DATE 2020.04.08

3月某日

このご時勢ではさすがに中止になるかもしれないと踏んでいたイベントが開催されるとわかり、驚きとマスクと消毒アルコールを握りしめ、ゆりかもめに乗ってお台場へ。アメリカからやってきた有名なドラァグ・クイーンたちのショーを観る。みな最高に素晴らしかったが、やはりヴァイオレット・チャチキの存在感は頭ひとつ飛び抜けている。クレオパトラが現世にいたらこんな感じだったのかしらん。キム・チー、モネ・エクスチェンジ、プラスティーク・ティアラ、デトックス、そして今回ますます好きになったのはアクエリアだ。性別間のグラデーションを自由に往来する彼女たちにすっかり魅了されている。終演後に友人とご飯でもと思ったが、あたりにはバーミヤン一軒しかなく、混んでいるのであきらめた。腹は減っているが、心はほくほくしている。

3月某日

かろうじて人形は飾っていたものの、肝心の当日にひな祭りのことをすっかり失念。あわてて仕事帰りにスーパーに寄る。海老、アボカド、おつゆ用のはまぐり、三つ葉、米酢、あとなんだろう。卵は家にあったはず。いくらの醤油漬けも冷凍してある。iPhoneでいろんな人のレシピを眺めながら、自分の好物であるサーモンの刺身もちゃっかりカゴに入れた。飾り用にれんこんの酢漬けと、子の好きなもずくきゅうりも作る。狭い台所で漫画のようにしっちゃかめっちゃかになりながら、いろいろ散らした寿司がなんとか完成。

3月某日

目が覚めたら体が動かない。下手にひねると腰に激痛が走る。なんとかして起きねばと亀のようにもがいていると、うめき声に気づいた夫がやってきて手を引いてくれた。が、あまりの痛さに本気で号泣。あわてた夫が近所の病院にすっ飛んで車椅子を借りてきてくれ、顔も洗わぬまま這うようにして乗り込む。いつもは自分がベビーカーを押して歩いている道を車椅子に乗って夫と子に押されているので、立場逆転してる、と思ったら気がふれたように笑いが止まらなくなってしまった。テンションがおかしい。レントゲンを撮った結果、椎間板ヘルニアの疑いあり。チーン。痛み止めの注射をブッスと刺して、一週間分の薬をもらい帰宅。たこ焼きを買ってきてもらい、みんなで食べる。夜はありあわせで常夜鍋。

3月某日

時間はかかるがひとりで起き上がり、家の中を動きまわれるまでには回復。薬が効いているのだろう。ありがたい。家にこもってじっとしていると、一日がとてつもなく長く感じられる。体調を知った実家の母から手製のスペアリブや中華ちまきや筑前煮など届く。ありがたいありがたい。子は録画していた何度目かの『リメンバー・ミー』を観ている。家族に忘れられ消えてなくなってしまう骸骨がこわいそうで、そのシーンだけ夫の腕に顔を埋めている。わたしと夫は結婚した年、メキシコのオアハカまで死者の日の祝祭を見に行った。派手な仮装をした地元の人たちにまぜてもらい、色鮮やかなマリーゴールドで燃えるような墓地までにぎやかに歩いたのだ。忘れがたい不思議な経験。夜、スペアリブと根菜のオイル蒸し。

3月某日

小6の子がいる友人とやり取り。卒業式に親は参加ができないそうで、文面から悔しさがにじみでている。本当にたいへんな年。タイムカプセルの話になり、けだし、我々も今からやるのはどうかと提案。問題は何を埋めるか、そしてどこに埋めるかだ。友人は言う、「子どもの10年後はかなり先に思えるのに、うちらの10年後ってたぶんすぐ」。ほんまやなあ。いずれにしても、よき未来でありますように。

3月某日

3連休。とつぜん暖かくなり、桜もちらほら咲いている。髪を切るのは不要不急の用事ではないかもしれないが、もういつ何時なにが起こるかわからないので、切れる時に切っておきたいのがショートヘアの民である。美容室のある駅につくと、けして少なくない数の人たちが川の方に向かってぞろぞろ流れていく。そういえばここは桜の名所なのだった。えー、花見するのか…と思ったけれど、自分だって端から見れば同類だろうな。外出を控えるべきとか、自粛自粛と騒ぎすぎとか、いろいろな意見があって混乱する。夜、鶏手羽の塩焼き、マッシュルームリゾット、ラディッシュのサラダ。

