。コロナの影響で遠方の友人たちとも連絡を取り合う機会が増え、これはこれでうれしい。夜は朝の挽肉を使って海老とセロリ、大根と搾菜の餃子。大根のは桉田優子さんのレシピを見たもので、桉田餃子のあの独特な包み方も真似る。最近は子がなんでも手伝いたがり、餃子もいくつかクチュクチュとくるんでくれた。

4月某日

きたないお手手で目や鼻や口をさわってはだめだよ、と子に教えていたら、人体の主要な穴がほぼ顔面に集中している不思議に気づく(そして、おしりまわりにも)。亡くなった志村けんさんが麻布十番でよく飲んでいたということを知るが、いまいちピンとこない。「志村けん」はわかる。「麻布十番」もわかる。ただ、そのふたつがうまく結びつかないのだ。わたしは芸能人を架空の生きものかなにかだと思っているのかもしれない。夜はなにもする気がせず、無印良品のレトルトカレー(子はバターチキン、わたしはスパイシーチキン、夫はラム肉)。つけあわせにブロッコリーと卵だけ茹でる。翻訳の直しはいよいよラストスパート(と、言ってからが長い)。

4月某日

日中は家じゅうの取り外せる扉をすべて外すことにしてみたら、明るい光と風が部屋のすみずみまで届いて気持ちがよい。子がテレビばかり観たがるので、なにかほかの遊びを考えなくては。夕方、近所の有名なビストロがテイクアウトをはじめたので、散歩がてら予約したセットを取りにいく。本日唯一の外出。子連れだとこうしたお店にはなかなか伺えないのでうれしい。夜、仕事をしようと思うものの、夫の観ていた『B面ベイビー』というNHKの番組がおもしろくてソファから離れられない。嬉々としてゾンビ愛を語る磯村勇斗さんが素敵だ。

4月某日

10時ごろ起床。昨日の野菜不足を反省してスープなど仕込んでいたら、遅い朝ごはんとなった。パンとパテなども残っており朝から豪華。なにもしていないのに、あっという間に時間が過ぎる。16時頃、自家製つけめん(出汁を濃いめにひいてつゆを作り、メンマ、もやし、ゆで卵、海苔)、ひとつ原稿を書いて送信。20時ごろ、夫が駅前でテイクアウトしてきた焼き鳥とポテトフライ、それに湯豆腐をつくる。ランラランのランで一週間。

4月某日

どこかへ行きたいと想像することさえ、今はかなわないのだと思うとつらい。ついに明日から本格的に自宅作業が決定した。子を保育園に迎えに行く途中でもう桜が葉桜となっていることに気づく。今年は花見もまだしていないというのに、季節は待ってくれない。夜、いよいよ緊急事態宣言が出る。

4月某日

スーパーへ行ったら立派なタケノコが売られていたので、おもわず調理法もよくわからないまま買う。昼は昨夜のカレーの残りを温め、夕飯用に買ってきたイカフライもひとりで食べる。ついに明日から保育園もひと月、休園となってしまった。これからしばらくワンオペかと思うと、自分の緊急事態が本格的に始まったという感じ。毎日三食作らねばならぬと思うと気が重い。夜は焼魚、もやしと青菜の味噌汁、ポテトサラダ、トマト。子はリクエストによりまんまるチャーハン。

4月某日

朝から2時間ほどかけてタケノコを茹でる。保育園のおかげで子もようやくオムツが外れてきたところなので、この隔離生活でこれまでの努力が全なしになってしまうのは避けたい。がんばらねば。家から一歩も出ないで過ごしていると、穴ぐらの中で暮らしているような気分になる。たびたび仕事のメールが届くが、パソコンを開くとまちがいなく子もさわりたがる。テレビをつければおとなしくしてくれるけれど、テレビ漬けの生活にはしたくないので悩ましいところ。夫の職場はこの状況下でも平常運転、時差通勤ですらなし。夜はたけのこの土佐煮とたけのこご飯、ブロッコリーの塩昆布和え、みそ汁。

4月某日

離れて暮らしてもう長いのに、大人になるにつれ母親に似てきたと感じる。子といるときの話し方など特に。極力買い逃しのないよう、スーパーに出かける前に周到に買い物リストを用意するが、それを忘れて家を出るのが自分である。一回休み。

4月某日

いろんなひとの自室の写真を目にする機会が増え、気づいたことがある。わたしはおそらく、これまで読んできた本の量が圧倒的に少ない。蔵書もそれほどない。自分の中にあるものを守ろうとして、意図的によそからの情報をシャットダウンしていた時期が長いのだ。あれは間違っていたなと今では思うけれど、過ぎた時間を悔やんでもしかたないので、まあこれからがんばろう。夜、豚肉をすき焼きのようにして食べたらおいしかった。子は寝る時間になってもまだ元気を持て余している。やはりたまには外に連れて行って、体を動かす必要がある。

4月某日

昼食の後、子を連れてすこし遠くの公園まで歩く。もはや日中に仕事をするのは、ほぼあきらめている。子がほかのことに集中している隙に、携帯でさっとメールの返信をするぐらい。いつもはがらんとしている公園なのに、着いてみるとわりに人がいるのでおどろいた(とはいっても広いので、いちおうソーシャル・ディスタンスは取れているのだと思う)。キャッチボールをするひと、バレーボールをするひと、花見をするひと。みんなが外で遊んでいるさまは、なんだか昭和の景色を見ているよう。

4月某日 

大雨。近所の川があふれかけているらしく、警報が鳴っているのが聞こえた。

4月某日

長らく検討していた電動自転車を、この機会についに導入。これですこし離れた大きな公園にも気軽に行くことができる。念願の揚げもの鍋が届いたので、夜ははりきって油淋鶏、ちくわの磯辺揚げ、よもぎの天ぷらまでつくる。しかし、油の温度はぐんぐん上がっていく一方でおそろしい。

4月某日

朝、上司から電話。子はテレビを観ながら静かにしている。昨年度の自分の活動のまとめや、近況などつらつらと話す。夜、夫が駅前の台湾料理屋で豚足とビーフンをテイクアウト。ずっと行ってみたいと思っているが、タイミングが合わず未踏の店。おいしいけれども、やっぱりあの赤いカウンターで食べてみたい。夫と喧嘩し、子ともなにかが折り合わない日。

4月某日

テレビをほとんど観ないのだけれど、SNSだけで情報を得るのもしんどくなってきた。外で起きていることをなにもキャッチせず、ただ嵐が通り過ぎるのをじっと待つことにしたら、閉じてはいるのだろうが、いっそ静かで平和な生活を送れるような気もする。すっかり揚げものづいており、夜は鶏の唐揚げ、マカロニサラダ、レタス、しめじの味噌汁、ごはん。夜中に仕事をしているため寝不足気味。

4月某日

夫が有給を取ったので、午後、ひさしぶりにひとりで駅前の大きなスーパーへ行く。毎食自炊していると、すぐに食材が底をつく。まだ買い物のペースがつかめていない。会計をすませて帰ろうとしたら、隣の女性のカゴにマスクが入っているのが見え、焦るような気持ちで売り場へ戻るとまだ少しだけ残っていた。「おひとり様ひとつ」と書かれており、見張り役を頼まれたのか遠慮がちに側に立つふたりの店員の視線を感じながら、7枚入りを一袋入手。いよいよ生活がサバイバルじみてきたと感じる。夜、お好み焼きと鰹のたたき、玉ねぎとワカメのサラダ、きゅうりの梅和え。

4月某日

朝、翻訳の直し。キャベツが残っていたので、友人に教わったレシピでじゃがいもと一緒におやきにして昼ごはん。公園に行くと、ついに遊具にテープが巻かれ遊べないようになっていた。わりとショック。ブランコと砂場は開放されていたのでしばらくそこで遊ばせるが、大好きな滑り台ができずに子もつまらないのか、早々に切り上げる。帰りに肉屋で買ったハムカツとメンチカツでおやつ。布団に寝ころんで歌をうたっていたら、いつの間にかふたりとも眠ってしまい、夫が帰ってきた音で目を覚ます。あわてて牛肉と玉ねぎの煮物、豆苗と豆腐の味噌汁、きゅうりとわかめの酢の物、納豆、ごはん。

4月某日

古本の入ったダンボール数箱を引き取ってもらい、家が少しすっきりとする。夫は障子の張り替えに奮闘。子はきゅうにひらがながなんとなく書けるようになったので、両方の祖父母へ手紙を送る。近所の寿司屋に予約したテイクアウト品を取りに行く途中で、保育園のお友達親子にばったり会った。多くを語らずとも大変な想いを視線で共有、早くまたいっしょに遊びたいねと言って別れる。夜、買ってきた寿司のほか、サツマイモ入りのだし巻き卵、マッシュルームの味噌汁。夜中、翻訳の直し。

4月某日

ひきつづき、翻訳の直し。最近は朝、子に朝食を食べさせてから夫が出勤し、その後しばらくしたら子がわたしを起こしにくる。昼は子とふたりで自家製たこ焼き。夕方、夫が早めに帰宅したので子をまかせ、ひとりでギターを弾いたり折り紙のちぎり絵をして遊ぶ。ちぎり絵は、子をテレビから離そうとして思いついたものだが、むしろ自分のほうがはまっている。夜、サーモンとエリンギのホイル蒸し、あさりの酒蒸し豆腐、たことネギのサラダ。鰹の残りを漬けにしておいたので、それもごはんに乗せて食べる。めずらしく海のものが多い。

4月某日

麺類にかたよりがちな昼食は、手を変え品を変え、今日はグリーンカレーうどん、子は釜玉うどん。ふと、自分は根本的にふざけているし軽薄なので、こんな危機的状況下ではまったく不要の存在なのではないかという思いにおそわれて気が滅入る。夜は揚げ豚、ネギの春巻き、カブのサラダ、ごはん。夫から「5キロ増えた」というおそろしい話を聞く。

4月某日

みんなもすなるオンライン会議というものに初参加。家族以外の人と顔を合わせるのがひさしぶりすぎて、昨夜風呂に入ったというのに直前にまたシャワーを浴びた。この外出自粛の約三週間で買ったもの。揚げもの鍋、シャワーヘッド(まだ届いていない)、ふすまを張り替える紙、障子を張り替える紙、掘道広さんの金継ぎの本、髪切りハサミ二本(まだ届いていない)。夕方、自転車で片道15分ほどかけて隣町の店へ頼んでいたお弁当を取りに行く。ひさしぶりに外の空気を吸って体を動かしたため、つかれて爆睡。

BACKNUMBER aggiiiiiii 明るけりゃ月夜だと思う
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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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