3月某日

水曜日、ついに都から週末の外出自粛要請が出た。はたして土日だけでいいのかと思うけれど、これもまた近々変わるかもしれない。勤務先でも、いよいよ全員がリモートワークできるよう本腰を入れる感じ。木曜日、仕事のあとでスーパーへよると、肉、野菜、果物、パン類ほぼ売り切れ。金曜日も同じ。基本的に食材は宅配で注文しているため緊急で困ることはないが、バナナを買いたかった。週末の営業ができなくなり食材があまっているとSNSに書いていた飲食店でハムとベーコンを買う。あるところにはあって、ないところにはまったくない。ものすごい速さで世の中の状況が変わるのを感じる。COVID-19のことを考えない日はないが、ニュースばかり見ていると気が滅入る。夜、鶏肉とセロリのオイスターソース炒め、小松菜と豆腐のスープ、ごはん。

3月某日

外出自粛の週末1日目。できるだけたのしく過ごそうと、朝は奮発して買ったマリールゥのミックスを使ってパンケーキ。うまい。きのう買ったハムもうまい。あむあむあむあむ。毎日の楽しみだった朝ドラ『スカーレット』が終わってしまい、ぼんやりする。昼はネットで見つけた出汁が多めのレシピでたこ焼き。うまいうまい。午後から天気がどんよりしてくる。食べる以外にすることがないので、早いうちから酒を飲んでいる。掃除をちょっとしたかもしれない。子は録画しているテレビ番組をたっぷり見られてうれしそうだ。自分は家で1日過ごすのも平気なタイプだが、はたしてこれがひと月続いたとしても同じように思うだろうか。予定していたアジア旅行は延期(これも今後どうなるかわからない)、4月のライブ遠征、5月の帰省もやめることになるだろう。夜、冷凍餃子と白菜で鍋。

3月某日

外出自粛の週末2日目。予報が当たって、起きたら雪。ベランダに出ようと誘っても子は「寒いからいやだ」と言うので、結局、夫がひとりでアナ雪のオラフをつくった。わたしは今度出る翻訳本の直しなど。昼、パスタを切らして夫作のぺペロンそば(おいしかった)。せっかくなのでこの機会になにかを習得しようと、母からもらったアコースティックギターをひっぱりだして『風の谷のナウシカ』を練習。午後じゅう、えんえん金色の花びらを散らす。夜は仕込んでおいた塩豚とたっぷりの葉野菜、香草、薬味でサムギョプサルのようなものと、豆腐と卵の味噌汁に大人だけ豆板醤を足してチゲ鍋風に。皿を二枚割った。

BACKNUMBER aggiiiiiii 明るけりゃ月夜だと思う
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第1回:多様な生き方、暮らし方
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第1回:多様な生き方、暮らし方

閃いたのは、新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーを想定しながら最新のテクノロジーによって生み出されたデジタルヒューマンです。揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事に家事に家族とのクリエイティブな毎日を楽しむ『Fasu』的な暮らしを送る母親像をあらゆる面からキャラクタライズして生まれたこの女性は、私たちが生きる、ほんのちょっと先の未来を想定して生み出されました。 コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を歩む私たちですが、このデジタルヒューマンが暮らすちょっと先の未来では、果たして私たちは、どのような家族のかたちを求めて、どのように暮らしているのでしょうか。そんな未来の家族のあり方を、グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」でデザイン、アート、サイエンスほか多岐の分野に亘ってデザインエンジニアを務める緒方壽人さんに3回にわたってお話を伺います。第1回目である今回は、家族での長野県・御代田への移住と、10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方にいて訊ねました。 これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。 「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」 そう前置きしながら、控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。   〜〜 中略 〜〜 WHAT’S DIGITAL HUMAN? 揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。 最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。 このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。 デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。 問い合わせ先:

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